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真九龍
2026-03-17 20:12:31
5561文字
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小説
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【ナル雷】春霙 -The rain turned into sleet-
はるみぞれ-雨が霙に変わった-
平行世界─昭倭─のナルミ×雷堂で、春の天候変化で雷堂のメンタルが少し弱くなるお話。
注1:(一応)両想いなナル雷になっております。
注2:ライドウremaster版をプレイ済み及びクリア済み。
注3:雷堂のメンタルが弱っている表現が有ります。
1
2
3
鳴海探偵社のドアを開錠し、開き、雷堂が握る傘を閉じ壁に立てかけた後、直ぐ施錠した。此の春霙の中、依頼が飛び込んでくることはもう無いだろう。
「業徒ちゃんなら早々に帰ってきて、何時もの”特等席”で寝てるぞ」
「
…………
」
彼のお目付け役たる業徒が帰宅済みの旨を伝えると、やはり返事は無く、無言で頷くのみ。業徒が休眠中の座布団に目を向けようともしない。彼の乏しい反応は或る意味新鮮だが、イコール体調はあまり思わしくないと見て取れる。ナルミは水気を含んだ帽子と外套を其のままに、雷堂の手を引き彼の自室へと向かった。
(相変わらず生活感が有るような無いような部屋だな
……
)
雷堂の部屋は必要最低限のものしかない、実に殺風景なものだ。箪笥、小さめの本棚、勉強机に椅子、ベッド、サイドテーブルと置き時計、退魔の香を焚く香炉、謎の箱──恐らくデビルサマナーに必要な道具が収納されていると思われる──。だが、散らかりごちゃごちゃしているよりかは落ち着く。
あの生真面目で整理整頓を常に心掛ける雷堂が、室内を散らかす訳がないか。
「濡れちまった服は全部脱ぎな。俺の分も含めて、纏めて持ってくから」
「
…………
」
ナルミが纏うもので濡れたのは、帽子と外套。ぽたぽたと水が滴る二つを脱ぎ取り床に置くと、雷堂もナルミに倣って黒の外套を取り外し始めた。其の手は僅かに震えている。寒さ故か、古傷の疼き故か。
「
……
手伝おうか?」
「
…………
、頼む
……
震えて、上手く外せないのだ
……
」
漸く声を聞いたが、実にしおらしい──雷堂らしくない弱々しい声音だった。
ナルミは覚る。強がりで、頑固で、だらしないナルミに毎日苛立ち、大胆かつ豪快に躍動する十四代目葛葉雷堂が、其の壁を完全に崩壊させ、自分の弱い姿を己の前に晒しているのだ。
雷堂に見えないよう、ナルミは陰で微笑む。
(
……
もっと崩してもいいんだぜ、雷堂
……
)
学生服の詰襟に触れたナルミの両手を、雷堂は拒まなかった。詰襟が外され、ナルミの手は下へ滑り落ち、第一釦、第二釦と順次外していく。俯き伏せる顔は、今にも泣きそうな表情が浮かんでいた。
「シャツは
……
うん、此処まで滲みてないようだ。ズボンは
……
裾がべちゃべちゃだな
……
」
「外してくれ
……
」
「
……
──いいんだな?」
恥じらう姿勢の無い従順な台詞に喉を鳴らす。「俺に喰われちまうかもしれないぞ
……
?」と、実に邪な台詞を口にしかけたが、今は其れどころじゃないだろ、と、流石に自重し寸止めする。
己の高揚と欲望よりも優先すべきは、此の子の苦痛を少しでも和らげる方法を考える事だろう。
ナルミは昂ぶりを抑制し、学生ズボンを固定するベルトを取り外した。カチャカチャと金属音が鳴り、緩み、下に下ろすと、細くも逞しく鍛え抜かれた脚──悪魔との戦いで刻まれた傷跡が露わとなる。室内に暖を取るものは無い。何か着用せねば、身体を冷やす。
(古傷の疼きを治す特効薬は、身体を温める事だ
……
取り敢えず服を着せて、ベッドの中で温まってる間にストーブを準備するか
……
そうだ、湯たんぽも悪く無いな
……
念の為、鎮痛薬も有るといいか
……
?ああ、温かい飲み物も必要だな
……
レモネードに擦り卸した生姜を入れて
……
──?)
ナルミは脳裏で彼是関連付けながら再び立ち上がり、箪笥に向かおうとした時、雷堂が寄り掛かってきたではないか。普段の雷堂なら先ずしない行動に、ナルミの胸が密かに高鳴る。
「
……
──どうした?俺、お前の服を取りに行きたいんだけど
……
?」
「いい
……
此のままベッドに入る
……
其れで充分温まるだろう
……
」
「お前からのお誘いか?」。違う、そんな訳無いだろ。”重ねる刻”を一瞬でも思い浮かべてしまった自分を大馬鹿野郎と何度も殴りつつ、ナルミは雷堂の言葉に頷き、彼の手を引きベッドへと向かう。
「横になる前に、靴下を脱いどけよ」
コンフォーター(※掛け布団のこと)を捲ると、靴下を脱いだ雷堂が横たわった。少しだけ背を曲げ、少しだけ膝を折った彼の身体にコンフォーターを掛けようとした瞬間、ナルミの腕が掴まれた。
掴んだのは誰か──、雷堂しかいない。
ナルミは彼の挙動に目を大きく見開き、呆然と停止する。
「
……
もしかして、心細いのか?」
「
……
──」
案の定、返事は返ってこない。
だが、腕を掴むということは、行かないでほしい、自分から離れないでほしいの意思表示。
今日の雷堂は──性格上どうしても阻んでしまう壁を自ら壊したからか──、珍しく甘えん坊だな。そんな君の姿も愛おしい。
「
……
たく、仕方ないな。少しだけだぞ?」
ナルミは苦笑し、ベッドに潜り込む。雷堂の隣に横たわれば、彼は無言で寄って来た。
「
……
ま、こうして温めあうのも悪くは無いな」
二人、ベッドの上に無言で横たわるだけ。
(ナルミの心音
……
──心地が良いな
……
──)
耳元で鳴るは、愛しき人の生命の鼓動。愛しき人の生命の証。一定のリズムを刻むナルミの鼓動は、古傷の痛みで弱まった雷堂の精神に安寧を齎し、やがて、眠りへと誘う。
(
……
駄目だ、寝てはいかん
……
この後買い出しに赴き、夕食の準備をしなくては
……
だが、少しだけなら──本当に、少しだけ
……
────)
「
……
?雷堂?
……
──痛みが和らいで寝ちまったか」
冷感で滞った体内の循環は、温もりを取り戻したことで巡りに巡る。
指の先までぽかぽかと。
ナルミの耳に聞こえてくるのは、雷堂の規則正しい寝息。ナルミの目に映るのは、雷堂の無防備な寝顔。
可愛いな、なんて、本人の目の前で堂々と言おうものなら鉄拳が飛んでくる。其れでも懲りずに言うのは、此れがナルミの本音だからだ。
「
……
さて、と。俺の痛みも治まったところで、代わりに買い出しへと行きますか
……
いや、其の前に濡れちまった服か
……
」
雷堂の頭を数回わしわし撫で、ナルミはベッドから立ち上がる。
窓の外は、変わらず雨が降り続いていた。
憂鬱だが、雪混じりではないだけマシかと割り切り、濡れた服を抱えて退室する。
「こんだけ寒いんだ
……
鍋がいいかもな」
春霙に因んで、霙鍋だ──。
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