素顔

水鳥川が朔叶や強風に翻弄される話。




常日頃、水鳥川みとりがわ朔叶さくとのエスコートを行っている。家でも外でも関係なく。いつもの彼の自由気ままな態度からは想像もつかないのか、朔叶には毎回目を丸くして驚かれる。
朔叶が相手だから特別にやっているだけで、他の人には一切やらないしやりたくない。ただ朔叶の意外そうなかわいい顔を見てみたいだけの行い。
しかし朔叶もときどきエスコート、男前な行動をしてくることもある。
気づかぬうちにほどけかけていた水鳥川のブーツの紐に気づいてすぐに屈み、丁寧に素早く綺麗に結んでくれたり。
ある日は水鳥川の小柄な身体が大柄な通行人にぶつかりかけたときに、咄嗟にグッと力強く引き寄せて守ってくれたりもする。
「大丈夫?」と少し緊張したような面持ちで聞いてくる朔叶に、水鳥川は柄にもなく照れてしまった。
このときほど両目を覆い隠す長い前髪に感謝したことは無い。それほど水鳥川の頬は赤く染まっていたから。



こういう柄にもなく感情が揺れているときに限って風が強い。強風は容赦なく水鳥川の長い前髪を巻き上げるように吹いてくる。水鳥川は息を詰めて片手で押さえつける。本当は両手で押さえたいところだが、もう片方の手は朔叶と繋ぐために使っているから離したくない。
朔叶はずっと額を押さえている水鳥川に頭が痛いのかと思ったのか、不意に足を止めて「大丈夫?」と顔を覗き込んできた。

「う、ううん〜……なんでもないよ〜……っ」

水鳥川の頬はまだ赤みを保っていたし、前髪に隠された両目も忙しなく泳ぎまくっている。
仲間たちから何を考えてるか分からないサイコパスだと評されているとは思えないほど、初々しい少年の反応を長い前髪の下でひたすら繰り広げていた。