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不破
2026-04-19 21:27:03
5165文字
Public
空戦
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#28
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2
3
開いたドアの向こう、鬼の絵画の前に座している人物が顔を上げた。灰を被った桜のような色の髪、鮮やかに咲いた牡丹のような赤い目がこちらを捉える。呑み込まれそうなその赤色は妖しげな光を帯びていたが、その人物の風貌にを目にし、ラザフォードは目を見開いた。それはあまりにも、1つの国を率いる者の姿だとは信じられなかったからだ。
「
……
ふざけるな」
ふつふつと湧き上がる怒りを噛み殺すように歯噛みをしながら溢す。
「ふざけるな! こんな
子供
・・
が一国の長だと!? 客人に身代わりを会わせるとは侮辱に他ならない! これが極東なりの礼儀か!!」
思わず声を荒らげた。座していてもわかる。15にも満たないであろう少年は、突然放たれた怒号に眉すら動かさず、胡座をかいた膝の上で頬杖をついたまま、つまらなそうな表情でこちらを眺めていた。
荒らげた声に呼吸が乱れる。緋色の目で少年を睨みつけ、肩で息をするラザフォード。しかし、少年がその視線に怯むことはなく、それどころか、呆れたような声で一言発した。
「気は済んだか?」
静かに投げかけられた言葉は問いかけだった。まるでこちらを見下ろすような言葉に、吐き出した怒りがまたしても込み上げてくる。
無様だとでも言いたいのか。見下すようにこちらに視線を向けている少年を睨みつけながらも、「なんだと
……
?」と口をついて出た一言以上に放つ言葉が見つからず、ラザフォードは硬直した。
「気は済んだかと聞いた。まったく、父親といい、貴様の血筋は短気が売りなのか? だとすれば、ラウルの奴は上手く隠しておったのだな」
言いながら、くくくと喉を鳴らして笑う少年。その笑みに歯噛みしながら、ラザフォードは眉間の皺を深くした。
この子供、何者だ?ノブサヤ・サイトウの身代わりならばこの程度の芝居はするか?いや、身代わりであることなど、風貌を見ればひと目でわかる。その上でノブサヤ・サイトウであるふりをすることに意味があるとは思えない。
「やめろ。大した役者だが、お前がノブサヤ・サイトウでないことは
……
」
「んん?
……
かかかか! これはしたり。あのラウルの血を引く者が、よもやここまで節穴とは」
からからと景気よく笑う少年の言葉に、ラザフォードは腰にしている剣に手を掛けた。
「よせよせ。ここで暴れたとてなんにもならんわ」
と、呆れたような声色で言う少年だが、ラザフォードは留まることなく剣を抜き放つ。勢いよく踏み切り、白い剣を振り上げて少年に飛び掛かる。しかし、振り下ろした剣が少年の身体を斬り裂くことはなく、金属音が響いた。
「貴様
……
!」
「言うておろうが。なんにもならんと」
全体重を乗せて振り下ろした剣はおよそ少年の膂力とは思えない力で受け止められたまま、ぴくりとも動かない。親指で僅かに押し上げられた軍刀の刃が、剣を受け止めて動かない。この少年の細い腕にどうしてこんな力がある?理解の及ばないことにラザフォードは緋色の目を見開いた。
「まさか
……
! 本当に
……
!?」
「ようやっとか? まったく、復讐の熱なんぞに浮かされるとは。
空の世界
リベルタリア
を導くべき教皇の一族の末裔がこれではのう」
「貴様
……
貴様が
……
!?」
剣を引きながらラザフォードは目を見開いて言う。目の前の少年は口振りこそ容姿にそぐわないが、それ以外のすべては少年の風貌に他ならないのだ。
「如何にも。儂こそが、極東オワリノ國総統、斎藤 信鞘である!」
少年の言葉に目を見開く。極東の鬼とさえ呼ばれた総統がこんな子供の姿だとは思っていなかった。ノブサヤ・サイトウは世界が地上にあった時代から、代替わりするごとにその名を引き継ぐのだと言われていた。だとすれば、この子供は名を引き継いだばかりなのだろうと納得し、ラザフォードは剣を握っていた右腕を下ろすと、腰にしている鞘に白い剣を収める。つい頭に血を上げてしまったが、ここで争ったとて意味がないことは事実だ。頭を冷やすべきだ。
「かか、利口とは言わぬぞ。真に利口であればそもそもこの場で剣を抜くことはあるまい」
「
……
失礼した。非礼をお詫びする。サイトウ閣下」
ノブサヤの言葉にばつの悪さを覚えながらも、姿勢を正して言った。
「ほう。一端の礼儀は弁えておるようだのう」
言いながら刀を置いたノブサヤがけらけらと笑うが、ひとしきり笑ったノブサヤが赤い目を細め、こう続ける。
「で、遠路はるばる東の端までなんの用かの?」
「メルゼブルクとの戦争に、友軍として参戦して欲しい」
「断る」
問われた言葉に応えるも、ノブサヤの即答が返ってきた。
当然といえば当然の反応だ。世界が地上にあった時代から世界への不干渉を貫いてきたオワリノ國の助力を簡単に得られるわけはない。しかし、ここまで来た以上、簡単に引き下がるわけにはいかない。
「バチカンの襲撃に関わったルフェーヴルを独断で処断するなど許されるはずがない! 世界的な犯罪者を私刑にかけるようなものだ!」
「かの一族はメルゼブルクに連なる者共よ。それを彼の国の皇帝が裁くのは道理であろうが」
言いながらかかかと笑うノブサヤの表情に苛立ちを覚えつつも、力で従えられる相手ではないことがわかっている以上、落ち着いて対処するしかない。復讐のため、1分1秒を争うというのに足止めを食らうのは不愉快ではあるが。
「だとしても、メルゼブルクの動きが世界に不和を齎したことは変わらない。このままでは広がった戦火がこの極東をも呑み込むことになる」
「そうならぬように手を貸せというのか。地上での大戦の折、我等極東がどう立ち回ったか、学ぶくらいはしておろうに」
「メルゼブルクは大国だ
……
万が一、ウィンズレットが敗れるようなことがあれば、残る国々は束になってもメルゼブルクを止めることは出来ないだろう。たとえ、それが東に鬼の国ありと謳われた貴国であろうとも」
こちらを試すように返してくるノブサヤ。その言葉に返しながら、ラザフォードは真っ直ぐに眼前の赤い目を見据える。放った返答に「ほう
……
」とノブサヤが少しだけ目を細めた。そして、口元に不敵な笑みを浮かべた彼は続ける。
「我等が彼の国に敵わぬと?」
「ウィンズレットが敗れれば、他の国々は自らメルゼブルクに下るだろう。そうなれば、貴国はこの世界そのものと戦うことになる」
ノブサヤの問いに答える。
事実だ。もしウィンズレットが敗れれば、メルゼブルクとまともに戦えるだけの戦力を有する国はなくなってしまう。オワリノ國が小国というわけではないが、そうなった時にはメルゼブルクはより強大になっている。
「かかか。まさか己の敗北を想定しておるとは。一理あるが、心意気としてはつまらんな」
笑うノブサヤの眼が、まるで見透かすようにこちらをまっすぐに見据える。
「お主、この戦いの行方に興味などなかろう?」
「なに?」
ノブサヤが続けて放った言葉に、ラザフォードの眉がぴくりと動いた。
「よいよい、皆まで言うな。ま、一理あるからには譲歩もしてやろう」
左手でこちらを制しながらも、右手で頬杖をつくノブサヤがそう言い、続けた。
「儂に楯突く”ウェイロン”という集まりがウエウミにおる。其奴等が隠し持っておる煉丹ノ書を回収してくるがよい。見事持ち帰ったならば此度の戦、我等オワリノ國も手を貸そう」
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