素顔

水鳥川が朔叶や強風に翻弄される話。





その後、人気のないベンチに移動して並んで座った2人。
水鳥川みとりがわ朔叶さくとが持っていたハンカチやティッシュで、顔を濡らす涙や鼻水を拭いてもらっていた。母親に甘やかされる子どものようで非常に情けないが、泣きすぎて頭がぼんやりしているせいで、されるがままとなっている。
朔叶はいつの間にか罪悪感に満ちた顔をしなくなっていた。代わりに愛おしそうなものを見るような慈愛に満ちた顔をしていた。
水鳥川は自分の素顔が嫌いなわけではないが、18歳の男にしては童顔すぎて自慢に思ったこともなかった。
それを真正面から見たであろう、朔叶の優しい微笑みに再び頬が真っ赤になった。でも今度は顔を逸らさなかった。代わりに朔叶の胸元に顔を埋めて頬の熱を誤魔化した。


水鳥川の見たことない素顔はとても愛らしくて、普段恐ろしいデバフ魔法を戦場でばらまいたり、仲間たちをグロテスクな料理で恐怖のどん底に叩き落としている子と同一人物とは思えなかった。
水鳥川の顔はいつも長い前髪で隠れていて、どんな表情をしているのかは、唯一隠れていない口元でしか判断できなかった。
でも一度水鳥川の素顔を知ってしまい、長い前髪の下にこんなに可愛らしい瞳が隠されているのだと思うと、これからは彼がどんな突飛なことを言っても笑って受け入れられそうだ。
朔叶は再び胸元に顔を埋めてしまった水鳥川に、

「ねぇ、水鳥川さえ良ければ、また顔を見せてくれる? とても可愛かったから何度でも見てみたいんだ」

と少し声を落として囁く。すると水鳥川は今日一番大きく身体を跳ねさせた。そしてたっぷり間を置いてから、

……2人きりのときなら、いくらでも見せてあげるよ〜……

と弱々しい声で返してきた。



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