芹沢亀吉
2026-05-14 07:36:09
3486文字
Public 怪奇
 

全裸探偵

暴虐かつ悪趣味、そして勘違い野郎な楠木武一等陸佐が恥をかく物語の通算127話目。本編を読めば楠木武に探偵の資質があるのかどうかよくわかる筈。

 信太山駐屯地所属の乃木のぎまさる一等陸曹は軽薄な振る舞いが目立つ女好き。見境無くキャバ嬢に手を出しミナミ(※大阪市中央区の難波、心斎橋、道頓堀、千日前の繁華街、歓楽街の総称)のキャバクラ全店から出入り禁止にされている。そんな乃木が、死んだ。彼の遺体が発見されたのは信太山駐屯地の建屋内。階段下に仰向け状態の遺体は両目が見開かれたままかつ後頭部から夥しい血が。

「乃木は良い部下だった!そんな乃木を殺した犯人を俺は何としてでも突き止める!この楠木くすのきの灰色の脳細胞に解けない謎など無いのだ!犯人め、首を洗って待っていろ!」

 事件現場に赴き乃木の遺体を目にした彼の上官、楠木たけし一等陸佐のこの発言だけ見れば部下思いの上官に見える。しかしながらこの一等陸佐は粗暴かつ独善的な振る舞いが目立ち、部下に罵声を浴びせ暴力を振るうのは日常茶飯事とお世辞にも部下思いの上官とは言えないのが実情。生前の乃木も自分より階級が下の自衛官を粗雑に扱い、特に同期入隊の湊川みながわまもる二等陸曹に対しネチネチ嫌がらせを行うクズだったのでこの上官にしてこの部下ありといったところか。

 早速楠木は他の部下達を呼び集めた。

「皆も知っての通り、乃木一曹が今しがた亡くなった!遺体を見たがあれは明らかに階段の上から突き落とされている!犯人は事故死に見せかけたつもりだろうが、『刑事コロンボ』を全話観て並外れた推理力を培ったこの楠木の目は誤魔化せん!犯人はこの中にいる!」

 ちょっと待て、本当に乃木の死が殺人事件なら楠木も容疑者だろ。何勝手に探偵ぶってるの?

「正直この楠木も可愛い部下達を疑うのは辛い!だが乃木の無念を晴らすためにも必ずこの楠木が犯人を突き止めねばならんのだ!だから心を鬼にして真相究明に邁進する!」

 普段から部下達に罵声を浴びせ暴力を振るうのを楽しんでいる癖に、「可愛い部下達を疑うのは辛い!」と宣い善人面するな、この自衛隊ヤクザ!

 当然ながら部下達は事あるごとに罵声を浴びせ暴力を振るう楠木を内心毛嫌いしていて、旧日本軍の将校宜しく口髭を生やしている彼を「便所タワシヒゲ」と陰口叩く者も少なくない。その陰口を部下達の間に広めたのは他ならぬ乃木であり、今現在楠木の話を黙って聞くフリしている部下達の中には「あの便所タワシヒゲ、乃木の陰口に気付いて逆上し階段から突き落とし、自分が犯人であることを隠すために探偵ごっこしているんじゃないの?」と彼を疑う者も。

 生前の行いが悪過ぎたため乃木を恨む者が大勢いて容疑者を絞ることもままならず、短気、粗暴、大雑把、勘違い野郎と探偵の資質皆無な楠木に真相を解明するのは余りにも荷が重い、重過ぎる。そもそもこれ本当に殺人事件なの?

「この名探偵楠木に尻尾を掴ませんとは中々手強い犯人だな!だがこの楠木には切り札がある!見ろ!」

 そう言うや否や楠木は衣服も下着も全て脱ぎ捨て運動不足に加え缶コーヒーの飲み過ぎが祟った50代のオッサンのブヨブヨ裸体が露わに。

「これぞこの楠木の切り札!名付けて全裸探偵だぁ!この楠木のミケランジェロのダビデ像並に美しい裸体には特別な力がある!心清き者はこの裸体に見惚れ、心にやましさがある者はこの裸体を見ることが出来ずに思わず目を背けてしまうのだ!現に心清きこの楠木は入浴する度壁の鏡を見て我が裸体を満喫している!そして今この楠木の裸体から目を逸らした者こそ心にやましさがある者、即ち乃木を殺した犯人!」

 この楠木の世迷言は突っ込みどころだらけ。正直私も何処から突っ込むべきなのか全然わからない。今部下全員が楠木のブヨブヨ裸体から目を逸らしたんだけど、まさか全員が犯人とでも?

「そうか、ここにいる俺以外の全員が犯人だったか!かの『オリエント急行殺人事件』のように全員が結託し乃木を亡き者にしたのだな!エルキュール・ポワロがあの事件の真相を解明するよりも短い時間でこの楠木は乃木殺しの犯人を突き止めた!つまりこの楠木はポワロ以上の名探偵ということだぁ、グハハハハ!」

 いや違う、それ絶対違うから!この全裸男は何処まで勘違い野郎なの?それにしても調子に乗った時の楠木の笑い声のやかましさ、下品さときたら。