素顔

水鳥川が朔叶や強風に翻弄される話。





朔叶さくとはずっと額を押さえている水鳥川みとりがわが心配だった。彼はなんでもないと言うが、どことなく歯切れが悪いし強がっているのかもしれない。もしかしてさっきの大柄な人に少しぶつかってしまったのか、それとも咄嗟に自分の胸元に勢いよく引き寄せてしまったから額を痛めさせてしまったのだろうか。それなら申し訳ないなと朔叶は水鳥川に努めて優しく微笑みかけた。

「ねぇ、水鳥川。そこが痛いなら治癒魔法をかけてあげる。一瞬で終わるから手をどけてくれるかな?」

そう言えば水鳥川は肩を跳ねさせて勢いよく顔を逸らしてしまった。



水鳥川は人生で初めてレベルの焦りに襲われていた。朔叶の真っ直ぐすぎる治癒士としての優しさを真正面から浴びて、せっかく引きかけていた頬の熱がさらに増してしまった。焦りすぎて咄嗟に勢いよく顔を逸らしてしまった。だが。

「あ……水鳥川、ごめ、ん……

朔叶の心の底から申し訳無さそうな声が耳を掠めて、ハッとなり逸らした顔を戻せば。水鳥川を自分が傷つけてしまったと言わんばかりの罪悪感に満ちた顔で、オロオロする朔叶が立ち尽くしていた。

(あ、朔叶を悲しませたいんじゃ……ない、のに……)

水鳥川は照れの次に一切誰にも見せたことがない「オロオロ」を全面的に出しつつ、誤解を解くために頑なに額を押さえつけていた手を離して、両手を朔叶の頬へと伸ばした。



そのとき強風に煽られて水鳥川の分厚くて長い前髪がふわっと巻き上げられる。そこには頬をリンゴのように赤く染め、不安そうに忙しなく揺れる、少し変わった桃色の瞳。小柄な体型に見合うほどの可愛らしい素顔に、朔叶は罪悪感を一旦端に追いやり、目を奪われてしまった。
水鳥川は朔叶が悲しんだことが何よりもつらいのか、その桃色の瞳には綺麗な大粒の涙が浮かんでいた。



「う…………っ、ひぐっ……朔叶ぉ……っ」

水鳥川は素顔を見られた恥ずかしさと、朔叶を悲しませてしまった不甲斐なさで、柄にもなく声を上げて泣いてしまう。
今日は「柄にもない」こと続きすぎた。

「ごめ……っ、朔叶、悲しい顔させて……っ、ごめんなさい〜……っ」

朔叶のあたたかい胸元に顔を埋めてしゃくり上げていると、朔叶が優しい手つきで宥めるようにポンポンと撫でてくれた。その優しさにさらに涙が溢れて止まらなかった。