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かなざわ
2026-03-22 19:25:59
5433文字
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指輪と首輪は似ていない
お付き合いしてるけど同棲はまだのよだつか。
携帯を割と使っている純がいます。2ページ目は1ページ目の前日譚と後日談な、汐恩と純の話。
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「純くん、これ見て」
とある日。慎一郎の会いに鴗鳥家を訪れていた純は、テラスで汐恩にそう声をかけられた。慎一郎はクラブの関係者からかかってきた電話を受け、席を外していた。
理凰の妹である汐恩は、純を避けがちの兄とは違い物怖じせず話しかけてくる。
汐恩から純への呼び名が「純くん」なのは、父である慎一郎を真似ているのだろう。
純の隣の椅子に座った汐恩は、手にしていた携帯の画面を見せて来ようとしている。
離席した慎一郎を待っているだけだった純は、手持ち無沙汰だったのもあり頷いたのだった。
「
……
いいよ」
「これね、汐恩の友達と撮ったんだよ」
「そう」
「ここでね、こうするとー、ホラスタンプ! 可愛いでしょ」
「そうかもね」
汐恩の小さな指が画面を弄り、表示されている写真にぽんぽんとスタンプが追加されていく。可愛いかどうかはよく分からなかったが、カラフルだなとは思った。
リアクションの薄い純に慣れている汐恩は、特に気にしている様子もない。
「純くんの写真は?」
「ないよ」
「撮らないの?」
「特に必要ない」
現役時代にもインタビューだ撮影だと、様々な媒体にカメラを向けられてきた。そこで辟易したからというわけでもないが、純は自分から積極的に写真を撮影したいと思うことはほとんどなかった。
汐恩は純の言葉を聞き、不思議そうな顔で首を傾げる。
「そうなんだー。恋人さんと一緒に撮ったらいいのに」
「一緒に?」
「ママも、パパと一緒に撮ったやつを壁紙にしてるよ。パパはみんなで撮った写真だし」
「
……
そう」
その発想はなかったな、と呟くのは内心でだけだ。
恋人や家族とは一緒に写真を撮るもの、撮った写真を壁紙にするもの、という知識が純の中にインプットされる。
汐恩は次の写真を純に見せてきた。どこかの施設らしき建物の前で、汐恩が友人と一緒に笑顔でピースをしている。
「この写真は、遠足で撮ったんだよー」
「遠足」
「お出かけしたら撮るの、楽しいよ」
「そう」
「純くん何か撮ったら、汐恩にも見せてね」
「撮ったらね」
純と汐恩がそんな会話を交わしてから、数ヶ月が経った後。
所用で慎一郎を訪ねた純は、学校から帰宅してきた汐恩を見てふと以前の会話を思い出していた。
咥えていた煙草を携帯灰皿に押し込み、リビングにいる汐恩に向けて手招きをする。汐恩は背負っていたランドセルを床に置くと、足取り軽やかにテラスに出てきた。
「純くん、こんにちはー。どうしたの?」
「写真、撮ったよ」
「ほんと? 見せて見せて!」
跳ねるように隣にやってきた汐恩に、携帯の画面を見せる。
汐恩が見せたようなスタンプでの加工などはしていないが、間違いなく純が自撮りした写真だ。カメラ目線ではにかむ司と、その頬にキスをしている純の写真である。
純の写真を見た汐恩は、おお、と歓声を上げた。
「いいねー、純くん撮るの上手だね~!」
汐恩が純の携帯を手に盛り上がっていると、慎一郎がテラスへ戻ってくる。その手には、純へ出すための急須と湯呑みが置かれた小さなお盆が乗せられていた。
純が出されたものに口をつける頻度が限りなく低いことを知りながら、慎一郎はいつでも純をもてなすことを疎かにしたりはしなかった。誠実さと、少しばかりの頑固さと。そういう慎一郎だからこそ、純との付き合いが続いているのだろう。
「汐恩、純くん、楽しそうだね。何見てるんだい?」
「純くんの写真だよ」
「写真? 純くんが撮るのは珍しいね」
「司と撮った」
「明浦路先生と?」
慎一郎は、純と司が交際関係にあることを知っている。そんな慎一郎でも、純が「恋人と写真を撮る」とは思っていなかったらしい。
瞠目している慎一郎に、汐恩が手にしていた携帯の画面を見せた。
「これだよ、パパ」
「これは
……
いい写真だね」
純と司が写っている写真を目にした慎一郎は、どこか感慨深げにそう言葉を紡いだ。穏やかに細められた眼差しは、慎一郎が心から「いい写真だ」と感じているのだと伝えてくるには十分だった。
恋人と共に撮った、少しばかり浮かれていると自覚している瞬間を切り取った写真だ。それを親友に祝福されるのは、気恥ずかしさと嬉しさが同時に押し寄せてくるような心地になった。
返事に迷い、言葉が見つからず。煙草に手を伸ばしかけるが、汐恩がいるからと思い止まった。
「らぶらぶだよね~。純くん、これママにも見せていい?」
「
……
いいよ」
「いいのかい、純くん?」
「君とエイヴァ程じゃないと思うけど」
皮肉にもならない返事をすれば、慎一郎は一度きょとんとした顔をして。それから、ふふっと声を上げて笑った。
「純くんも見せつけてくれていいからね」
「
……
そのうちね」
この後、帰宅したエイヴァに汐恩が嬉々として写真を見せに行き。エイヴァと共にいた理凰も、当然の流れとして写真を見てしまい。
理凰の絶叫と共に一悶着あることを、純も慎一郎も、汐恩も知らなかった。
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