芹沢亀吉
2026-05-08 22:43:19
4380文字
Public 怪奇
 

楠木美術館

暴虐かつ悪趣味、そして勘違い野郎な楠木武一等陸佐が恥をかく物語の通算126話目。いくら美術館に行くのが趣味の私でも「楠木美術館」は絶対嫌だ。あと残忍描写濃い目なので閲覧注意。


「美味い、これは美味い!実に美味い!何という美味さだ!この俺が自衛官として毎日汗をかきこの国を守り続けてきたから今これが食えるのだな、グハハハハ!」

 甘い物好きな武はすっかりアイリス・ケーキが気に入った様子。漸く双子の兄の機嫌が良くなり先程から内心ヒヤヒヤしていた力もホッと胸をなでおろす。テラス席にいる他の来館者達が武の下品かつやかましい笑い声に眉をひそめているような気がするが。

「うむ、この美しい景色にはこの俺様の美しき全裸がよく似合う。」

 そう呟くや否や武はいきなり衣服も下着も脱ぎ捨て、運動不足に加え甘い物の食べ過ぎ、缶コーヒーの飲み過ぎが祟ったブヨブヨの裸体が露わに。見たくもない弛んだ裸体を見る破目になったテラス席にいる他の来館者達が悲鳴を上げ、余りにも突然過ぎる事態に力も発するべき言葉が見つからない。もしかして武はアイリス・ケーキに含まれるラム酒に酔ってこんなことを?いや、違う。普段から武は勤務中にも拘わらず事あるごとに部下達に己の弛んだ裸体を自慢している。要するに露出魔気質の持ち主ということ。

「そうだ、良いことを思いついたぞ!この俺の裸体を模した美術品をこの美術館に展示するんだ!ミケランジェロのダビデ像に匹敵するこの俺の美しい裸体こそ至高の芸術だからな。おっと、俺の裸体は毎日大要を浴び続けた小麦色故冷たい大理石製のダビデ像には無い温かみがあったか。そんな俺の全裸の美しさに来館者は感動間違い無し!入館料一万円でも安過ぎるぐらいだ!これでお前の会社も大儲け!力、良い兄を持ててお前幸せ者じゃないか、グハハハハ!」

 武が全裸姿のまま余りにも滅茶苦茶なことを宣うものだから、力は開いた口が塞がらない。おそらくはこのくだりを読まれた読者の皆様も開いた口が塞がらないかと。

 今まで兄のやりたい放題を黙認してきた力も流石にこの滅茶苦茶な思い付きは却下すると思いきや、何と他の取締役全員の猛反対を押し切り『楠木美術館』と題した武の裸体を模した美術品の特別展を大山崎山荘美術館にて開催することに。何を隠そう力は事業を拡大する際暴力団の力を借りていて、暴力団との癒着の証拠を握られているため兄武がどれだけ滅茶苦茶しようと止められないのだ。

 帰宅した武は配偶者の久代ひさよが作ってくれた夕食を食べ始めたと思いきや、米飯の上に自分の口髭が1本抜け落ちたのを彼女の毛髪と勘違いし大激怒。

「何だ、この不潔なのは!?毎日汗をかき貴様の分の食い扶持を稼いでいる俺に髪の毛の混じったメシを喰わせる気だったのか!」

 それ自分の口髭なんだけど。

「違います、私の髪の毛ではありません。」

「久代、貴様この俺にそんな嘘が通用するとでも思ったか!俺は『刑事コロンボ』を全話観て推理力を鍛えたからそんな見え透いた嘘には騙されん!大体こんな汚いチリチリした毛髪が貴様のでなければ一体誰のものだというのだ!?」

 だからそれ武、アンタの口髭だって。

「貴様のような根暗女がこんなに温和で嫁想いの亭主を持てただけでも身に余る幸せなのに、恩を仇で返す気か!この裏切り者めぇ!」

 自宅にいる時は頻繁に久代に暴言を吐き暴力を振るうクズの何処が「温和で嫁想いの亭主」なのやら。そもそも配偶者を「嫁」と呼ぶこと自体が「女は家にいて外で働く男を支えろ!」という武の強い男尊女卑思想に基づいているのはここに書くまでもないか。

「おい久代、しっかりしろ!久代!フン、脆い女だ、この程度でくたばるとは。」

 怒りに任せて久代の首を絞め殺害しておきながらこの言い草、人間のクズというのは武のためにある言葉だろう。我に返った殺人犯武がまずやったのは久代の遺体を裏山に埋めること。おい、早く自首しろ。