七海ななみ
2026-04-20 20:02:44
3456文字
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思い出せなくても、愛してる①

ルカキリ。転生記憶持ちファルカ×摩耗してファルカの事が思い出せないフリンズ
死ネタ。メリバなハピエン。転生前は恋仲。ファルカが記憶持ちで転生して、フリンズに会いに行ったら摩耗してファルカの存在以外を忘れられた話。
メリバだと思うけど、私はハピエンと叫ぶ。

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幼い頃から、不思議な感覚に陥ることは度々あった。
あの頃はなんと表現すればいいのかわからなかったが、今ならわかる。既視感だ。
それがわかったのは、再び神の瞳を授かった時だった。触れた瞬間、記憶が一気に流れ込んで、気を失った。
夢では、過去の追体験をした。
モンドで西風騎士団大団長になり、厄災の未来を見てしまい、遠征に赴き、ナドクライで最愛に出会えたこと。
キリル。酒が好きで、気が合って、気がつけば想いを馳せていた。キリルも同じ想いを抱いている事がわかり、天に昇るような幸せだった。
一度、モンドに帰還することになり、帰ってきたら指輪を買おうと約束していた。
だけど、俺はアビスの襲撃をくらい、重傷を負い、そのまま死んでしまった。
死ぬ前に、俺の神の瞳をフリンズに渡してくれ、そうアルベドに頼んだ。そこまでしか覚えていない。
どうやら、それも300年ほど前の出来事だった。
歴史書を読んで記憶との照合をすると、俺が死んだ後はジンが意思を継いで大団長となり、モンドを守ってくれていた。
モンドは今でも自由と平和を謳歌している。よかった。
偶然か必然か、今生も“ファルカ”という名が与えられ、西風騎士団に所属していた。
前世では西風騎士団の大団長としてモンドを守っていた。今は俺がいなくても、モンドは大丈夫だ。その足で西風騎士団を脱退する手続きをしてきた。


────────


夜明かしの墓で、愛しき人が見送りに来てくれた。

『待っています。ここで、貴方が帰ってくるのを』
『ああ、必ず帰ってくる』

触れるだけのキスをする。続きは帰ってきてからだな、そう言うと、フリンズは愛しそうに微笑んでいた。


目を開けると、見慣れぬ天井だ。床はぐらぐらと揺れている。そういえば、航海の最中だった。モンドからナドクライ行きの船に乗れたんだった。
懐かしい夢だ。あれが、最期の別れになってしまった。
フリンズはフェイだ。長寿だから、今もまだ、待ってくれているかもしれない。いや、待っているかもわからない。もしかしたら、新しい恋をしているかもしれない。
すごく嫌だが、約束を守らなかったのは俺だ。その時は諦めて身を引こう。
そんな事を考えていると、あっという間にナドクライに到着した。
300年も経てば、変わらない方がおかしい。ナシャタウンという名前は残っていたが、町並みは見知らぬものだった。
パハ島にある夜明かしの墓について調べると、近寄らない方がいいと警告された。
あそこには変わり者のフェイがいる。近寄れば魂を取られるぞ。
そんな話がナシャタウンには伝わっていたようだ。
なんでも、野盗が襲いかかった時に派手にやりあったようで、住民からは恐れられているようだ。
人は未知に恐怖を抱くから仕方がないとして、違和感を覚える。フェイとして知られていても、平然と夜明かしの墓にいると思われるフリンズ。あんなに人の振りをすることに必死だったのに。
まあ、300年も経てば、考えが変わったのかもしれない。
パハ島に向かうと、夜明かしの墓の中心にあった灯台がない。300年前には古びていたから、撤去したのだろうか。近づくと、灯台は朽ちて倒れていた。撤去もままならないのだろう。
朽ちた灯台の近くに、誰かいる。
前世を思い出してから、忘れもしない、愛しき恋人の姿だ。
フリンズは俺の姿を視界に入れると、驚いたように瞬きをした。

これはこれは、何もない所にお客様とは、珍しい。どうかされましたか?」
………え?」
「見ての通り、この辺りは墓しかありません。ああ、申し遅れました。僕はキリル・チュードミロヴィッチ・フリンズです。フリンズとお呼びください。しがない墓守をしております」

まるで、初対面の人と話すように、何気ない素振りで言われる。何が起こっているのかわからなかった。

…………おれは、ファルカ。かんこうで、きた」
「そうでしたか。何もありませんが、ごゆっくり観光なさってください」

前世と同じ名前を名乗った。前世で初めて会った時のように、観光に来た、そう伝えたが、フリンズは何も反応を示さなかった。


────────


何が起きているんだろうか。フリンズは、俺の事を忘れたのだろうか。
あれから、何かと用事をつけて夜明かしの墓に通うようになった。フリンズに不信感を抱かれたかもしれないが、とにかく繋がりたくて必死だった。
フリンズの仕事を手伝うようにした。墓の掃除、魔物の討伐、釣りをして食料探しそんな日々を過ごしているようだ。
ある朝、フリンズが見当たらなくて探していると、古ぼけた墓の前で祈っていた。普段は祈らないのに、何故?

「フリンズ、ここにいたのか!」
ああ、ファルカさんでした」
「まあな、今日はいい酒が手に入ったから、一緒にどうだ?」
…………いいですよ」

よく二人で酒を飲んでいたから、反応があるかと思ったら何もない。酔わせて聞き出したい所だが、俺の方が先に潰れるだろう。
フリンズは少し考え込んでいた。俺の方に向き合う。その姿は、あの頃と何一つ変わっていない。

「ファルカさん、貴方の目的はなんですか?」
目的?」
「流石に観光ではないでしょう? 一度だけならまだしも、何度もここに訪れる理由はない。予想になりますが、冒険者協会から僕の調査を依頼されたのでは?」
………

違う。フリンズに何があったのか知りたい。それだけだ。でも、話しても信じて貰えないだろう。

フリンズの事を、知りたい、からだな」
………調査ではなくて?」
「依頼された訳ではない。俺が、フリンズを知りたい。それだけだ」

言葉は少し違うが、意味は似ている。でも本心でもある。
真っ直ぐフリンズを見据えて答えると、フリンズもこちらをじっと見つめていた。しばらく見つめあっていたが、ため息を吐かれた。

どうやら、嘘ではなさそうですね。今度から何かと用事をつけなくてもいいですよ」

流石に、怪しまれていたのか。ちょっと気まずい。話題を変えるか。

「そういえば、この墓石、熱心に祈っていたな。誰が眠っているんだ?」
………誰も眠っていません」
「え?」
「本物のお墓は彼の故郷にあります。ただ、僕が心のよすがとして作っただけです」
……その、どういう関係だったんだ?」

舌が乾いている。聞くのが怖い。でも、聞かなければならない。

………僕がフェイであることはご存知ですね?」
ああ」
「かつて、僕に恋人がいました。でも、帰郷して、そのまま亡くなってしまいました」

それは、俺の事では、ないだろうか。
忘れてなかったのだ。恨まれてなかったのだ。なのに、俺を見つめる瞳には、熱がない。

……その、……こい、びと………どんな、人……だったん、だ?」

なんで、フリンズは、俺の事を気付いてくれないんだ?

「覚えてません」
………え?」
「長く生きすぎたせいで、忘れてしまいました。声も、顔も、名前も。この墓石に名前を掘っていたのですが、野盗が墓を荒らした時に消えてしまって、存在しか覚えていないんです」

頑張って人間の振りをしていたのに、本気で怒ってしまってバレてしまいました。
そう言うフリンズの声が遠い。ほんとうに、忘れられていたのだ。名前すら、思い出せないくらいに。
どれだけの時を待っててくれていたのだろうか。今でも祈ってくれるくらいに、俺の事を想っていてくれたのに。

「ファルカさん、お願いがあります」
………なん、だ?」
「僕はもうすぐ死にます。長く生きてきましたが、ようやく寿命が訪れそうです」


「彼の隣に、僕を埋葬してもらえないでしょうか。
声も、顔も、名前も、思い出せなくても、愛しているんです。彼の隣で眠りたい」


……………っ」
「もちろん、報酬はお支払いします。物好きな貴方くらいしか、頼めません」
……………………わかった」

絞り出すように、声を出す。
これは、約束を守れなかった、罰なのだろうか。
隣にいる、そう叫びたい。でも、今言っても、信じて貰えないだろう。
墓石を見つめる瞳には、かつて俺に向けられていた熱が込められていた。

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