jerry-fish
2025-11-16 03:07:07
7370文字
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整理整頓、それから

モグ真木(にょた)「底から出して、名前を付けて(https://privatter.me/page/69c4c8ddd8d91)」の続き。
ようやく時計が進みそうです
ほんの少しの梗→真木要素(過去)と、梗→←詩魚要素(現在)があります。

 さて、腹は決まった。なら次にすべきは情報収取、解析、対策と相場は決まっている。こんな時に頼りになるのは。

「って、わけだ。悪いが協力しちゃくれねーか?」
 時刻はもう間もなく二時になる。モグラは駄菓子屋に集まってくれた八重子、詩魚、森にそう言って頭を下げた。
「とうとう覚悟を決めたんですね! 真木ちゃんが嫌がらない範囲での協力は惜しみませんよ!」
「いいですねぇ、恋バナ! ガンガン行きましょう!」
「僕も協力するよ! 友達には幸せになってほしいからね」
 八重子も詩魚も森も協力には実に前向きだ。
「ところで、先輩は?」
 詩魚の質問に、モグラは足止めと答えた。
「梗ちゃんには猫附家で真木の足止めをしてもらってる。まぁ、杏子ちゃんもいるから何とかなるだろ」
「なるほど! なら先輩の分まで頑張らないとですね!」
 モグラの言葉に、詩魚はさらにやる気をみなぎらせる。
「で、だ。真木の好みとか知らねぇか? 特に八重ちゃん」
「うーん、あんまり恋バナしないんですよね……。あ、でも弟がアレだから誠実が第一って言ってました」
「おっさん、しょっぱなで程よくドスケベな話相手の紹介頼んでるわ……
 ワンアウト。八重子の言葉にモグラが沈む。
「ああ、言ってましたね。擁護できないです」
「でもでも、おいしいものを食べてモグラさんにも食べさせてあげたいっていうのは好きってことですよね!」
「廃棄品でもいいから差し入れてくれって、頼んだことある」
 ツーアウト。自業自得ではあるが、それでは好意か厚意かはわからない。詩魚は何も言えなかった。
「えぇっと、この間バイト帰りに真木さんに会ったとき、モグラさんが来てホッとしたように見えた……と、思うよ」
「そりゃ、こんな成りだが一応成人男性の枠には入ってるから、ああいう時は藤史郎だったとしても安心すんじゃねぇかなぁ」
 ボール。森はそんなことないよとは言えなかった。
 撃沈である。スリーアウトじゃなかっただけまだマシだが、なにせ自分と恋愛を切り離した真木の恋愛に関する情報収集だ。船出からして失敗している感がある。自然に真木から情報を引き出すにはどうすればいいだろうと各自頭を悩ませていた時、駄菓子屋の電話が鳴った。浮雲がそれを取り、モグラに差し出した。
「囚人様、お電話です」
「俺? なんだ、藤史郎か?」
「梗史郎様です」
「梗ちゃん? え、足止めは!? もしもし梗ちゃん!?」
 浮雲の言葉に慌てて電話を替われば、梗史郎は「聞こえてる。お袋がしてるよ」と苛立ち交じりに答えた。
「今お袋がいろいろ話してるから、ちょっと待ってろ。さすがにプライベートなことだから勝手に聞くわけにはいかないが、あとで教えられるところは教えてくれると思う」
「うぉぉ! 杏子ちゃんすげー! ありがとうな、杏子ちゃんも梗ちゃんも!」
「うるせえ! 電話口で騒ぐなっ!」
 盛り上がるモグラを梗史郎が一喝する。
「お袋が、夕飯をみんなで一緒に食べようって言ってたから、夕飯の時間になったら家に来い。それだけだ。また動きがあれば連絡する」
 梗史郎のじゃあなを最後に電話は切れた。
「すげー、さすが杏子ちゃん。とんでもねぇな」
 モグラが梗史郎との通話の内容を話せば、みんなはわっと盛り上がる。
「杏子さんすごいです! 尊敬します!」
「よかったねぇ、モグラさん。第二回対策会議の時には必要な情報が手に入りそうですね!」
「じゃ、今のうちに相手に意識されるための方法でも調べておこうか。好みに沿うだけが恋愛じゃないしね」 
 森は持ってきたタブレットを卓袱台に乗せる。
「森君、今日はアケさんは?」
「元々配信の予定が入ってたらしくて、残念がってたよ。僕も既婚者からの意見とかもらえたらいいかなーとは思ったけど、予定があるなら仕方ないよね」
 僕はあとでアーカイブ見るんだと森が笑う。
「悪いな森君。でも、助かるよ」
「いいよ、僕だってモグラさんと真木さんの役に立ちたいし。今こそ恩返しの時だよ」
 森君はそう言って拳を握ると『恋愛 心理学』で検索した結果をモグラに見せる。
「一番有名な単純接触効果は、今のところ一番しっかりできてるよね」
「真木は律儀で義理堅いからな。前に言った差し入れのこととか、話し相手のこととか覚えててくれてよく来てくれるんだ」
 モグラはそうだなと頷きながらそう言った。
「そうですよね。たぶん、この中の誰よりもモグラさんと会ってるのが真木ちゃんだと思います」
「モグラさんにはしっかり効いてるから、真木さんにはこれからですかね?」
「ぐぅっ」
 詩魚の言葉にモグラが胸を押さえた。効果は抜群だと森が呟く。
「吊橋効果も、そうなりそうな場面って結構ありましたよね」
「真木はビビりだし、いろいろなァ……
 八重子の言葉に、モグラは複雑そうな顔でそう返す。そもそも始まりが大けが、陰鬱な不思議な男としての対応、人魚様、狐の詐欺、爆死で御霊がまろび出たり、疫病神の件もある。心拍数は上昇しっぱなしだろう。ただ、これも意味をなしていない。そもそもが恐ろしすぎて、真木が恋だなんだと勘違いする暇もないのだ。
「あとはこのウィンザー効果とか使えそうじゃないですか?」
「みんなで『モグラさんかっこいいよねー』とか『優しいよねー』とかって真木さんに伝えるってことですか?」
 詩魚が聞けば、八重子と森は眉を寄せた。
「それ、たぶん真木さんは『そうだね』『お人好しすぎるんだよ』くらい言いそうじゃない?」
「あー、言うね、真木ちゃんなら。下手に何回も言うと『モグラは確かにかっこいいし、良い奴だけど恋人とかには向かないんじゃないかな?』くらいのことは言いそうだよね」
「おっさんは今それを聞いて泣きそうです」
 森と八重子の言ったセリフを真木が言いそうだというのは、モグラも痛いほどわかっている。実際、脳内では真木の声でしっかりと再生されている。あまりの胸の痛みにモグラは卓袱台に突っ伏した。ちょっと声が湿っている気すらする。
「ああ、ごめんねモグラさん!」
「大丈夫だよ、今はまだだから! 現時点ではってことだから! これからだよ、これから!」
「ほ、ほら! 『モグラさんが真木ちゃんを見る目ってすっごく優しいよねー』とか!」
「あとは『モグラさんて、真木さんを大事にしてるのが一目でわかるよね』とか!」
 八重子と森はわたわたと慌てながらそう言ってモグラを励ます。
「それ、好意駄々洩れですって宣言にしか聞こえないんだけど」
 モグラの一言にその場がしんと静まり返る。唯一ここにはいない浮雲が、表でプスプスと笑う声が小さく聞こえてくる。一行はすでに暗礁に乗り上げている気がしてきた。
「えーっと、えーっと! あ、これ! これはどうですか!? いわゆるギャップですよ!」
「い、良いですね! 普段しかめっ面の人の笑顔とかきゅんと来ちゃいますよね!」
「わかるー! モグラさんだったら普段にぎやかで楽しい人の、寡黙で真剣な一面とかどうですか? 二人きりでハンドメイド体験やってみたりとか! モグラさんが真剣にモノづくりしてる顔にきゅんと来るかも!」
 八重子と詩魚は必死になって活路を見出そうとしている。わいわいと話し合う女子とは対照的に、森は画面をじっくりと読みながら考える。
「モグラさん」
「ん? なんだ?」
「考えたんだけど、たぶんこれ、真木さんには効かないんじゃないかな」
 森の一言に、再びその場が水を打ったように静まり返った。
「だって、結構今までやってるよね。単純接触も、吊橋効果も、ギャップも。で、モグラさんがものの見事に落ちたのは、それがどんな形であれヒトを愛すること、想われることを知ってるからじゃないかな。でも、今の真木さんはそれに対する心が閉まってる。だから、真木さんには効いていないように見えるんじゃ」
 森の考察に、その場が重苦しい空気に包まれた。
「つまり、真木の意識をどうにかしない限り、どん詰まりってことか?」
「んー。まだそこまでじゃない、と思う。モグラさんって、真木さんにボディータッチとかする?」
「さすがに若い娘さんにそんなことしねえよ。……まあ、ちょーっと背中さすったり頭なでたりしたことくらいはあるけど」
 森の言葉に、モグラは慎重に返す。ここで下手なことを言えば「おっさんアウト」と八重子に言われかねないからだ。
「そっか。じゃあ、それ増やそう」
「は? いやいや、セクハラになるだろ!」
「セクハラにならない範囲で、だよ。例えば肩を抱くとかハグするとかよりも、ちょっと手が触れるとか、いつもより一歩分近づくとか、そんな感じかな」
 目を丸くして困惑するモグラに、森は笑う。
「だって、何かしらの好意がなければ近づかないでしょ? それを一歩分、詰めよう。言葉じゃなく、体感で伝えてみない?」
 にやりと笑う森が、モグラの目には黒田官兵衛のように見えた。