ゑ/圓堂
2026-03-28 22:00:00
5853文字
Public 月詠サーバー(満月本丸)
 

【刀剣乱舞】笹さに♂Twitterログ03【笹貫×創作男審神者】

Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめ笹みち編。今年に入ってから今日までに上げたものをまとめました。
凍える冬の少しおセンチな小話『とける』
伸びすぎた髪を切りたいみちさんの小話『煩わしさも恋のうち』
相互の雪路さんと生み出した創作軍艦キャラ・昇平丸( プロフ→https://x.com/yukizi0v0/status/2028012875789602925 )にまつわる旅行小話『友愛は永遠の波間に』
の三本立てです。


【煩わしさも恋のうち】

「うーん、明日行ってこようかなぁ」
「どこに?」
「床屋」

自室にて一日の全てのルーティンを終えた僕の独り言を、さも当然のように居座り好き勝手にくつろいでいた笹貫は聞き逃さなかった。
僕は文机に向き合ったまま、後頭部に手を遣る。湯上りの髪はまだ微かに湿っており、ひんやりとした感触が皮膚を通して伝わってきた。

冬らしい寒さが順当に続く日々の中で、僕は然して普段より忙しくしているわけでもないというのに、だらだらと散髪を先延ばしにしている。
冷え込みが厳しいからといって本丸から全く出ない生活をしているということもない。最低でも週に一度はサーバー内の繁華街へ買い出しに行くのだ。同じエリアに床屋もあるのだから、立ち寄るチャンスはこれまでにも何度もあった。その選択をとらぬまま今の今まで放置しているのは、単純に僕の怠慢だ。
年々、少しずつ小さな『面倒臭い』を積み重ねている自覚がある。年齢の所為にしても構わない歳なのだろうが、全てをそれで片付けてしまうのは、些か不愉快にも思える。
そんな思いと共に、生乾きの残る髪の冷たさも相俟って、渋面が滲むのを僕は抑えることが出来なかった。

背後で、畳の擦れる音と共に身体を起こす気配があった。次いで、視界の右側に鮮やかな土国石ターコイズが現れる。
艶艶とした黒い髪の隙間から覗くその鉱石は、深い海のように底知れぬ色で、僕の顔をまじまじと覗き込んだ。
くい、と笹貫の唇が弧を描く。

「確かに伸びてんね」
「でしょ。前髪も邪魔だし、後ろも好い加減整えないとね」

寒いから、襟足は長い方が温かいのかもしれないけど——僕が付け足すと、笹貫は短く肯定の意を発した。そして、おもむろに僕の両頬を広い掌で包み込んだ。
火傷しそうなほどの、活力に満ちた体温が、熱い。

「もうちょいこのままってのは、ど?」
「えぇー、嫌だよ。折角腹を括ったところなのにさ」
「オレ、もう少し今のみちさん見てたい」

駄目?——と、宝石の双眸ひとみがにじり寄る。
今にも唇が触れ合いそうな距離に、僕はたじろぐ。もう既に何度も重ねたというのに、今更だ。

「そんなに違って見える?」
「ん——ってより、ちゃんと生きてるんだなって実感するっつーか。オレ達はそういうの無いからさ」

成程——僕は笹貫の言葉が腑に落ちた。
彼を始め、刀剣男士は皆人間と同じような身体の作りをしているが、幾らか異なる部分もある。髪が伸びないというのもそのうちの一つだ。そのことを初めて近侍の歌仙兼定に教えてもらった時などは、楽で羨ましい限りだ——と思ったものである。
笹貫が、僕という人間と刀剣男士である自身との差異に対して、どのような感情を抱いているか——今は然程理解に苦しむこともない。きっと答えは拍子抜けするほどシンプルな筈だ。

「君だって、今は生きてるじゃない。こんなにぬくい手してる道具なんて無いよ」

僕は片側の笹貫の手に自分のそれを重ねる。幾重にも触れ合う皮膚が心地好くて、自然と瞼が落ちる。
笹貫が小さく喉を鳴らして笑うのが聞こえた。

「気に入ってる?」
「まぁね」
「オレもね、今のみちさん結構気に入ってんだよね」

好き——とうっとりした声音と共に、もう片方の手が僕の輪郭を辿ってうなじへと至る。そこを覆い隠すほどに伸びた毛先に指をくぐらせ、絡め、撫でる。
くすぐったいよりも更に深いところにある感覚を呼び起こされそうで、僕は流石に手を離し身を捩った。

「もう——分かったよ。君が飽きるまでは切らないでおいたげる」
「やったね。——飽きなかったらどうする?」
「ダメ、あったかくなったら流石に切るから。期限付きだよ」

僕はにべもなく突っ撥ねてみせたが、笹貫はそれはそれで良し——と自信に都合よく受け取り、上機嫌のまま僕に抱き付いた。
生命がありありと宿る肉体に埋もれながら、僕は自身の甘さをさっさと棚に上げ、寝所へと誘う言葉を彼へと告げた。