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Isa
2026-05-13 20:22:46
5156文字
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しかたのないやつ!
昔と今のガスリゼがお話してるだけ
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「前にもこんなことがあったな」
リゼットは昔の話をするのが嫌いだ。というか、滅多に口にしない。アニエスのことは、リゼットにとって過去ではないのだろう。遠く触れられなくなってもなお疼く傷が、どれだけ時間を掛けても正しく塞がってくれない。
大切な妹を失っても笑えることが苦しいのかもしれない。復讐を果たしたと報告できないことが、どこかで心を縛り続けているのかもしれない。本当のところはリゼットにしかわからない。
ガスパルは、アニエスのことをただ忘れていくよりも、あの時間は確かにそこにあったのだと確かめ合える方が良いと思うから、リゼットとは同じ考えではないのだろうなと、それだけしかわからなかった。
「俺がお前の手当てをするのなんか珍しくないだろ。すぐ鉄砲玉みたいに飛び出していきやがって」
「意味のない嘘をつくな。私たちが同じ任務に当たることなんか数えるくらいしかないだろ」
ガスパルはリアクターを起動して、リゼットの傷を治療しながら舌打ちをした。覚えていなかったわけじゃない。かっこ悪い思い出だったから、なんとなく誤魔化してみただけだ。肝心な時に冗談に乗ってくれないのは、リゼットの厄介なところである。
「変な嘘はつくくせ、本当には嘘をつかないな、お前は」
「んだよ、それ」
「ずっと一緒にいるとか言って、危険を承知で手紙を送ってくるわ、こっちの任務に首を突っ込んでくるわ、見ているこっちの身にもなれ」
「そっ
……
んな、言い方はしてねえだろ。つーか、こっちの台詞だからな!? お前の方がよっぽど無茶しまくってるだろうが!」
昔の自分は、そこまで真っ直ぐな言い方をしただろうか。ガスパルは急に小っ恥ずかしくなって、早口で捲し立てた。言ったような、言わなかったような。
それにしても、リゼットがこうして話に出すくらい、あの時のことを覚えていたのは意外だった。昔のリゼットは、何を言っているかよくわからない、という顔をしていたから、てっきり少しも伝わらなかったのだと思ったのに。
「昔は
……
、本当に、お前を巻き込みたくなかった。アニエスを失って、お前までとなれば尚更。あの子に合わせる顔がない」
「
……
そりゃ、ずいぶん勝手なこった」
「そうだな。お前の意思を確認もせず、悪かったと思ってる」
「ま、いいよ。俺を危険な目に遭わせたくなかったってことだよな」
「まあ、そうだな」
「
……
は!?」
「なんだ、お前、私が血も涙もない人間だとでも言いたいのか」
「いや、そうじゃな
……
、いえ、なんでもございません」
そうじゃない、そこじゃないだろ、と突っ込みたい気持ちを抑えてガスパルは苦労して言葉を飲み込んだ。貴重なリゼットの本音を、茶化して聞き逃すわけにはいかない。
随分と素直だなと思ったが、まあ、でも、ずっと昔から、俺たちはお互いのことが大事だったのだ。それは間違いないことで、リゼットも、ガスパルがふざけさえしなければ、それを否定することはない。昔から変わらないものも確かに残っているのだと思うと嬉しかった。
「お前の言ったことを、ずっと考えていたんだ」
それは知らなかった。何を言っているんだこいつはとばかり、すっかり忘れてしまったと思っていた。確かにそれも、確認したことはなかったが。
「でも
……
私には、私が償うべき相手が、一人いる」
ユーゴのことだ、と確信する。暗示をかけ、記憶を奪い、命を救った。とはいえ、彼にとってリゼットは、復讐すべき相手でしかない──帝国の仕業と見せかけて、愛する故郷を滅ぼした連邦という悪の象徴が、リゼットの形をしているからだ。
連邦を裏切ったユーゴの、憎悪を宿した目を、ガスパルも見たことがある。これがリゼットに向けられることを思うと耐え難い気分になるというのが、正直な感想だ。
けれどリゼットはその憎しみを、本来ならば命を助けた恩を売ってもいいはずの相手からの理不尽な感情を、いつだってまともに受け止めようとしていた。
ガスパルは嫌な予感がした。けれど、リゼットの表情には、静かな決意だけがあって、そこに昏い衝動は見当たらなかった。それがますます危機感をかき立てる。
「お前、まさか
……
」
「言えば、お前は止めるんだろうな。
……
だから、私を止めてみろ、ガスパル」
「
……
はあ?」
リゼットは何も明らかに語らなかった。治療が済んで傷の消えた腕の様子を確かめながら、静かに言葉を続ける。
「お前がいると、私は上手く死ねないから」
痛みを伴った微笑を浮かべて、けれどそれはどこか柔らかい。わからない、という顔をするのはガスパルの番だった。
「こういうときのお前の顔を見ると、ひどく責められている気がして、上手く動けなくなる」
「
……
。んだよ、それ」
「今度、鏡を見せてやろう」
「遠慮しとく
……
」
ガスパルはリゼットの横顔を眺めた。昔はなんだか遠く見えたのが、今は手を伸ばせば届く距離にいるような気がした。多分、気を抜くとすぐに遠くに行ってしまうのだろう。それこそ、彼女が大事に思っている教え子のためにと命を投げ打つことも厭わないのかもしれない。
でも、少なくとも今はここにいる。抜け道もわからず、辺りを照らす光も見えない。共に囚われているこの場所に。
互いの表情が見える距離にさえいれば、リゼットのことを引き留めることができる──。
「
……
よくわかんねえんだけど。いつでもその情けない俺の顔を思い出してくれりゃあいいだろ」
「自虐的だな。情けないとまでは言ってない。それと、私はできない約束はしたくないんだ。お前と違って、私は噓つきだからな」
「そうだな、それが嘘だもんな」
「私は、これ以上あいつを裏切りたくない。
……
だから、約束はできない」
「
……
、わかった。俺にも譲れないもんがあるんでな。お前の教え子には悪いが、全力で引き留めに行かせてもらうとするよ」
リゼットの顔は寂しげなものに変わっていた。どうしてお前がそんな顔するんだよ。どうしてもそれを口にできなくて、俺は思わず手を伸ばした。
「痛いぞ、ガスパル」
「うるせえ、黙って引き留められてろ!」
珍しく、リゼットが小さな笑い声を上げた。このまま腕の中に閉じ込められるような女なら、どんなに良かったか──ああ、本当に、仕方のないやつ!
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