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jerry-fish
2025-11-16 03:07:07
7370文字
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整理整頓、それから
モグ真木(にょた)「底から出して、名前を付けて(
https://privatter.me/page/69c4c8ddd8d91)」の続き。
ようやく時計が進みそうです
ほんの少しの梗→真木要素(過去)と、梗→←詩魚要素(現在)があります。
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2
「真木ちゃんいらっしゃい! 梗ちゃんのお勉強見てくれて助かるわ!」
時刻は一時。そう言って歓迎してくれた杏子に通されて、真木は梗史郎の部屋に足を運ぶ。
「梗史郎は勉強できるし、私が教えられるようなことなんてないと思うんですけど」
「いいのよ! お勉強だけが全てじゃないわ、学校のこととか、そういう情報だって必要でしょ?」
真木が言えば、杏子はにこにことそう返す。そう言われてしまえば納得するしかない。
「梗ちゃん、真木ちゃんが来たわよ。一時間半くらいで休憩にしましょうね!」
杏子はそう言うと梗史郎の部屋から去っていった。
「梗史郎、お邪魔します。今日はよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こっち座ってくださいと梗史郎は真木を自室に促した。ふすまを閉めようとした真木にそこは開けっ放しでと言えば、真木は不思議そうな顔をする。
「真木さん、危機感なさすぎます。密室で男と二人きりにならないでくださいね」
「え、あー、ごめん。気にしたことなかった。梗史郎はしっかりしてるね」
「これからは気を付けてください」
言われてはじめて気づいたと言わんばかりの真木に、梗史郎はもう一度釘を刺した。
「うん、わかった。で、梗史郎が聞きたいのって?」
「ある程度の教科はやってるんで、実際の大学の授業について、ですね」
「やっぱり勉強のほうは必要なかったか」
そこから大学の授業の仕組みやらなにやら、梗史郎の疑問に真木が答えていく。梗史郎はどこの大学を目指しているのかは教えてくれなかったので、とりあえず自分の経験や又聞きしたことを伝えた。そうして一時間半ほどたつと、杏子が「休憩時間よー!」と言いながら現れた。
「真木ちゃん、ママとちょっとお話ししましょう」
「へ? え、なに? なんですか?」
杏子の言葉に真木は目を白黒させている。
「ちょ、お袋!」
「梗ちゃんはモグラちゃんたちに今日お夕飯ご一緒しましょって連絡して頂戴ね」
梗史郎が杏子を呼び止めようとすれば、杏子はすべてわかってるわよと言わんばかりに微笑んで真木を連れて行ってしまった。思わずため息をついた梗史郎は、その場でスマホを取り出すとぎろちん本舗へと電話をかけた。
茶の間に通された真木は、向かいに座る杏子からお茶とお菓子を出されていた。休日であるのに藤史郎の姿は見えない。ここに来るといつも一緒にいるのにと、少し不思議に思う。それが顔に出ていたのだろう。
「今日はね、藤史郎さんは文筆家の仕事があるって書斎にこもってるのよ。あたしは人生中なるたけ藤史郎さんにかまってほしいけど、お仕事の邪魔をしたいわけじゃないから」
「あ、すみません」
「いいのよ! それだけママがパパと一緒にいるって思ってくれてるってことだもの」
恐縮する真木に杏子は気にしないでと微笑む。
「ところでね、真木ちゃん。聞きたいことがあるのだけど」
「えっと、私にわかることなら?」
「あのね、梗ちゃんと詩魚ちゃんって、今どんな感じかしら? 未来はわかってるけど、それまでの甘酸っぱい恋模様も気になるのよ」
「ああ、なるほど」
キラキラと目を輝かせる杏子に、真木はそれならこの間少し話しましたよと言う。
「って、言っても私も大したこと知りませんよ? 今の詩魚ちゃんは恋を恋と認識する前段階というか
……
まあ、好意はあるんだろうな、楽しんでいるなぁとは思います」
「キャー! そうなのね! いいわね、青春だわ!」
「詩魚ちゃんは可愛いし元気だし、正義感もあって素敵な女の子ですよね。見えなくてもナベシマやイケブクロさんのことも受け入れているし、きっと素敵なお嫁さんになれます」
きゃあきゃあとはしゃぐ杏子に、真木は自分の考えを述べる。
「そうね。詩魚ちゃんは素敵な女の子よね。でもね、真木ちゃん。真木ちゃんも素敵な女の子よ?」
「へ? いや、私は」
「真木ちゃん、あたしの話を聞いてくれる?」
杏子は詩魚の話から真木の話へと主題を変える。杏子の言葉を否定しようとした真木を、杏子は柔らかく制した。母の慈愛のにじむ微笑みで、杏子は真木を見る。
「真木ちゃん、真木ちゃんはとっても素敵な人で、可愛い女の子よ。それにね、誰かを愛すること、愛されることはとってもあたたかいことなのよ」
やわらかな杏子の言葉に、真木は何も言えない。杏子の考えを否定したいわけではない。それでも真木には、自分が誰かを愛することも、誰かに愛されることも信じられない。真木は『女の子』ではなく『お姉ちゃん』でしかないのだから、それ以外で愛されるはずがないと思っていた。
「私はね、真木ちゃん。いい子には幸せになってほしいの。梗ちゃんも、詩魚ちゃんも、八重子ちゃんも、森君も、当然真木ちゃんもよ。真木ちゃんがその気持ちをそのままにして幸せなら、私はそれでいいの。でもね、私にはそれが幸せそうには見えなかったの。余計なお節介をしてごめんなさいね」
「わ、たし、は
……
」
労わるような声に、真木は視線を俯かせる。膝の上に置いた手をぎゅっと握った。お姉ちゃんじゃない自分は、必要ない。真木はずっとそう思ってきた。親にもそう扱われてきた。他人を、年下を優先しない自分は必要とされるのか。許されるのか。真木はそれが恐ろしい。
「真木ちゃんは、何が不安なのかしら?」
小さな子供に聞くように、ゆっくりと柔らかく杏子が問う。真木は言うべきか、言ってもいいのかと考える。杏子は普段のテンションが高い状態ではなく、ただ穏やかに慈愛に満ちた視線で真木を見ていた。真木は、おずおずと口を開いた。
「
……
ずっと、姉として生きてきました。おしゃれも、女の子らしいことも、全部しなかったんです」
「うん」
「昔、気になる人が、いたこともあったけど、私には女の子らしさがわからなくて、諦めたんです」
「そう」
「今も、気になってる、人が
……
います。でも、私なんかが、隣にいていい人じゃないんです。あいつには、大切な目標があるから。邪魔になりたくない。だから、せめて、友達として
……
そばにいたい」
杏子は優しく相槌を打つ。それに促されるように真木はゆっくりと、つっかえながら本心を口にした。ずっと心の底にしまってきた気持ちだった。出してはいけないと思っていたものだった。捨てなければいけないと思っていたそれは、蕾のような恋心だ。
「真木ちゃんは奥ゆかしいのね。そういうのも、良いと思うわ」
杏子はそう言って、ただ臆病なだけの真木を肯定してくれた。
「それに、強いわね。自分の心を押し殺してまで、その人を応援したいだなんて、かっこいいわ」
真木はぐっと唇を噛む。ずっと自分が欲してきたものを与えてもらえた気がした。姉でも女の子でもない、一人の人間としての肯定。それがひどく嬉しくて温かくて、目頭が熱くなってくる。
「ずうっと自分の心を否定していると、苦しくなっちゃうわよね。でも、真木ちゃんは認めてあげられたわ。その思いが実を結んでも、結ばなくても、きっと真木ちゃんの力になってくれると思うの。だから、大丈夫よ。もう気持ちを殺さなくていいの。よく頑張ったわね。」
はたりと、あたたかい雫が手の甲に落ちた。いくつもいくつも、雨のように降り注ぐ。
「うっ
……
っく、ぅう
……
」
押し殺しきれない嗚咽が漏れる。杏子は立ち上がると、真木の隣に腰を下ろしてそうっと背中をさすり、頭を撫でた。優しい温かい手が嬉しくて、照れくさいのにホッと安心できてますます涙は止まらない。
「いいのよ真木ちゃん、こういう時は思い切り泣いちゃいましょう! 大丈夫、あたしがついてるわ」
杏子が渡してくれたハンカチで涙をぬぐう。客間からはしばらく小さな小さな嗚咽がこぼれていた。
たっぷり数分泣いた真木は、心がすっきりしていた。
「うん、大丈夫そうね! 目元がちょっと腫れちゃったから冷やしましょう。おしぼり持ってくるから待っててね」
「すみません。何から何まで」
「いいのよ、あたしがしたくてしたんだもの」
にこりと微笑む杏子に、真木は泣きすぎて赤らんだ眼でもう一度謝る。杏子はさっと冷たいおしぼりを持ってくると、真木に横になるように伝えてその目の上におしぼりを乗せた。冷たいそれがひどく心地よくて、泣いた疲れからか瞼が重くなる。
「真木ちゃん、少し眠ったほうがいいわ。自分の気持ちを伝えるのって、疲れちゃうものね。今日は詩魚ちゃんや八重子ちゃん、森君にモグラちゃんも呼んでみんなでお夕飯を食べようと思ってるの! まだ時間もあることだし、少し休みましょう。梗ちゃんだって、聞きたいことは聞けたと思うわ」
「
……
はい、すみません。申し訳ないけど、少しだけ休ませてもらいます」
「少し、そうね、長くとも一時間で起こすわ。その間この部屋には誰も入れないから、安心しておやすみなさい」
「ありがとう、ございます」
杏子の声に促されるように、真木の意識は静かに眠りに落ちていった。
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