冬暁
2026-04-27 10:30:55
6287文字
Public 鳴保
 

夏シチュビンゴ2種(水族館,遊園地)

なんさんが書いていたビンゴに参加させてもらったやつです。遅くなってしまいましたが、参加させていただきありがとうございました!


つまりホンモノ?


 重苦しい空気を纏い、聳え立つ建物があった。周りから聞こえる高い声が、よりその不気味でおどろおどろしい外装を強調する。
 ごくり、と唾を飲んだ。そんなボクの様子にニンマリと隣の男が笑ったのが見えた。
「鳴海さん、お化け苦手やったんですねぇ」
「はぁっ!? 苦手じゃないが!?!?」
「如何にも怖いですって顔しとるやないですか」
「してない!! むしろお前こそ実は怖いんじゃないか!?」
「まさか。お化け屋敷なんて作りもんやないですか」
 その通りだ。ボクもわかってる。戦場ではより凄惨なものを見ることもあるし、それに比べたら作られた恐怖なんて目じゃない。
 分かってはいるが、この空気感が昔から苦手だった。
 周りから聞こえるアトラクションを楽しむ声とは反対の、恐怖に上がる悲鳴。それはもちろん、その恐怖すら楽しんでいるものなのはわかる。むしろ楽しむために作られた恐怖だからこそ、ボクは苦手なのかもしれない。
 いっそ夜の墓場に行く方が数倍マシだ。
「やっぱりやめときます? 僕はかまへんですよ」
……ッ、やめるわけないだろ! さっさと行くぞ!!」
 スタッフから懐中電灯を受け取り、薄暗い屋内へと踏み込む。道順を示す矢印を辿りながら、出来る限り周りを見ないように足を進めた。ひやりと足首を撫でる冷気が気持ち悪い。微かな機械音がいやに耳につく。
「鳴海さん」
————!! な、んだよ」
「ビビりました?」
「ビビってない!!」
 笑うような声にピキリと青筋を立てる。余計なことすんな!
 ライトに照らされた室内は廃病院を模した内装をしている。ヒビの入った壁。血に濡れたシーツ。消毒液のツンとした臭いが漂うのが生々しい。病室一つ一つを確認して回ろうとする奴をどうにか無視しながら出口を目指す。
「〜〜〜〜ッ!?」
 不意に、冷たい何かが背中に触れる。関節が強張り、心臓がバクバクと跳ねる。
 そ、っと首を回す。
「お、まえ……! なぁにしとんじゃワレェ!!」
「歩くの早すぎなんですよ」
 ボクの服をつまむ手を思わず叩き落とすと、保科はその手をさする。心臓が口から飛び出すかと思った。
「さっきからなんなんだお前は! 余計なことすんな!!」
「やっぱ怖いんやないですか」
「怖くないゆーとるやろがい!!」
 こいつといたらいつまでも出られん。
 ボクは出口があるだろう方向へと再び顔を向けて——、息を止めた。
 血に濡れ、真っ赤なナース服を着た女。頬の肉が削げ落ち、その下の黄ばんだ歯がにちゃりと音を立てて露わになっている。
……ぎッ」
 天を仰ぐ。仰いだ先からポタリと冷たい何かが落ちた。水、水だろこれは。水なのは分かってるんだが!
「うわ、リアルやなぁ」
 後ろから呑気な声が聞こえてくるのが腹立つ!!
 ナースはぺちゃ、ぺちゃ、と音を立てながら病室へと入っていった。臭いがないだけマシだろ!!
 袖で顔についた水を拭う。ふぅ、と息を吐いたところでこれがまだ始まったばかりだと気づいた。
 ふざけてる。なぜボクがこんな思いをしなきゃならん? いやこいつに揶揄われるのが腹立つからだが。
 おかしい。ボクたちは付き合ったばかりで、普通ならこう、もう少し甘ったるい空気になるもんじゃないのか?? 恋人というより友達……
 そもそも恋人らしいことなんて、して、ない??
 キスはした。オーラルはしたが、普通のセックスはまだ。まぁ、それは仕方ない。休みがそもそも重なることが少ないのも、互いに役職持ちだから仕方ないとして。好きとか、あの日以来————
「鳴海さん」
「なん、だぁああッッ!?!?」
 
「あははははッ!」
 見事に絶叫した鳴海さんに笑いが止まらん。打ち上げられた魚のように飛び跳ねた後、ビタッと壁際に張り付いた。僕の後ろにいたスタッフが鳴海さんへと近づいていく。「わぁぁッ!!」と叫んで走る姿が面白くて、つい出る笑い声に恨めしそうな視線が飛んできた。
「普段もっとエグいもん見とるやん。それに比べたら全然マシやないですか」
「ボクはジャンプスケア系が苦手なんだよ……ッ!」
「ジャンプスケア?」
「ホラゲでびっくりさせる系のやつ」
 説明しながら鳴海さんは物音に息を飲む。そろそろと進みながらオペ台の上で行われる悍ましい姿に悲鳴を殺していた。
 いや、絶対ホラー全般苦手やん。
「鳴海さん」
「なんだよ」
 手を繋ぐと鳴海さんは訝しむように見てきた。
「またさっきみたいに置いてかれたら困るんで」
「なんだ、お前も怖いんじゃないか」
 仕方ないなァ、ともにょもにょ嬉しそうに頬を緩める鳴海さん。怖いの認めてもうてるやん。ほんま可愛い人やなぁ。
 歩き続けていると、ナースや患者。医師が現れては驚かせていく。その度に律儀に驚く鳴海さんに、心なしかスタッフも満足そうや。
 全力で握りしめられた手は少し痺れとって、さすがと言うべきやろか。スーツがあるとはいえあのデカい武器をぶん回してるだけはある。
「そろそろ出口みたいですね」
「あぁ……
 ぐったりしてる鳴海さんに小さく笑って、出口と書かれた方へと足を向ける。と、手を引かれて立ち止まった。
 鳴海さんがジッと何かを見つめてる。ここまで視線を彷徨かせて早足に来ていた分、珍しい姿だった。
 視線を辿るとそこには子供がいた。低学年くらいの小学生。痛々しい傷が腹に大きくできている。
「怪獣か」
 鳴海さんの呟きに納得した。あの子供の姿は、ある意味僕らにとって避けたい。せやけど避けられずに見ることの多い姿。
 子供は小さく頷いた。今まで見てきた中で一番生々しいと感じるのは、その記憶を重ねやすいからやろうか。ある意味一番怖いとも感じる。
 子供の視線に合わせるように鳴海さんがしゃがんだ。手を引かれるままに僕もしゃがむ。
「怪獣はボクたちが倒す。なんせボクは防衛隊最強の男で、こいつはその次くらいには強い。どんな怪獣だって敵じゃない。だから、安心しろ」
 子供はその言葉に安心したようにふわりと笑って——、消えた。
「消えた??」
「何やってんだ早く出るぞ」
 強く手を引かれながら子供がいた場所を見る。プロジェクター? いやそれっぽいもんはないよな?
 一番ビビりそうな鳴海さんが一番冷静なんがまた怖すぎるんやけど。
 今の、なに??
 まさか。まさかな?
 そう思えど、ぞわぞわと背筋が冷たくなるような気配が消えない。出口を潜ってからもがっしりと手を繋いだままの僕に、鳴海さんは嬉しそうに笑った。
 いや、それどころやないんやけど!?


Posted by 冬暁/薄明