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jerry-fish
2025-10-26 00:28:23
8338文字
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わたしとあなたの恋のたまご
モグ真木(にょた)「蓋をして、深くしまって(
https://privatter.me/page/69c4c8ddd5952)」の続き
梗→←詩魚でもある
1
2
詩魚はご機嫌で帰路についていた。姉がおすすめしてくれたカフェは最高だったし、真木が気持ちに名前をつけてくれてとてもスッキリした。
カフェで話を聞いてくれた真木はとても大人っぽくて素敵だったなと思う。いつも優しい人だと思っていたけど、今日の真木は素敵な大人のお姉さんといった雰囲気があった。
「真木さんかっこよかったなー! すっごく大人っぽくて素敵だった!」
それを誰かに伝えたい気持ちでいっぱいだ。せっかく伝えるなら先輩がいいなとぼんやりと考える。そんな事を考えていたら少し先に見知った後ろ姿が見えた。
「先輩だ! せんぱーい!!」
思わず駆け出すと、梗史郎が振り返った。その隣にモグラの姿も見える。
「犬飼? 今帰りか」
「はい! 真木さんとお茶して恋バナしてきました! 楽しかったです! 先輩もお仕事終わりですか? お家帰るところですか?」
「ああ、うん。モグラに飯たかられてたとこ」
いつも以上に元気いっぱいな詩魚に気圧されながら、梗史郎はそう返す。
「私も行っていいですか!」
「いいな、詩魚ちゃん! 一緒に行こうぜ」
「何当然のように来ることになってんだよお前は」
詩魚とモグラの言葉に呆れながら、それでも来ること自体は否定しない。梗史郎は母親に「モグラと犬飼連れて帰る」とラインを入れる。すぐさま既読がついて「オッケーよ!」という猫のスタンプが帰ってきた。気をつけて帰ってきてねという言葉に同じようにオッケーのスタンプを返す。
「はぁ。行くぞ」
「やったー!」
「ありがとなぁ梗ちゃん」
喜ぶ二人にもう一度ため息を付く。本日の安寧は崩されてしまうことが確定した。それが本当に嫌というわけではないことが、更に嫌になる。結局、梗史郎は二人を懐に入れてしまっているのだ。
「詩魚ちゃんよ、真木との恋バナどうだった? 真木の好きな人って誰?」
「真木さんは恋とかわからないって言ってました!」
詩魚に探りを入れようとしたモグラに、詩魚は元気に返す。
「あー、そっかぁ」
「でも真木さんのお陰でスッキリしました! あと、真木さんすごくかっこよくて素敵なお姉さんって感じしました!」
「へえ、そりゃどういうとこが?」
モグラが興味津々に聞き返す。
「えっと、恋ってなんですかーって聞いたら、嬉しいことは一緒に嬉しいなって言いたくて、苦しいこととか悲しいことがなければいいなって思うことで、なんでもないときに相手のことを考えちゃうなら、それはきっと恋だよって言ってました」
「はー、なるほどなぁ。真木の恋愛観ってのはそうなってんのか」
モグラは感心したように頷いている。梗史郎は二人の会話に苦い顔をした。
「犬飼、それ俺らに伝えたって知れたらあの人めちゃくちゃ恥ずかしがるぞ」
「大丈夫だって梗ちゃん。言わなきゃばれねえよ。詩魚ちゃんも、これは内緒だからな」
「わかりました!」
素直すぎる詩魚に梗史郎はため息を付きたくなった。
「で、犬飼の疑問は解決したのか?」
「はい、バッチリです! 真木さんには恋のたまごって言われました」
詩魚はグッと拳を握って意気揚々と答えた。
「たまごねぇ、好意はあるがまだ恋と断言できない状態ってことか? なるほどなぁ」
「はい! 恋のたまごは育つと恋になって、恋が育つと愛になるんだそうです! それを教えてくれながらコーヒーを飲んでた真木さんが、すっごく素敵な大人の女性って感じで、綺麗でした!」
「いいなぁ、俺も見たかったなぁ」
楽しそうな二人に少し苛立つ。それが何からくる苛立ちかはわかっているが、梗史郎はまだ認めたくないと思っている。ナベシマが「ンンン」と鳴きながらモグラに狙いを定めようとしているのを制止した。
「そもそも、真木さんは大人の女性だろ」
「そうなんですけど! そうなんですけど違うんです。こう、あんにゅい? な雰囲気っていうか!」
どう言語化すべきかと詩魚が悩む。
「アンニュイな真木かぁ、見たかったな。見せてくれねえかな」
「多分それ言ったら『何いってんの』って言われるぞお前」
「言われそう。っつーか言われるな、確実に」
「わかってんなら黙れ」
モグラと梗史郎の軽快なやり取りを、詩魚はニコニコと聞いている。
「どうした詩魚ちゃん。やけにご機嫌だな」
「はい! 先輩が楽しそうで嬉しいです!」
「ああ、そう」
モグラが聞けば、詩魚は嬉しそうに笑う。それに梗史郎はそっけなく返した。ちょっと顔が熱く感じるのは、きっと梗史郎の気のせいだ。
「そうだ! モグラさんは真木さんが好きなんですよね? 頑張ってください!」
恋バナで思いついたのだろう詩魚が、そんな爆弾をぶち込んだ。梗史郎とモグラどころか、ナベシマまで目を丸くしている。
「
……
あのさぁ、八重ちゃんといい詩魚ちゃんといい、おっさんそんなにわかりやすい? ねえ、ホントに真木にはバレてねえよな?」
両手で顔を覆ったモグラがそう呻いた。
「真木さんが気づいてるかどうかはわかんないけど、私から見たモグラさんは好きって気持ちがだだ漏れです!」
「まじで? 梗ちゃんもそう思う?」
「
……
真木さんがお前からの好意に気づいてたら何かしら態度に出るだろ」
「一ミリもねえのよ
……
。ほんとに。ただの友達だって思われてんだよぉ」
梗史郎の言葉にモグラは顔を覆ったままうなだれた。
「でも脈ナシってわけじゃなさそうですよ」
そんな詩魚の言葉に、梗史郎もモグラも目を丸くした。
「今日行ったカフェで、真木さんアップルパイ食べてたんです。誰に食べさせてあげたいですかって聞いたらモグラさんって言ってましたよ! あんまり甘いもの食べられないだろうからって」
「それは
……
どっちだ? 恋か? 友情か? 梗ちゃんどう思う?」
「うるせえ俺に聞くな! 親戚の恋バナ聞いてるみたいでいたたまれねえ!」
真剣な顔で聞いてくるモグラに思わず叫ぶように返す。
「今参考にできるのが梗ちゃんと詩魚ちゃんしかいねえんだよ! 藤史郎に聞いてみろ、イケブクロさんの爪とぎだぞ!?」
「初手でそこ行くなんて何やったんだお前!」
「何もしてねえよ! できねえよ! 俺ぁな、真木には優しくて頼りになる旦那と可愛い子供に囲まれて笑ってほしいんだよ! 本人には思い切り否定されたけども!」
「当然だ! 他人の幸せを勝手に決めんな! 」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人に、詩魚は眉を下げて首をかしげる。
「なんだか寂しいですね」
そんな詩魚の言葉に、男二人は「は?」と静かになった。
「モグラさんは真木さんが好きで、真木さんもたぶんモグラさんのことは好きだと思います。恋のたまごです。なのに、お互い一緒にいられないって、相手のことは好きだけど恋じゃないぞって言い張ってるのって、なんだか寂しいなって思います」
モグラは苦虫をかみつぶしたような表情で言葉を詰まらせる。相手のことを思えばこそ身を引くという判断だが、それはモグラが勝手に決めつけているだけのことだ。真木の気持ちを無視しているということに変わりはない。
「でもなぁ、おっさんは職なし金なし戸籍なしだぞ。年齢だってだいぶ違う。そんな奴が、あんな若い子の未来を奪っちゃいけねえよ」
「それ、真木さんが嫌だって言ったんですか?」
モグラの言葉に、詩魚はきょとんとした顔でそう聞いた。
「言わねえよ、そんなこと。アイツは優しいいい子だ。ただ、俺が許せねえんだよ。好いた相手にはいっとう幸せになってほしい。俺じゃ、それは無理なんだ」
モグラがうめくように言う。詩魚は不思議そうな、何とも言えない顔でもぐらを見ている。
「だから、真木さんの幸せをお前が決めんな」
梗史郎が静かに言った。
「正直、俺はお前が相手なら誰であれまっとうな幸せってのは手に入らないと思う。ただ、そのまっとうな幸せってのを相手が求めてるのか否かは、その人が決めることだ。俺でも、お前でもない。お前が嫌がる真木さんを求めるなら、俺も親父もお前を止める。ただ、真木さんが嫌がらないならそれは俺たちの仕事じゃない」
「でも、なぁ」
「第一、幸せになりたいんだろ。ここで諦めて、それで幸せだって、胸張って真木さんに言えんのか?」
モグラは再び言葉を詰まらせた。婚礼衣装を身にまとい、はにかむ真木の隣にいる知らない誰か。それを心から祝福できるかと言えば、答えは否だ。その場では祝福できたとしても、きっと一人になった時点で生涯唯一の恋を胸に涙する未来しか見えない。それを、幸せだなんて呼べはしない。
「いいのかなぁ、俺が
……
。こんな俺が、まだ未来ある若いお嬢さんに手ぇ伸ばしても」
「だから、真木さんがいいって言うならいいだろ。それは誰であっても否定できることじゃねえよ」
「いいと思います! モグラさんも幸せになりましょう!」
独白に近い、小さな問いかけ。梗史郎はそれを否定しない。詩魚は笑顔で応援してくれる。
「
……
梗ちゃん、やっぱ今日は行くのやめるわ。ちょっと一人で考えたい」
「そうか。じゃあな、モグラ。犬飼は来るんだろ? 行くぞ」
「はい! モグラさんさようなら!」
「おう、またな。梗ちゃん、詩魚ちゃん。藤史郎と杏子ちゃんによろしく言っといてくれ」
ややふらふらとした足取りで帰宅するモグラを二人で見送った。
「モグラさん、大丈夫ですかね?」
「まあ、大丈夫だろ。犬飼、よくやった」
少し心配そうな詩魚に、梗史郎はそういって褒めた。詩魚はぱっと喜色を浮かべる。
「はい! なんだかよくわかんないけど、ありがとうございます!」
満面の笑みとともに先輩に褒められてうれしいと顔に書いてあるような気がして、気恥ずかしくなって顔をそらす。
「俺らも行こう。おふくろと親父が待ってる」
「はい!」
もう間もなく日が暮れる。歩道側を歩く詩魚と車道側を譲らない梗史郎の影が、長く道に伸びていた。
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