ゑ/圓堂
2026-03-28 22:00:00
5853文字
Public 月詠サーバー(満月本丸)
 

【刀剣乱舞】笹さに♂Twitterログ03【笹貫×創作男審神者】

Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめ笹みち編。今年に入ってから今日までに上げたものをまとめました。
凍える冬の少しおセンチな小話『とける』
伸びすぎた髪を切りたいみちさんの小話『煩わしさも恋のうち』
相互の雪路さんと生み出した創作軍艦キャラ・昇平丸( プロフ→https://x.com/yukizi0v0/status/2028012875789602925 )にまつわる旅行小話『友愛は永遠の波間に』
の三本立てです。

【とける】

夏よりは冬の方がいい——と僕は長年思って生きてきたつもりであったが、年々寒さに弱くなっているという自覚を今、しかと突き付けられている。
本丸の中はどの室内も概ね空調設備によって温度が整えられているものの、やはり真冬の時期となると、どうにも足元が底冷えするように感じられてならない。近年は昔と違い、冬用肌着の防寒性能も格段に上がり、防寒のための日用品も随分と増えたが、それでも寒いものは寒い。着膨れするのが苦手な質であるが故に、僕は肌着も上着も最小限に留めているのだが、その所為ばかりとは言い切れない。この本丸の存在する世界は、現実世界よりも遥かに時の流れが緩やかであると聞いているが、それでも——僕は今この瞬間も、確実に老いているのだろう。

夕餉のための食材をすっかり洗い終えた僕は、ふうと一息吐いて、小休憩用の椅子を手繰り寄せた。床と椅子の足先が擦れて立つ音が、しんとした厨に大袈裟なほどに響く。この本丸に審神者として就任した当時は、厨に椅子など置いていなかった。この椅子がいつから此処にあるか——すぐには思い出せないが、ある日ふと「あれば便利だ」と思い立ち設置したように思う。それが僕の老いの始まり——とはいえこの本丸に就任した時点で既に不惑を超えていたのだから、端から老いてはいるのだが——なのかもしれない。
冬の冷水に晒され続けた手を、ぎくしゃくと結んでは開く。痛むほどにかじかんだ指の関節が、今にも錆びついた機械部品のような音を立てそうなほどである。何んとなしに眺めてみると、色を失った皺の濃い右の人差し指にあかぎれが出来かかっていた。更なる『老い』を目の当たりにして、僕は再び溜息を零した。



「ただーいま」

そこへ、耳馴染んだ若い声が割って入った。顔を上げると、勝手口の方から厨へ入ってきた笹貫の姿があった。
出陣から帰還したばかりであろう身なりであったが、溌溂とした動きで履き物を脱ぎ、僕の方へと向かってくる。
「あー、すっげ寒かった」
僕が牽制する間もなく、笹貫は無遠慮に僕に抱き付いた。彼の頬の冷えた表皮が首筋に触れたがそれは一瞬のことで、すぐに熱いほどの体温がそれを掻き消す。
元は無機物である筈の存在が、生まれついての有機物である筈の僕よりも、ずっと生命力に満ちている——僕は得も言われぬ心持のまま、されるがままに笹貫に身を委ねることしか出来ないでいた。

——みちさん、大丈夫?」
「ん——ああ、大丈夫。うん、寒いからね。僕も少しだけ参っちゃって」

ほんの少しだけ本音を漏らすと、笹貫はぎゅうと強い力で痩せこけた僕の老体を包み込んだ。
布越しにも力強く伝わる僕よりも高い体温が、凝り固まって鬱々としていた心身をゆっくりと解いてゆく。融けてしまいそうな心地好さに、暫し目を閉じる。
静謐な室内に、笹貫の生命いのちの脈動だけがこだまする。

安らぎに、満たされる。



「笹貫は、温かいね」
「そ?」
「うん——僕なんかよりずっと、生きてるって感じがする」

僕の言葉に、笹貫は身を離してしゃがみ込み、磨かれた鉱石のような瞳で僕をじっと見上げた。
そして僕のまだ熱の戻らない両手を握り、うわマジだ——と狼狽する。
「ニンゲンって体温下がったらヤバいって聞いたんだけど。ダメっしょ、この冷えっぷりは」
「あはは、水触ってたからね。流石にこんなことで危険な状態にはならないよ」
大丈夫——と繰り返してはみたものの、笹貫は今度は僕の両手を握って離さない。逞しい掌で包み込んで、はあ——と熱い吐息を与え、さする。彼はそれを何度も繰り返した。作り物のように感覚を失っていた僕の両手が次第にじんじんと痺れ始め、ちりちりとした血の巡りを呼び起こす。命が、吹き込まれている————

「、ふふ」
「ん、あったまってきた?」
「うん——まさか君の方が僕に命を分け与えてくれる日が来るとはね」

笹貫はきょとんとした顔で、僕の戯言を受け止める。それで良かった。
僕はすっかり溶かされた指先に力を籠め、彼の手を強く握り返し——額に一つ、礼の替わりにキスをした。