無窓居室
2026-04-20 03:58:59
2999文字
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ブックサンタ2025

クリスマス夜のほんのりブラアカと、アカネに黒い指輪を買うブラックの話。
指輪の方は他の短編と繋がっています。いつかまとめたい。

ヒイラギとフライドチキン


「うーん、どうしよう……変じゃないかなあ」

 12月25日の午後。アカネは鏡に映った自分の姿を見ながらああでもない、こうでもないと早一時間ちかく悩んでいた。
 女の子らしいメイクにもファッションにも縁がなく、風呂さえカラスの行水のアカネにしては珍しいどころの騒ぎではない。屋外ロケの準備をとっくに済ませた青オニちゃんも、気づかうように様子をうかがっている。

「落ち着け、落ち着け、ただの撮影なんだから。いつも通りに……

 アカネはこれからブラックと優中部町で行われるクリスマスマーケットの撮影に行くことになっていた。コラボ企画の段取りは普段と変わらない。しかし今日は聖夜でマーケットは定番のデートコース。人々は着飾り、景色はイルミネーションに彩られていることだろう。
 女子力のかけらも無いパーカー姿の自分が浮いてしまわないか、それを見たブラックが何を思うかがアカネにはどうしても気になった。かといって慣れないお洒落のしかたも分からない。

(ブラックはどうなんだろ、何かアタシに期待してくれたりするのかな……少しだけ、ほんの少しくらいは特別な夜に)

 夜景の中で微笑むブラックを想像してしまいアカネの心臓が跳ねる。甘党のブラックのこと、マーケットでは並んでホットチョコレートを飲んだりするのだろうか。想像するだけで頬が熱くなり、鼻の奥がつんと痛んで鉄くさい匂いさえしてきた。
 
「ニッ、ニー!」

 助手が出発の時刻を知らせてくれる。アカネはどうにか我に返り、ほてった顔を両手で叩いてから家を出た。

 *

 待ち合わせの広場にいたブラックとカメラちゃんは、アカネの姿を見るや親しげに声をかけてきた。

「お待ちしてました」
「じーっ!」
「ごめん、遅くなっちゃって」
「トラブルにあったのでなければいいんですよ。……おや、心なしかいつもより着こなしが決まってますね」
「う、うん、まあな!久し振りに外でのロケだから、気合い入れて来た!!」
 
 散々迷った末に身につけてきたのは新品のグローブとスニーカー用のソックス。デザインは普段と全く同じだからまさか気づかれた筈がないが、ブラックが自分の服装に注目してくれたことがアカネの胸を温めた。

「オレちゃん嬉しいです、今夜アカネさんと撮影できて」

 アタシはいつだって嬉しいよ、と言ってしまいそうになり慌てて口を閉じる。

(ブラックが変わらないでいてくれて良かった。構えることなんて何もなかったんだな……今日も一緒に撮影できることが何より幸せなことなんだから)

 日は暮れ、灯りはじめたマーケットの明かりが二人の表情を優しく浮かび上がらせる。二人は肩を並べて屋台のささやかなイルミネーションの中へ歩き出した。

 *
 
 撮影の帰り、誘われるままブラックの自宅へ寄ったアカネは、ダイニングに入るなり歓声を上げた。

「わあ!フライドチキン!!」
「アカネさんと一緒に食べようと思って用意しました。お好きだったでしょう?」
「うん!ブラック、ありがとう!」

 テーブルの上にはフライドチキンとシャンパンを模した包装の炭酸ジュース。フライドポテトやサラダやデザートも所狭しと並んでいる。チキンとサイドメニューはアカネが気に入っている人間界のチェーン店のものという準備の良さだ。
 お疲れ様の掛け声とともに二人と助手達はジュースで乾杯した。

「ところでアカネさん、クリスマスにヤドリギの枝の下でキスをした二人は結ばれる……という言い伝えを知ってますか?」
「ヤドリギって木?今度はその木を撮りたいの?いいけどもう暗いから森へ行くのは危ないよ。明日、陽が昇ったらにしよう。アタシもついてってやるからさ」

 さっそくチキンを手に取ったアカネは、豪快にかぶりつきながらブラックの問いに答える。

「いえ、そうではなく。そこの……
「チキン美味しい!ブラックも食べなよ」
「そこの天井に吊るしてある枝はですね」
「骨はずしてあげるね。アタシ慣れてるから任せて!」
……

 ブラックが珍しく助けを求めるように相棒を見たが、カメラちゃんは冷やかすようにレンズをきらりとさせただけで、我関せずとばかりに青オニちゃんとビスケットを分け合っている。当然、アカネは気づかない。

……まあ、これもまた良しとしましょうか」
「ん?何か言ったか??」
「いーえ、ぜんぜん」

 アカネがブラックに骨抜きの肉を差し出す。
 うち捨てられた悪魔の企みをよそに、聖なる夜は和やかに更けていくのだった。


 2025/12/22