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 オータム書店の超ロングセラー作品『ロナルド・ウォー戦記』の著者、今や伝説の退治人として語り継がれている吸血鬼退治人ロナルドの、没後百年を追悼する企画のひとつとして、退治人の相棒であった高等吸血鬼ドラルクの視点から見た『ロナ戦』の解説本の執筆が依頼された。若き担当者は『ロナ戦』の熱烈な愛読者であり、丁寧に計画された企画書はその熱量が本物であることを切実なまでに訴えてきたので、嬉しくなった吸血鬼はふたつ返事で引き受けた。
 愛した男の著作を愛してくれる人々が企画したお祭りだ。大いに盛り上げてやらねば高等吸血鬼として、そして彼の退治人のバディとしての名が廃る。
 『ロナ戦』は長寿の人気作であり、ドラマや映画や舞台、漫画やアニメ、果ては絵本に至るまで数多のメディアミックスが行われてきたため、享楽主義の吸血鬼も当時を知る唯一の当事者として関わり続け長年忙しく生きてきた。近頃は自身の――こちらも長寿コンテンツとなっている――ゲームレビューや実況配信に集中していたが、久々の大仕事にうきうきとした様子でラップトップの前に座る。
「さて。私が触るのは第二巻からだが……五歳児が知恵を振り絞って書いた渾身のかっこいいシーンを、このドラドラちゃんが畏怖畏怖しく赤裸々に暴いてやるとするか! 私を魅了し損ねたこと、改めて悔しがらせてやろうではないか!」
「ヌー!」
 やる気に満ち溢れシャドーボクシングをしてみせる使い魔に優しく微笑みかけた吸血鬼は、ふむと呟き、
「まずは献辞だな。一度書いてみたかったんだ」
 と、意気揚々とラップトップのキーボードを叩いた。

『我が最愛の隣人、ロナルドへ捧ぐ。』

 タンッ! 軽やかな打鍵音と同時に『バンッ!』と大きな衝撃音が響いた。
「ウワッ!?」
「ヌーーッ!?」
 突然の騒音に驚き塵になる吸血鬼とそれに泣きすがる使い魔。三百年前から変わらないやりとりを繰り返しながら、ナスナスと再生した吸血鬼は、驚いてジャボをしゃぶり始めた使い魔を抱き、恐る恐ると扉に近づいた。

「出てこい吸血鬼ドラルク! 今日がてめーの命日だ!」

 近づくなりどこか懐かしさを感じる威勢のいい声と共に、吹っ飛ぶような勢いで開いた扉と壁に挟まれて、誇り高き高等吸血鬼ドラルクは圧死した。


2021.11.28

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