jerry-fish
2025-10-19 16:29:30
5459文字
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蓋をして、深くしまって

モグ
モグ真木(にょた)
「優しくて誠実で、嘘つきな(https://privatter.me/page/69c4c8ddd28ec)」の続き。



 モグラが話して、真木が聞く。真木は聞き上手だ。だからつい、モグラはいつも話しすぎてしまう。
「そろそろ帰るよ。マギーくん、おいで。またな、モグラ」
 マギーくんが定位置についたのを確認して、お邪魔しましたと言ってもぐら湯をあとにする真木にまた来いよと手を振った。
 とたんにしんとするもぐら湯に、もぐらはため息を付いて頭を掻く。
「今いる友だちの役に立ちたい、ね」
 美しい目だった。凛とした声に、芯のある言葉。
 ああ、強い子だ。美しい子だと思った。
 だからこそ、もったいないとモグラは思う。もっと自分に自信が持てれば、きっとあの子の周りは見る目を変えるだろう。
 愛想も愛嬌もない? とんでもない。
 見えないだけ、気付かないだけだ。見えれば気づくだろう。ふっと表情が緩んだときの慈愛深い微笑みや、楽しそうに目を細める姿。楽しそうにクスクスと笑う鈴を転がすような声。もし誰かがそれに気づいたら、きっとこう思うだろう。あいつ、あんなに可愛かったんだな、と。
 そこから恋に、愛に発展してほしいと願う自分。同時に、誰にも気づかれないでずっとずぅっと隣りにいてほしいと願う自分。醜いなと自嘲する。あんなに恋愛しろ、結婚しろと言っているくせに本心ではこうなのだから嫌になる。

 誰かのものにならないで。
 愛する人を見つけて。
 ずっと隣りにいて。
 幸せになって。
 一人にならないで。
 一人にしないで。

 なんて、馬鹿馬鹿しい。神に向いていないくせに、執着だけはそれと同等なのだから呆れてものも言えない。
「白無垢に、ウェディングドレス、ねぇ」
 それが見たいのは本心だ。きっと、いや絶対に美しい。けれど自分にはそれを着せる資格はない。本当は、想う資格だってない。だって、モグラは罪人だ。いつあの世に帰れるともしれない、他人の灯を、他人の身体を盗み生き続ける卑しい罪人なのだ。真木がこれを聞けば、きっと眉を寄せて怒るだろう。
『一番つらいのはお前なのに、なんで自分を追い詰めるようなこと言うんだ。もっと大事にしろバカ』
 言われたことはないのに、そんな声まで聞こえた気がして苦笑する。
「あー、欲しいなぁ」
 本心がぽろりと転がり落ちた。こんな罪人には過ぎた善人だ。何より、ヒトはヒト同士番うべきだ。神が気まぐれに手を出していいものではない。
 
 もしも、俺がヒトであったならば。

 馬鹿な妄想だ。ヒトであったなら、あの広辞苑の時点ですでに死んでいただろう。あるいは、死んでいなかったとしても真木がここまで関わってくれることはなかったはずだ。ヒトなら保険証あっただろうし、救急車を呼んで説明をしてサヨウナラだっただろう。
 モグラが百暗であるから真木とはいられない。でも、百暗がモグラであるから真木と出会えた。
 難儀な話である。

 『いつものモグラがいるなぁって思うよ』

 いつかの真木の言葉に、モグラはモグラでしかないなんて当たり前のことを思い出す。
「ままならねぇなぁ、ほんと」
 モグラは大きく息を吐く。


 また、しまっておかなくては。
 蓋をぎゅっと締めて、心の奥に沈める。
 恋なんてできる身分じゃない。
 あの子に迷惑をかけたくない。
 あの子に幸せになってほしい。
 あの子を幸せにできるのは、俺じゃない。
 だから『真木が好き』という気持ちに『大切なもの』のラベルを貼って、心の奥深くに陳列しておく。
 いつか、穏やかな気持で彼女の幸せを言祝げるように。

 ――これは、生涯唯一の恋だ。