七海ななみ
2026-04-22 17:59:03
5056文字
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思い出せなくても、愛してる③

待たせてごめん。たくさん思い出を話そう。

ルカキリ。転生記憶持ちファルカ×摩耗してファルカの事が思い出せないフリンズ
死ネタ。メリバなハピエン。転生前は恋仲。ファルカが記憶持ちで転生して、フリンズに会いに行ったら摩耗してファルカの存在以外を忘れられた話。
ほらハピエンじゃん!ハピエンって言ってたでしょ!

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思い出せなくても、愛してる① | Privatter+ https://privatter.me/page/69e607d496d8d
思い出せなくても、愛してる② | Privatter+ https://privatter.me/page/69e747155e1e0



テーブルの向かいに、誰かがいる。
テーブルの上には、主を失った神の瞳が置かれていた。

『最期に、フリンズさんにこれを渡してくれ、そう言って息を引き取ったよ』
…………そう、ですか』
『残念だけど、埋葬はこちらで行わせて貰った。立場の問題もあったからね。……すまない』
……………いえ、とどけて、くれて……ありがとう、ございます』

これは、彼の訃報を聞いた時の思い出だ。

……───っ!!!」

悲しくて、寂しくて、心のよすがに墓を作った。

「───っ!!!」

骨はないから、神の瞳を埋めたんだった。

「キリルっ! 目を開けてくれっ!!」


───────


誰かが、呼んでいる。彼、だろうか。
目を開けると、ファルカさんが顔を覗き込んでいた。
彼と重ねてしまった夢を思い出し、逃げようとしたが、できない。
身体が、動かせない。酷く怠い。このまま眠りたい。
この時が来たのか。埋葬の話を、しなければ。

……ファルカ、さん」
「キリル、今、助けを呼んで ───」
「ちかしつに、にっきが、あります」
………キリルっ!」
「かれの、おもいだせたことを、かいてあります。いっしょに、うめて、ください」

…………フリンズは、もし、彼に、会えたらどうするんだ?』

………もう、あうしかくが、ない」

ごめんなさい。思い出を穢してしまった。裏切ってしまった。会える顔など、ないのだ。泣く資格もないのに、涙が溢れてくる。涙を拭う力も、ない。
せめて、日記だけは持っていきたい。それだけあれば、耐えられるから。

そんなこと、ない!!」
…………ぇ?」
「悪いのは、約束を守れなかった俺なんだ! キリルは、俺の事を忘れても、愛してくれたじゃないか!」


「キリルが覚えてなくても、俺が覚えている!! だから、だからっ、まだ死ぬな!!」

『俺はファルカ、西風騎士団大団長で、北風騎士だ』

貴方、だったんだ。
思い出していく。たくさんの思い出が、ファルカさんと過ごした思い出が。
あの時、夜明かしの墓で、ファルカさんを見送った。

『待っています。ここで、貴方が帰ってくるのを』
『ああ、必ず帰ってくる』

触れるだけのキスをする。続きは帰ってきてからだな、そうファルカさんが言った。

『帰ってきたら、指輪を作りましょう。忘れないでくださいね』
『もちろん』

そう言って、笑いあった。
忘れてなかった! 間違えてなかった! 約束を、守ってくれたんだ。

……あなた、だったんですね」
「キリル!!」
「やくそく、まもって、くれたんですね」
遅くなって、すまない」
「あやまらないでください。ぼくも、わすれてしまった」

だから、これで仲直りしましょう。なんとか言葉を紡ぐと、強く抱き締められた。
幸せ、だ。でも、別れは、目の前にある。

ファルカ、さん」
………ああ」
「やくそく、まもってくれたのに、ごめんなさい。ぼくは、さきに、いきます」
…………っ」
「ちみゃくで、まってます。また、わすれてしまっても、ゆるしてくださいね?」
……いかないで、くれ」
…………あいして、……います」

愛しき人が、泣いている。最期の力を振り絞り、涙を拭った。
意識が遠退いていく。身体が石のように重かったのに、嘘のように軽くなっていく。
長い人生だった。人に失望したり、希望を抱いたり、忙しい人生であった。
好きな人ができた。互いに愛し合った。僕を、見送ってくれた。
これ以上の、幸せは、ない。
愛しています。先に地脈で待っていますね。忘れてしまった思い出を、たくさん聞かせてください。


──────


涙を拭ってくれた手が、落ちた。

……キリル?」

声をかけても、反応は、ない。
キリルの顔は、幸せそうに微笑んでおり、死んでいるように見えなかった。

…………キリルっ」

揺さぶっても、どれだけ声をかけても、反応は、ない。
少しずつ冷たくなっていく身体を、抱き締める。
起こした時、キリルの顔には絶望があった。
もっと早く、言えばよかった。愛していると伝えればよかった。そうすれば、苦しむことなく、逝けただろうに。
俺が、何も言えなかったせいで、キリルは苦しんでしまった。
亡骸にしがみついて、泣き叫んだ。


───────


どれだけ泣き叫んでも、キリルが生き返る訳では、ないのだ。

『彼の隣に、僕を埋葬してもらえないでしょうか。
声も、顔も、名前も、思い出せなくても、愛しているんです。彼の隣で眠りたい』

キリルは、そう望んでいた。埋葬を、しなければ。

『ちかしつに、にっきが、あります。
かれの、おもいだせたことを、かいてあります。いっしょに、うめて、ください』

地下室の、日記も、埋めなければ。
キリルの亡骸を、地下室に運ぶ。ベッドに寝かせると、静かに眠っているように見えた。
机の上に、日記がある。ページは開かれていた。

『彼は西風騎士であることを思い出せた! モンドに行けばお墓を探せたかもしれない。でも、難しいだろう。ファルカさんに頼む訳にもいかない。本当に、残念だ。
ファルカさんに、彼に会えたらどうするか聞かれた。考えた事もなかった。会いたい。愛していると伝えたい。でも、僕は彼がわからない。探すことができない。声をかけられてもわからない。なら、会わない方がいいのかもしれない。謝ることすらできないのが、辛い』

墓探しを頼もうとしていたのか。言ってくれても、よかったのに。謝る必要はないのに。約束を守れず、何も告げることができなかった、俺が悪いのだから。
震える手で、ページを捲る。ただ、キリルの事を、知りたかった。

『墓が壊れて、彼の名前すらも思い出せなくなった。何故、記録をしてなかったのか、自分の慢心さが嫌になる。もうこんな想いをしたくないので、彼について思い出せたことを記録する事にした』

『彼は、凄腕の戦士だった気がする。太刀筋に惚れ込んだ、そんな気がする。思い出せないのが歯がゆい』

『彼と、よくお酒を飲んだ気がする。酒豪、だったのかも、しれない』

『彼をよく見上げた気がする。僕より大きかったかもしれない。大きな手で撫でられるのが好きだった』

『彼と、最期に会った時の事を思い出した。何かを約束していた。少しずつしか思い出せなくて悔しい。彼との思い出を、もっと思い出したい。どうにかできないものか』

………やくそく」

前世の最期に会った時を思い出す。
夜明かしの墓で、愛しき人が見送りに来てくれた。

『待っています。ここで、貴方が帰ってくるのを』
『ああ、必ず帰ってくる』

触れるだけのキスをする。続きは帰ってきてからだな、そう言うと、フリンズは愛しそうに微笑んでいた。

『帰ってきたら、指輪を作りましょう。忘れないでくださいね』
『もちろん』

そう言って、笑いあった。


そうだ。約束を、まだ、果たせていない。
キリルを抱き起こして、キスをする。もう、熱は残っていない。この冷たさを、忘れるわけにはいかない。
紐を見つけ、キリルの右手の薬指のサイズを測る。

約束を、守らないとな」

俺が地脈に逝くまで、まだ時間はある。少しずつ、準備をしなければ。




───────




必死に走る。生きるために走る。後ろには魔物が、いる。
まだ死ぬわけにはいかないのに、どうすれば
そんな時、風を切る音がした。
魔物の悲鳴が響き渡る。後ろを向くと、魔物は大剣が突き刺さっていた。

「大丈夫か?」

老人が、魔物に刺さった大剣を引き抜く。大剣の重さにもびくともしていない。老人とも思えない、力強い男が助けてくれた。


「へえ、妹を助けるためにナドクライで商売頑張っているんだな」

老人はファルカと名乗った。墓守をしているそうだ。助けてくれたのに、夕食まで馳走になってしまった。
なんでこんなところにいるか聞かれたので、身の上を話した。故郷には、身体の弱い妹がおり、出稼ぎに行かないと薬代を払うことすらできない。商品も駄目になることもなかった。爺さんは命の恩人だ。そう言うと喜んでくれた。

「爺さんは腕が立つのに、墓守をしてるのか?」
そうだな。酒のつまみとして聞いてくれ」

そこで聞いた話は信じられなかった。
爺さんは2度目の人生を送っており、前世の恋人がここで墓守をしていたと。前世の記憶を思い出してから恋人に会いに行ったが、恋人は長生きしたあまり、爺さんのことを忘れていた。でも存在だけは覚えており、前世の爺さんの墓の隣に埋葬してほしいと頼まれた。
どんな小説の話なんだ、これは。

「信じられないか? まあ、信じられないならおいぼれの戯れ言と思ってくれ」
「信じられないだろ。まあ、本当だとしても、えげつない話だな」
「そうか?」
「恋人に埋葬を頼まれるとか、きついだろ」
まあ、きつかったな」
「なのに、なんで平然と話せているんだ?」

そう言うと、爺さんは軽快に笑った。やっぱり、嘘臭い。

「人生、長生きすると辛いだけでなくなるものだ。俺としては、見送る辛さよりも、見送れない方が地獄だった、それだけさ」
………

そういう、ものなのだろうか。俺にはわからない。

「それにな、これは神様がくれたチャンスだったと思ってる」
え?」
「よく考えてみろ。前世の記憶を思い出すなんて、ただの人間ができるわけないだろ。優しい神様が、後悔のないように、思い出させてくれたのさ、きっとな」

確かに、前世の記憶を思い出すなど、人間にできるわけがない。信じられない。
正直に言うと、爺さんは気にせず大笑いしていた。

「爺さん、本当に助けてくれてありがとう。お礼をさせてほしい。俺も商人の端くれだ。何がいいか言ってくれ。どんな品でも探してみせるさ」
………

爺さんは深く考え込む。どんな無茶振りでも叶えてみせるさ。それくらい感謝してるからな。

なら、1ヶ月後、ここに来てくれ。その時に頼みたい事がある」
「1ヶ月後? 今じゃ駄目なのか?」
「1ヶ月後だ。前には来るな。少しくらい遅れてもいい」

何故、1ヶ月後にこだわるかよくわからなかったが、了承すると、爺さんは笑顔になった。


───────


こういうことか。
1ヶ月後、爺さんの所に向かうと、墓の前で亡くなっていた。
確か、前に会った時に聞いた、恋人の墓の前。爺さんは安らかな顔をしていた。
地下室に行くと、俺宛の手紙があった。

『俺の埋葬を頼む。俺の墓は恋人が作ってくれているから、そこに埋めてくれ。地下室に、日記と指輪があるから、それも一緒に埋めてくれ。日記は読むなよ? 報酬は恋人が趣味で集めた骨董品だ。それを売って妹の治療費にしてくれたら、恋人も喜ぶ。頼むぞ』

爺さんには、足を向けて寝れないな。
山ほどある日記を集める。そう言えば、恋人が思い出をたくさん話してほしいと言っていたから、過去の思い出を日記に記録していると言っていた。
指輪は、箱に収められていた。確か、前世の約束、そう言っていたな。
何往復もして、日記と指輪を運ぶ。シャベルで恋人の隣の墓を掘ると、棺桶が出てきた。
中に、何も、入っていないよな?
恐る恐る開けると、遺体も骨もないが、何かがあった。

神の瞳?」

そう言えば爺さんも神の瞳を持っていた。退かすのもあれかもしれない。まあ、そのままでいいか。
爺さんを棺桶に入れると、爺さんが持っていた神の瞳が、棺桶の中に落ちてしまう。
カチン、と神の瞳同士がぶつかる。神の瞳は、光となって消えた。

………え?」

神の瞳って、消えるのか?

『よく考えてみろ。前世の記憶を思い出すなんて、ただの人間ができるわけないだろ。優しい神様が、後悔のないように、思い出させてくれたのさ、きっとな』

まさか、本当の話、だったのか?
………深く考えないようにしよう。
爺さんを埋めて、墓石を戻す。爺さんと恋人の墓石に酒をかける。

「爺さん、ありがとうな。地脈で恋人さんと仲良くしろよ。お幸せに」

そう言うと、優しい風が吹く。月光が、祝福をするかのように、墓を照らしていた。