鹿
2026-04-04 22:27:51
10292文字
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通りすがり/6年、あるいは160年

ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~開催おめでとうございます!
展示品の2026年CBC新選組礼装に絡めたお話です。モブ視点で組をみてる感じのお話です。
そして後半からはほとんど全く関係ない、そんな設定は一切どこにも存在しない、捏造の組のわちゃわちゃ与太話が展開されます。
一応土斎でスペースとってるのに土斎要素が少なすぎます…………書いている人間が土斎者なので滲んではいますが、土斎を期待して読むと薄いです…………すみません…………

 
――――それで、世紀末暗黒都市KYOTOって何だったんですか?」
「さあ? まあでも特異点って何かがおかしくなってるから特異点なわけですし」
 無事に長期レイシフトを終えた新選組一行は、屯所としてしつらえた畳敷きの部屋で、久々の休暇を楽しんでいた。ちゃぶ台には特別ボーナスとして支給された団子やチョコレートアイスを味わう沖田と藤堂、急須のお茶と人数分の湯呑を用意して山南が座っている。大きめのちゃぶ台とはいえ全員が座れるほどではないし、比較的大柄な方の隊士たちはめいめい畳に転がったり文机に向かって書き物をしたり自由に過ごしている。そんな状況だと、戦っている時はそれどころではなかった、自分達のしていたことの突っ込みどころが気になってくることもあるというものだった。
「まあ京都がおかしくなってることについては一旦飲み込むとしても、あの機動隊という礼装のコンセプトは一体何ですか。うちそんなに銃得意な人いないでしょう。おかげで永倉さんも原田さんも最後は銃で殴りかかって……
「平助、それもある種ロマン、らしいぜ?」
「そうそう、この映画見てみろよ。武器で撃ち合って出し尽くして、最後は拳がモノを言うってのが熱いんだよ。多分な」
「認識ふわっふわじゃないですか。しかも二人ともかなり早々に殴りに移行してましたよね? というかそもそも、この特定のコンセプトのコスチュームを指定してくるCBCっていうのがなんなんですか……?」
 CBCと呼ばれる、人理保障機関カルデアに存在する数ある奇習の一つ。毎年この時期、男性サーヴァントがアイドルや先生と生徒、バカンス風など様々なコンセプトの装いで活動する。写真撮影を行ったり、時には今回の機動隊のように、その姿のまま特異点攻略に向かうこともあった。それがカルデア・ボーイズ・コレクション、通称CBC――
「で、この時期このコスプレ祭りをすると、どういうわけかカルデアの活動資金の足しになるらしい」
「どういうわけかって……
「まあカルデアって理屈は知らないけどそうなってるからってことばっかりですし。こないだだって謎の基準で設定されたママ度の高いサーヴァントたちがお母さんチョコ聖杯と戦ってたりしたじゃないですか」
 土方も沖田もこのカルデアではかなり古参の立ち位置であったが、古参であるがゆえに「まあよくわからないけどそういうこともあるよね」という場面に慣れすぎてもいた。藤堂は助けを求めるように、理知の人として信頼する山南に視線を向ける。
「ううん、どうしてCBCなどのコスチューム変更によってカルデアの運営の助けになるのかというのは私も調べてはみたんだけどね、どうも完全に理解できる人は存在しないと言われているらしく――
「そこまで深い謎があるんですか!? このコスプレ祭りに!?」
 曰く、このカルデアのマスターの存在を通じて数多の平行世界、あるいはそのさらにその一次元上の世界が、我々の世界を観測しているのだという。我々の世界からは認識不可能、かつ基本的に相互干渉不可の、理論上存在していることだけが証明されている別次元世界。しかしこの世界が我々の世界の在り様を観測し、観測結果が別次元の生命体にある種の肯定的な感情をもたらした時、非常に高度かつ多層的な魔術的作用 なんやかんやが起き、カルデアの運営の助けとなる各種資源が蓄積されるのだという。その「ある種の肯定的な感情」を発生させうるものが、一定のコンセプトに基づいて着飾ったサーヴァントの存在なのではないか――というのがトリスメギストスの出した仮説であった。そして実際仮説に基づいた時期、サーヴァントに服を仕立ててその姿を撮影することで、カルデアは種々の恩恵を享受できることが判明したのである。
――なるほどわかりません。というか男性サーヴァントって言って沖田君も参加してますけどいいんですか……?」
「すみません……沖田さんが世紀の美少女剣士すぎるあまり、キュートさだけでなくメロさ? まで獲得してしまって……
「総司は愛らしいだけでなく凛々しいものなあ。うん、めろいぞきっと」
「よくわかってないまま自慢してよくわからないまま褒めないでくださいよ……なんだよそのメロ? って……
 藤堂はいよいよ混乱を極めていた。わからないことを理解したくて聞いているのに、聞くたびにわからないことが増えているからだ。
「カルデアに恩恵をもたらす『別次元の生命体が抱くある種の肯定的な感情』は、こちらの世界の感覚でざっくり説明すると、乙女心をくすぐる魅力ある容姿や振る舞い、を指しているらしいんだ。これを短く言い表す言葉として『メロさ』という指標が作られて、今カルデアではこれをより高めるため様々なシチュエーションとサーヴァントの組み合わせの研究が行われていて……
 未知の言葉で形容された未知の概念について未知の研究が行われているという未知の事実に、藤堂は宇宙に浮かぶ猫のような表情でチョコレートアイスを舐めることしかできなくなった。
 
 しかし山南のCBC解説は、わからないなりの理解をもたらしてもいた。
「あれ、じゃあひょっとして、斎藤さんがやってるヒモの仕事ってCBCみたいなやつだったんすか?」
 斎藤は、思わず手に持った小皿を取り落とすところであった。
「おい待て原田! なんだヒモの仕事って!」
「ほらこないだとかもめかしこんで女神様と一緒に写真撮ったり、謎のぬいぐるみになったりしてましたよね?」
 斎藤はこのカルデアに召喚されて以降、かなりの頻度で新しい衣装での撮影の仕事を受けていた。そしてこれらもCBC同様にカルデアに各種の資源をもたらすものである。
「いや確かに謎のうまそうなぬいぐるみ作られたけど! なんでヒモだよ! 誰にそんな説明された!?」
「新八っすけど」
「馬鹿っ八ぃ! なに風評被害広めてくれてんだテメエ!?」
 常であれば斎藤に突っかかられれば同様に突っかかる永倉であるが、今回ばかりは申し訳なさに目をそらし気味であった。
「いやその……俺も悪気があったとかじゃなくてよ……お前のやってる洒落た服着て……撮影なんかしてるあれが、どうカルデアの資金を稼ぐのにつながってるかよくわかんねえから…………『あいつが新しい服もらうと、どっかの知らない娘っ子が喜んで、金をくれる……みてえな仕組み、らしい』って説明するしかなかったんだよ……
「で、当然俺らは『ヒモじゃねえかそれ』『斎藤さんヒモで稼いでるんだ』って思ったわけです」
「もうちょっと言い方あるだろ純粋に馬鹿がよ!」
「でもこれは、いかにもヒモやってそうな斎藤さんの方にも責任があると思いますけどね」
「表出ろ平助ェ!」
「斎藤」
 激昂する斎藤を制したのは土方であった。無言で文机の上、湯呑の脇を指し示す。
「あ……はい、どうぞ……
 斎藤は手に持っていた、小皿に乗ったたくあんを置いた。そもそもこれを運んでいる最中であったのである。しかしこんもりとたくあんの乗った皿を持ちながら激昂していた自分に気がつくと、何か妙に気恥しくなってきて、斎藤は静々と文机の傍らに正座してしまった。
「うーむ、これが新選組一のメロ男と言われている現状はちょっと不安になってきますね。やはり正式にCBCに参戦し、メロいサーヴァント兼ハイパー美少女となった沖田さんが受け継いでいくべきでしょうか……
「沖田先輩、実は俺も『原田さんもいずれは現代風の衣装で撮影の仕事来そうだね』ってマスターに言われてんすけど」
「原田さんもメロらせ業界に!? これは業界の勢力図が変わる……! 斎藤さん、これまでお疲れさまでした。安心してたくあん運び係に異動して良いですよ」
「たくあん運び係ってなんだよ! 左遷だろ!」
「おい斎藤、たくあん運び係はメロらせより格が低いってのか」
「あんたの中でたくあんの格が高すぎるだけだろ! そもそも僕のが冷蔵庫に近かったから取りに行っただけで仕事でさえねえし!」
「もう! 土方さんはそんなだからメロ男路線の仕事が来ないんですよ!? もっとメロらせに真面目に向き合ってください!」
「俺はメロとかいう意味不明の基準に寄せなくたって恰好良いからいいんだよ」
「まあまあ歳、せっかく総司が張り切っているんだし、めろく? してみるのも良いんじゃ」
「近藤さんも近藤さんですよ! 今後新選組は弱小人斬りサークルからメロらせサーヴァントたちによる大人気大勝利グループに生まれ変わるので、その辺自覚持ってもらわないと!」
「えっ……?」
 その後も現在メロらせ業界の分析、新選組は今後業界においてどのように立ち位置を確保していくべきであるのかなど、喧々諤々の議論――という名の沖田主体の与太話は続いた。途中から酒が入り、案の定最後は雑魚寝でそこここに散らばるようにして眠っている。
 
 そんな中、生前、こういう皆が浮かれている時、あまり飲まずに自分は規律を保たねばなどと思っていた習いが出てしまったのか、土方は一人早く目が覚めてしまった。
 ぐるりと周囲を見渡すと、自分のすぐ傍らに、スーツのジャケットを放り投げて寝こけているうらぶれたサラリーマン風の男。この体たらくでは、メロい? 男として売り出されているとは到底思えない。
「おい、新選組一のメロ男。大人気サーヴァントのはじめちゃん」
 頬をつついてやりながらからかい交じりに言ってやっても、相当深酒をしたのかもにょもにょと寝言のような言葉が漏れてくるばかりだった。
「そう、いうの、うれしいは……うれしい…………けど」
 まあそうだろう。皆から格好いいと持て囃されて、洒落た服を着て、気分が悪い人間はそういない。
「やっぱ……………………ぼく、ひとり、より…………みんな…………いるのが…………ぶりーちんぐ、みたいなの」
…………おう。探偵エドモンみてえにシリーズ化狙ってくか」
 にへら、と笑った顔はあまりに緩み切っている。何年たっても、どれだけ頼りになる男だと知っていても、格好いい男であると世間に知れ渡ったとしても。
(こいつにはこういう、かわいいところがある)
 土方はひとり、その事実を己の中で噛みしめた。