mishiadd
2026-04-26 23:28:09
11797文字
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ツツジの花の咲く頃に

【現パロ/本編軸】GWなので今年もまた怖い宮本伊織が美味しい季節がやってきました(じっとり系ホラー風なんにも起こらないただ宮本伊織がいるだけの小咄集)【その他】

その壱、『親戚のお葬式にふらりと現れる宮本伊織さん』



疎遠にしていた伯父の葬式でした。

通夜は既に済んでいて、うちは他県に住んでいましたので葬式だけ出たんですけど。

三、四年前のことですから、私はまだ中学生で、喪服らしい喪服もなかったので制服で出ました。本当は見たいドラマの最終回があったのに急に新幹線に乗ることになったので不貞腐れていたのを覚えています。駅弁買いましたけど、そんなのでは機嫌なんて直らなくて。

名前だけたまに聞く程度で、盆や正月にも顔を合わせることなんてなかったので、本当になんで知らない人の葬式なんか急に出なければいけないんだろうって。

実際、葬儀場は本当に小さくて、知り合いや友人なんて殆ど亡くなってた祖父の葬式の方が弔問客が多かったくらいで。私と同じように突然呼びつけられて、自分とどういう関係の人なのかもわからないまま出席させられてるいとこたちの他には、それよりはいくらか事情がわかってるふうの顔をした親戚の叔父さんや叔母さんたちがいましたね。
でも、誰ひとり悲しそうな顔してなかったですよ。別に清々するって顔でもなかったので、単純に皆誰も故人のことをよく知らなかったんじゃないかな。

基本的には知らない人はいなかったです。親族の他には、近所のタバコ屋のおばちゃんとか。死んだ伯父さんがたまに買いに来てたからとかで。



だから、ですかね。その人が会場に入ってきたとき、皆ちょっと物珍しげに注目したんですよ。誰もその人のこと知らなかったので。



綺麗な顔立ちの男の人でしたね。制服着てたので高校生だったんだと思います。高校三年生とか。

誰も知らない中で、ひとりでパイプ椅子の間を通って、お焼香上げてました。立ち姿がすっと真っすぐで姿勢がよくて、背の高い黒の学ランの背中が凛としてて。誰、って隣のいとことこっそり顔を見合わせてました。
生前、伯父が何をしてたのか知りません。学校の教師だったなんて聞いてないし、家庭教師とか、塾の講師とか――そういう、男子高校生と知り合うような何か、してたんですかね。

その人がお焼香上げる前と上げた後、ちょうど私の横を通って行ったんです。――なんだかすごく、甘くていい匂いがしました。蜜と花の香りの中間みたいな。瑞々しくてすっきりしたいい匂いなのに、どこか鼻の奥に引っ掛かるみたいに甘ったるくて。香水じゃなかった。……でも、残り香がずっとありました。

お焼香上げるだけ上げて、一礼したらその人帰っちゃいましたね。こう、ぴっちりと長い指の先を揃えて、背筋の伸びた斜め四十五度の――武芸とかやってる人みたいなお辞儀でした。剣道部とかだったのかもしれないです。

ちょっと、この世の人じゃないみたいでした。私ぼうっとしちゃって、かっこいいって、いつもみたいに騒ぐ気にもならなかった。お葬式終わって隣見たら、いとこも似たような感じでしたね。ミーハーでアイドル好きだから、かっこいい男の子見たら真っ先に騒ぐタイプだったんですけど。なんか、そういうんじゃなかった。その人のこと、あんまり口にしたらいけないような気もしましたし。

結局、その人が誰なのかもわからずじまいで。喪主の伯母に聞けばよかったんでしょうけど、なんだかそれも憚られた。――なんとなく、あの人のことは皆見て見ぬふりをしてる感じがしました。親戚一同の中で、あんな人は来なかった、っていう扱いになってた気がするんです。

遺産狙いだったんでしょうかね。でも、伯父にはほとんど財産なんてなかったって聞いてますよ。だから本当に、ただ単に弔問に来ただけだったんだと思うんです。どこで知り合って、どういう関係だったのかわからないですけど。もしかしたら、あの男の人は伯父に恩があって――もしかしたら、その逆なのかもしれなかったし。もしかしたら全然そういうんじゃなくて、あの男の人はどこかに所属していて、そこの代表として弔問に来ただけなのかもしれなかったし。本当に、誰も何もわからないんです。探ってもいけないことになっている。知ろうとしてはいけないことになっている。

もしもう一度、あの人に会うことができたら? そうですね、会ってみたいかもしれないですけど――いや、やっぱりいいかな。やっぱりちょっと怖いです。あれから四年経って、私も大学生になりましたから、少し思いますよ。世の中には知らなくていいこともあるって。一瞬だけ、たまたまそばを通りかかってしまうこともあるけど――そのまま、見なかったふり、気付かなかったふりをしてやり過ごすのが一番いい。触らないのが一番ですよ。

そういえば、あの男の人の残り香があったって言ったでしょう。あれ、随分後になってわかりました。ツツジの香りでした。

伯父の葬式で喪主だった伯母が、翌々年のゴールデンウイークの頃だったかな、帰省してたときにたまたま鼻を摘まんで言ってたんです。ツツジの香り、わざとらしくて嫌いやわ、って。――ああそれで、これってツツジの香りなのか、って。



わざとらしいですかね。私はとてもいい匂いだと思ったんですが。






その壱、『親戚のお葬式にふらりと現れる宮本伊織さん』・了