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かべこ
2026-04-29 00:12:57
11920文字
Public
春が降りそそぐ
※いこさんお誕生日記念にかいたはなし
※付き合って10年以上経ってるいこみず
※いこみずワンライに投稿したお題「アクセサリー」が元の話になってますので、1Pめはその話です。本編は2Pから。
※ボーダー就職ifです。全体的に設定がしっかりしてません。大丈夫な方向けです。
※年齢も30代中盤ぐらいを想定してます
※捏造トリオン攻撃あります
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それは、願いでもあり、祈りでもあり、誓いでもあった。もしそれらの輪郭を形どったらこんな形になるのだろうか。
「
……
おはよ
……
?」
「起こしましたか」
「早起きやな
……
ほんで
……
どうしたん」
起き抜けにこの状態であったらそうも聞きたくなるわな。そう思いつつ、そこから退くことはしなかった。
今、俺は健やかに寝ていたイコさんの胸の上あたりに跨がっている。腰を落とすとさすがに起きるだろうと腰を浮かしつつそっと行動したつもりなのだが、気配に聡い人なので無駄だったようだ。
「おはようのチューでもされるんかと思ったけど、首に手ぇ伸びてきたらさすがにびっくりしたわ。なんかしたっけってめっちゃ焦ってもうた」
「なんや、起きてたんすね。いや驚かすつもりはなかったんですけど」
そう言いつつ体の上から退こうとすると、腕を掴まれそのまま胸の上に引き倒された。
「それ、どこに置いてあった?」
「洗面所にありましたよ。忘れんうちにつけとこ思いまして」
「おおきに。風呂入る前に外したんやわ」
「それ」とは、リング付きのネックレスである。プラチナのベネチアンチェーンについたリングホルダーの先には、飾り気のないシルバーの指輪が引っかかっている。
俺の薬指で鈍く光っている指輪と同じデザインだ。
「でも、ほんまキュッと締められると思ってどないしようかと思った。違う意味でドキドキしたわ」
「そうはならんでしょ」
「いや日頃の恨み辛みとか」
「そんなんあったらもっと上手くやりますわ」
「それもそやな。で、つけてくれへんの?」
「俺が?」
「つけようとしてくれてたんやろ?」
「そうですけど、起きたやないですか」
「じゃあもっかい寝るわ」
そう言って目を瞑ってしまった。こうなったらこっちがやるまで動かないのは長年のやりとりの中で散々思い知らされている。
よいしょと声を出しつつ再度起き上がりイコさんを跨ぐ。じっと目を瞑って微動だにしないところをみると、なんか悪戯したろかという気持ちにもなる。が、とりあえず目的を達成させるかとチェーン両端の金具を持ち、そのままイコさんの首の後ろに手を回して、もぞもぞと手探りで金具を止めた。手が首に触れた時、ピクリとしていたので金具から指を離し、そのままぐるりと手のひらをイコさんの首に這わした。
「つめたっっっ!!!」
おもむろに目を開いたイコさんは俺の手に手を重ねてきた。
「おまえ手がヒエッヒエッすぎん?!」
「イコさんがほかほかなんじゃないんですか?」
さっきまで寝ていた人間とそうでない人間の違いではないだろうか。しかし、重ねられた手からあっという間に熱が移るのを感じた。
「つけれましたよ」
「うん」
「忘れんといて下さいね」
「当たり前や。これがないと寂しくて力出ぇへん」
──もう十年以上前の事になるのだろう。二人でともにこの町で生きていく事を決めた時、揃いの指輪を買った。
そう決心するまで、戦場でも、日常でもたくさんのことがあった。それでも、必ずお互いのところに帰ってくると誓い合った。
ただ、イコさんは今でも剣を振るうことが多い。指輪をつけることで長年の手先の感覚が変わってしまうのは良くないのでは、と俺が追加でネックレスチェーンを贈った。本人はトリオン体だしそんなに気にしないとは言っていたが、壊れたり無くしたりするのも嫌だからと常に首から下げているのだがひとつ例外もある。
一度これをつけたまま致した時に、事あるごとに俺の顎あたりにべちべちと指輪がぶつかってきていた。ムードもへったくれもないがどうしても耐えきれず、最中に二人で笑いながら行為を中断したことがあり、それ以来その時だけは外している。
「遠征かぁ」
「久々ですね」
「若手も育ってきたんやから、そろそろ俺行かんでもええやろ」
「普段はそうかもしれませんが、そうはいかへんから呼ばれとるんでしょ」
「そうやけども」
この組織に長くいるということはそういうことだ。そして俺なんかよりこの人がそういう場所に赴くことの方がはるかに多い。はじめは誰よりも近くでその背中を眺めて来たというのに。
「行きたないなぁ」
「
……
どないしたんですか?グズるなんて珍しい」
「珍しかないよ。おまえとこうやって話しとると、ずっとこのままでいれたらなって思う時ぐらいある」
「
………
」
そんなこと、俺も同じや。
親指を少し動かして硬い喉仏をそっとなぞる。
「このまま、ここに力入れたらイコさんの望みが叶うかもしれませんね」
ついでに俺の望みも。少しだけ指にグッと力を込める。何の抵抗もなく指が沈む。
「でも、そうしたら俺あんたを追わなあかんくなる。俺はまだ死ぬのはゴメンですよ」
「
………
そらあかんな。俺はおまえに長生きしてもらわな困る」
「そうですよ。ちゃんと帰ってきてもらわんと、困りますよ」
イコさんの首からそっと手を離し、今度はそこで光る指輪を手に取り、背を丸めてそれに唇を落とした。
俺の代わりについていくんやから、ちゃんとよすがになれやとひっそりと願いを託す。この指輪を握り締めて力尽きることなんてないように、ちゃんと俺の元に帰ってくるようにと。今は、この小さな指輪に対して重すぎる願いを託すことしかできなかった。
「おまえには敵わんなぁ」
イコさんは俺の顔を両手で包み、そしてそのまま、そっと触れるだけの口づけをした。
「忘れ物大丈夫かな」
「あってもなんとかなるでしょ」
「いっつもあとで思い出すんよ。あれどうにかならんかな」
「もう割り切って下さい。なくて困るものだったら遠征挺に積んでありますよ」
「まぁこれがあれば何とかなるか」
「そうですよ」
「それじゃ、行ってくる」
そう言って、俺の手を取り薬指にそっと唇を寄せた。その姿を目に刻むようにして見つめる。
「ちゃんと帰ってくるから」
「ええ。次の春になったら、また会いましょ」
「おん」
「
……
お気をつけて」
少しだけ寒さが緩み、早い春を思わせるようなそんな日だった。柔らかな朝の光を受けて、その指輪は鈍く煌めいていた。
冬が、もうすぐ終わろうとしていた。
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