jerry-fish
2025-10-13 00:39:55
7535文字
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優しくて誠実で、嘘つきな

モグ真木(にょた)「やさしくてかっこいいきみ(https://privatter.me/page/69c4c8ddd15ae)」の続き。
ちょっと書いてる本人も「あれ?」って思ってる

 もう間もなく夕飯時だが、梗史郎は街灯の下でしゃがんでうなだれていた。
「あー、ミスった。あの程度のやつに手こずりすぎた」
 猫附は化け猫にカロリーを持っていかれるゆえに、常にかばんには非常食が入っている。だが今回はそれを食べても足りずに、家から遠くはないが近くはないという中途半端な場所で足が止まってしまった。原因であるナベシマは「ンンー」と不満げな声を上げる。
「お前のせいでエネルギー不足なんだよ」
ナベシマはその長い舌でザリザりと梗史郎の顔をなめる。
「やめろ。痛い」
「梗史郎?」
 女性の声が聞こえて、梗史郎とナベシマは顔を上げた。
「うわ、顔真っ白じゃん! 大丈夫?」
「真木さん……
 そこにいたのは数か月前に知合ったばかりの真木だった。
「お祓いしてきたの? あ、じゃあお腹空いてるんだ。とりあえずこれ食べて。夕飯買っといてよかったよ」
 真木は梗史郎の状況を察して持っていたビニール袋からおにぎりを取り出した。
「いやこれ、真木さんのですよね」
「いいから。そんな真っ白な顔の子を放ってはおけないよ。お家には電話した?」
 真木はそう言いながらぱぱっと鮭おにぎりのパッケージをはぐ。ナベシマは真木の手元に鼻を近づける。最近のマギー君はそれに動じることもなく定位置でリラックス状態だ。
「まだです」
「電話しちゃっていい? それとも食べてから考える?」
「じゃあ、先に食っちゃいます。いただきます」
 こうなってしまっては拒否権などないと梗史郎はおにぎりを口に運ぶ。
「もう一個は昆布だけど、昆布好き? サラダはさすがにここでは食べられないからなぁ」
「昆布も好きです」
「そっか。良かった。はい」
「判断が早すぎる……。ありがとうございます」
 あっという間におにぎりを胃に納めると、何とか家まで動けそうだった。
「教授に電話しようか?」
「や、歩けそうなんで大丈夫です。真木さんさえ良ければ寄って行ってください。夕飯もらっちゃったし、代わりにうちで食べてってください」
「え、いいよ別に。帰ってからなんか適当に食べるし」
 だから気にしないでと言われても、はいそうですかと頷けるような人間ではない。
「いえ、受けた恩はしっかり還すもんですから。それに、さすがに真木さん送っていけるほどの体力は回復してないので」
「義理堅いなぁ。まあ、心配だしとりあえず送っていくよ。立てる?」
 差し出された手を取って立ち上がる。
「ふらついてもいないし、大丈夫そうだね」
 そう言って真木は梗史郎に並んで歩きだす。真木は当然のように車道側を歩いている。それが気にかかって真木を見れば、一瞬不思議そうだったがすぐ理由を察した。
「梗史郎はそっちね。万一車が来たら危ないから。脂肪のクッションがない分、梗史郎のほうがまずいから」
「いや交通事故レベルになったらクッションの有無そこまで関係ない気がするんですけど」
「それでも、年下だから」
 真木はそう言って車道側を歩く。黒いパーカーは闇に紛れやすく危ないが、いつも背負っているリュックには反射材キーホルダーがついていた。見覚えのある土竜のイラストが描いてあるキーホルダーは、案の定モグラの手作りだと真木は笑った。
「ほら、いつも黒い服着てるからリュックにつけとけって」
「アイツにしては良いこと言いますね」
「あはは、梗史郎はモグラに厳しいな」
 くすくすと笑う真木はなかなか珍しい。あの弟とは大違いだと脳裏をかすめた。しばらく歩くと猫附の屋敷が見えてきた。玄関までついたところで「じゃあまたね」と帰ろうとする真木の手を、梗史郎は思わずつかんだ。
「どうしたの?」
「真木さん俺に飯くれたんだし、お礼させてくれるんじゃないんですか?」
「お礼されるほどのことじゃないよ。気にしないで」
「ここで帰したら俺がお袋に怒られるんで」
……じゃあ、お邪魔しようかな」
 梗史郎の言葉に、とうとう真木が折れた。ガラガラと引き戸を開けると「おかえりなさい梗ちゃん! いらっしゃい真木ちゃん!」と杏子が笑顔で出てきた。
「ただいま」
「突然すみません」
「いいのよ! 梗ちゃんを送ってくれてありがとう。ちょうど夕飯時だから、真木ちゃんさえよければ一緒に食べていってくれる? みんなで食べるご飯はおいしいもの」
 恐縮する真木に、杏子は笑顔でそう告げる。そこまで言われると逆に断るほうが申し訳なくて、ありがたくご相伴にあずかりますと一礼した。
「いいのよ! さぁ、まずは手洗いうがいよ!」
 さあさあと促されて洗面所を借りる。梗史郎は先に着替えてくると自室に向かった。真木は杏子に手伝いを申し出て、できた料理を食卓に運んでいく。居間では藤史郎が新聞を読んでいた。
「真木さん」
「教授、お邪魔してます。すみません、家族水入らずの時に」
「気にすることはない。今日はいないが、犬飼さんやモグラがいることも多い。何より、杏子は大勢で食卓を囲むのが好きだからな。申し訳ないが付き合ってやってほしい」
「そんな、こっちこそありがたいですよ」
「何、我が家はこれだから毎度食事は多く作るんだ。気にしなくていい。それより、梗史郎を助けてくれたと聞いた。ありがとう」
「私がやりたくてやったことなので。お礼を言われるようなことはしていないです」
 料理を食卓に並べるとまた台所に戻ろうとする真木を、藤史郎が呼び止めた。
 「真木さん、謙遜は悪いことではない。この国では美徳とされているからな。だが、過ぎた謙遜は身を亡ぼす。君のやさしさに漬け込むバカが出ないとも限らない。さらに、誰かを助けたことを軽く見るのは助けた相手を軽く見ることにもつながる。だから、感謝は素直に受け取りなさい」
「そう、ですね。確かに教授や杏子さんにしたら、大切な梗史郎をささやかでも助けたってことですもんね。すみません、そこまで考えていませんでした」
「そこまで気に病むことではない。だが、もう一度礼を言わせてほしい。梗史郎を助けてくれてありがとう」
「はい」
 戸惑い六割と喜び四割の声で真木が言った。マギー君もどうしていいのかわからずに、真木の頭の上で首をかしげている。
「じゃあ、あの、お手伝いに戻りますね」
「客人なのだからのんびりしていればいい」
「さすがにそれは胃が痛みます……
 困ったように眉を下げて真木は杏子の手伝いに戻る。ならばいいかと藤史郎は新聞に目を戻した。真木が台所に行くと、入れ違いで梗史郎が居間に入ってきた。
「ただいま、親父。真木さんは?」
「おかえり梗史郎。杏子の手伝いだ。何もしないのは胃が痛むそうだ」
「真木さんらしい」
 小さく笑う息子に、ふむと梗史郎は考える。おそらく、梗史郎は詩魚が気になっている。詩魚のほうも悪い気はしていなそうだ。だが万一、二人がくっつかなければ、真木も嫁候補にはふさわしいのではないだろうか。もちろん当人同士の意思が最重要ではあるが。
「親父……
 いささか冷たい息子の声に、さすが親の考えていることがよくわかっているなと頷く。
「真木さんのことは姉みたいに思ってる。そういうのじゃない」
「そうか。悪かった」
「思ってもないことを」
 梗史郎はこれ以上何を言っても仕方がないとでもいうように溜息をついて食卓に着く。杏子と真木が最後の料理を食卓に並べ、にぎやかだが真木にとってはいささか緊張する夕食が始まった。
「よー、来たぜ! 藤史郎、杏子ちゃん、梗ちゃん、真木!」
「モグラ? なんで?」
「私が呼んだのよ。夕食をご馳走する代わりに真木ちゃんをお家まで送ってあげてって」
 食後になったら一人で出歩く時間じゃないものと杏子がにこやかに言う。有無を言わさぬ笑顔の圧と、すでにモグラがここにいるという状況に真木は頷くしかできなかった。
 モグラが来たことにより一層にぎやかになった夕飯時は過ぎ去り「お土産よ! 明日チンして食べてネ!」といくつかタッパーとマギー君ように林檎を持たせてもらった真木は何度もお礼を言って猫附家を後にした。
「杏子」
「なぁに、藤史郎さん」
「何が見えた?」
「んー、ふふ。これは藤史郎さんにも内緒よ。でもね、私は真木ちゃんにもモグラちゃんにも幸せになってほしいの」
 柔らかく目を細める杏子に、藤史郎もふっと表情をやわらげる。
「そうか。なら、それでいい」
「でも、梗ちゃんは真木ちゃんをお姉ちゃんみたいに思っているのよね。いっそ養子縁組してうちの子にできないかしら!」
「それこそ本人の意思が最重要だが、真木さんにその気があるならぜひ検討したい。梗史郎はどうだ?」
……正直、悪くない。真木さんいい人だし。優しくて誠実で、うちのクラスの真木が真木さんの弟だなんて全然結びつかなかったくらいだし。ただ、真木さんはうちに来たら申し訳ないとか言って胃を痛めると思う」
 それはそうだと藤史郎と杏子は頷いた。
「本当はもっとちゃんと礼をさせてくれればいいんだけど、なかなか受け取ってくれないんだ。俺が年下だからとか、自分が年上だからとかそうやって自分の優しさをなかったことにする。自分は与えて当然だ、それで損しても当然みたいなさ。俺はそういうの良くないと思うし、真木さんには報われてほしいと思う」
「さすが梗ちゃん、いいこと言うわね」
「聞いたら真木さんも喜ぶだろうな。反応は盛大な赤面になるだろうが。あとモグラが騒ぐ」
「最後のが一番嫌だ……
 げんなりとした梗史郎に杏子はくすくすと笑う。
「お膳立てはしたから、あとはモグラちゃんが頑張れるかどうかね!」
 ふんすと目を輝かせる杏子に、梗史郎は藤史郎を見る。藤史郎はわからんと言わんばかりに首を横に振った。


 真木を家まで送るのは何度目だっただろうか。前回は森君の思わぬ一言で衝動的な行動をしそうになった。今回はそんなことのないように、しっかりと鋼の意思を持つぞと意気込んでいる。
「杏子さんのご飯、おいしかったな」
「そうだな。藤史郎はホントにできた嫁さんをもらったよ」
 夜の道を歩く。もちろん、モグラが車道側を歩いている。真木は最初こそ気にしていたが、モグラが譲らないのでもうあきらめてくれた。
「梗史郎も真面目なしっかり者で、いい旦那さんになりそうだね」
「ああ、梗ちゃんもいい旦那になるぞ。見た目は藤史郎似で、杏子ちゃん似の優しさもあるからな。俺に対してはとんでもねえ塩対応だけど」
「ああ、うん、それは仕方ないかもね。でもさ、梗史郎なりに甘えてるからああいう態度になるんじゃない?」
 みんな一度は通る道だよねと真木は眉を下げて笑う。
「甘えるのは良いけどもっと優しく甘えてほしいもんだぜ」
 わざとらしいため息をつきながらワシワシと頭を掻くモグラに「モグラの行いもあるからなぁ」と呆れ半分からかい半分で言った。
「最近梗史郎と詩魚ちゃんがいい雰囲気な気がするんだよね。いい方向にいってくれるといいな」
「やっぱあの二人そういう感じなんだ。梗ちゃんと詩魚ちゃんの子供とか、めちゃくちゃ強そうだな」
「化け猫憑きだけど筋力体力のあるパワーあふれる子供ってこと? なんだかモグラの灯もいらなそうな感じだね」
 確定ではないけど、その子を見れるまで交流が続けばいいなと真木は目を細める。
「真木ちゃんはどうなのよ? そういうのは」
「いないよ。私のことを好きになるような人は。何より、そういうのよくわかんないしさ」
 モグラの質問に、当然のことのように真木は答えた。
「じゃあ、いたらどうする?」
「万が一いたら……だめだ、想像もしたことないから何も思い浮かばない」
 むうと眉を寄せ渋い顔で唸る真木に、モグラは絶句したい気持ちになった。ここまで自分が愛されることはないと思い込むなんて、この子は本当にどうやって今まで過ごしてきたんだと泣きたくなるほど胸が痛んだ。
「もったいねえなぁ。真木は本当にいい奴だ。真面目で誠実で優しくて可愛い。お前の周りの男どもはホント見る目がないよ」
「何言ってんだお前」
 心底呆れていますと言う表情を隠しもせずに真木が言った。
「お前その表情はひでぇんじゃねえの!?」
「モグラ」
「なに?」
「眼科に行ったほうがいい。あとは脳神経内科か? 認知のゆがみは精神科か?」
 真木は酷く真面目腐った顔で言った。
「行かねえよ!!」
 モグラの渾身の突っ込みにけらけら笑う。
「私は嫁の貰い手なんてないよ。いないし必要もない。継ぐような家じゃないし、何より弟がいるからね。あの家に私はいらないよ」
「めったなこと言うもんじゃねえよ。そんなこと藤史郎と杏子ちゃんの前で言ってみ?」
「あー、子を持つ親としては悲しいよな」
 仲良し猫附家を考えればそうなるのも仕方ないなと真木も頷く。
「違う。翌日になったら養子縁組の書類揃えてくるぞ。梗史郎の姉になるつもりはないかって言ってくるに決まってる」
「さすがにそれはない」
「いーや! 絶対言うねアイツなら! 杏子ちゃんが気に入ってて、梗ちゃんが懐いてて、祓い屋の仕事も藤史郎の文筆家や教授としての仕事のサポートもできる。真面目で誠実で優しく、細かいことにも気配りができる。詩魚ちゃんと梗ちゃんがくっつかなければ梗ちゃんの嫁にならないかって言われるレベルだぞ」
 右斜め上にぶっ飛んだモグラの言葉に真木はなんだコイツの表情が隠せなくなっている。
「それこそまさかだよ。たとえ詩魚ちゃんとうまくいかなくても、梗史郎にはもっとふさわしい人がいるでしょ」
「あーもう! なんでそんなに自分を低く見積もるんだよ」
「割と本気でこれが適正だと思ってるけど」
 ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜるモグラを見ながら、モグラは変わってるからなぁと真木は遠い目をする。現代日本において真木のような女は売れ残りほぼ確定で、その分自分のやりたいように過ごすのだ。
「それにほら、恋人だ家族だが出来たらモグラの灯集めに協力できる時間減るじゃん。それは嫌なんだよね。だからさ、独り身ってのも悪くないんだよ、ほんとに」
 真木の言葉にモグラは目を丸くして、大きくため息を吐いて顔を両手で覆ってしまった。
「も、モグラ? どうした突然?」
 突然のモグラの奇行に真木はおろおろと手と目をさまよわせる。
「真木ちゃんさぁ、それ、他の何よりも俺のことが大事ですって聞こえんだけど」
「何よりもではない。今は単位とお金が大事。でも、その次くらいにはモグラの灯集めに協力するのが大事だと思ってるよ」
「その割には俺に差し入れ持ってきてくれるじゃん」
「あれはほぼ廃棄品だから自分の財布はさほど痛まないんだよね。それにモグラが体調崩して灯を使うなんてことになったら大変だろ? なら、そこに対するお金は必要経費だよ」
 ほら、立ち止まらないで帰るぞと真木はモグラの着物の袖を引く。
「ちょっと待って。ちょっとだけ待ってて」
 モグラは二回大きく深呼吸をした。コイツ本当にどうしたんだと真木の目が言っていたが、今は正直それどころではない。外れそうになった箍を、モグラは今必死で修復しているのだ。真木には優しくて頼りになる旦那と可愛い子供に囲まれて平凡平穏で穏やかに笑って最期まで生きてほしい。そんな自分の願いをモグラは心の中で叫ぶ。
「いやお前、マジで大丈夫か?」
 主に頭がと言わんばかりの顔だ。
「あー、うん。大丈夫。大丈夫だ。おっさんちょっと勘違いしそうになっただけだから」
「勘違い?」
「真木が……もしかしたら……俺に好意があるんではって……
「そりゃ好きじゃなきゃ灯集め手伝わないし、差し入れもしないだろ? 八重ちゃんや森くんと遊ぶのも好きだからだし、梗史郎が具合悪そうなら助けてあげたいのも、まあ年下というのはあるけど好きだからだし。仮に、詩魚ちゃんが困ってたら助けてあげたいし一緒に遊びたいって思うのも好きだからだし」
……そうだよな。そうなるよな。うん、わかってた」
 何バカなこと言ってんだと笑われる覚悟で言った言葉が、より変な方向に飛んで行ってしまった。でもいつも仲良くしてるメンツと並ぶほどには好きだと思ってくれていることが正直すごく嬉しい。ない恋よりもあたたかな友愛が嬉しい。
……。あ、もしかして恋愛的な意味ってこと? あれだけメンヘラヤンデレ怖いって言ってる奴にそういう感情を向けられないよ。だから安心して」
 真木はいつも通りとてもフラットにそう言った。それはモグラにとっては喜びを返してほしいと思うほどには致命的な言葉だった。
「アリガトウ」
 片言だけど返しただけ、俺は褒められてしかるべきだと思う。モグラは切実にそう思った。
「あれだったら、私一人で帰るよ? それかもぐら湯まで送ろうか?」
 様子のおかしいモグラに真木は心配そうに言った。
「最後まで送るから!」
「よし、行こう」
 モグラの言葉に、真木はさっさと歩きだす。その眉間には皺が寄っていて、表情はどこか苦しそうだ。モグラにバレないように深呼吸する。

 大丈夫。友達として、モグラが好き。モグラがお人好しな友達だから、助けたいと思う。友達としての好きだから。だから、大丈夫。
 ――これは、恋なんかじゃない。いつも助けてくれる友達への、愛だ。

 頭の中で繰り返す。
「真木? どうした?」
「今唐突に明日からちょっとバイトが忙しいんだよなーって思い出した」
「マジか。じゃあ今日はゆっくり休めよ。無理せず踏ん張れ。ただでさえお前は頑張りすぎるからな」
 優しく頭を撫でてくるモグラの手に、子ども扱いするなよなんて言いながら表情が緩まないように気を付けた。
 
 いつもの場所で、もぐらと分かれる。
「今日もありがとな。おやすみ、モグラ」
「おう、気にすんな。おやすみ、真木」
 扉を閉めて、鍵をかける。チェーンロックも忘れずに。それから、冷蔵庫にもらったお土産を入れていく。マギー君は林檎に目をキラキラさせていたけど、もうお腹いっぱいだから明日ねと言えば「ぴ」と鳴いて定位置のクッションに丸くなった。それを確認して真木はシャワーを浴びる。お湯になる前の水が、真木の体も頭も冷やしていく。
「大丈夫。大丈夫。ごめん、モグラ。大丈夫。これは恋じゃないから。ただの、友達の好きだから。だから」
 
 そばにいさせて。

 本音は口から出ることなく、水音に紛れて消えていった。