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真九龍
2026-03-17 20:12:31
5561文字
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小説
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【ナル雷】春霙 -The rain turned into sleet-
はるみぞれ-雨が霙に変わった-
平行世界─昭倭─のナルミ×雷堂で、春の天候変化で雷堂のメンタルが少し弱くなるお話。
注1:(一応)両想いなナル雷になっております。
注2:ライドウremaster版をプレイ済み及びクリア済み。
注3:雷堂のメンタルが弱っている表現が有ります。
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2
3
悪魔の動向は読めても、天候までは読めない。
雷堂は眉間に皺を寄せながら、愛しき想い人の待つ探偵社まで駆ける。
冷たい、寒い、重たい──古傷が、痛い。
急激な天候と外気の変化は、雷堂の身体に刻まれた古傷の記憶を呼び覚ます。
──此れ以上傷を付け過ぎると、天気の悪い日なんか痛くて眠れなくなるぞ。もっと自分の身体を労わっときな、雷堂──
「
……
ああ。貴様の言う通りだ
……
ナルミ」
ナルミの苦笑いと説得力のある優しい忠告が脳裏を過ぎり、自嘲した。
ナルミはずぶ濡れとなり、古傷が疼き顔を歪める自分を見てどう思うだろうか。「大事にしないからそうなるんだぞ」、と、揶揄ってくるかもしれない。
信頼と親愛の心はとうの昔に開いているというのに、捻くれた想像をしてしまう自分が憎たらしい。
「よっ。すっかりずぶ濡れだな
……
水も滴る良い男──なんてな」
「
……
──!ナルミ。何故
……
」
帰路の途中、出会ったのはナルミだった。
彼は何時も通りの笑みを浮かべながら、瞠目する雷堂に傘を差し出した。自分の姿を見て、ナルミは何も語らない。一種の安らぎと躊躇いが混じり、雷堂は立ちすくむ。
「な~に警戒してんだ?ほら、傘を差してとっとと帰らねぇと、身体が益々冷えて余計に痛むぞ
……
?お前に刻まれた、古傷がな」
「
……
!済まない」
ああ、此の男は己のことなどお見通しなのだ。
語らないのではなく、雷堂の頑固で素直になれない性格を考慮した上で敢えて語らなかった。しかし、自分が沈黙し、呆然と立ち止まったままだったから、ナルミは語らざるを得なかったのだろう。
──己の弱い姿を晒したところで、何を今更躊躇い、否定しようとしているのだ
……
我は
……
俺は、此の男のことを、ナルミのことを想い慕っているというのに
……
──
雷堂は目を伏せ、ナルミが差し出した傘を受け取り、直ぐ開いた。空から降り続く霙は傘布によって遮断され、パチパチと跳ねながら傾斜を伝い流れていく。
此れ以上濡れることは無い。だが、濡れた黒の外套と学生服が渇く訳ではない。水が浸潤した服は、体温を下げる。則ち、着脱し着替える必要がある。最悪の場合、疼痛に苛まれるだけでなく、体調其のものを崩してしまう。
「じゃ、急ぎ足で帰るとしますか。うっかり足を滑らせるんじゃねぇぞ?」
「
……
──俺は、そんなへまなどしない
……
」
何時ものおちゃらけたナルミの口調に対し、何時もの鋭い雷堂の突っ込みが入る。だが、普段の声量に比べると覇気が少ない。加えて、突っ込みの速度が遅く、顔の血色も良いとは言えない。ナルミは目を細め、急激な天候の悪化は雷堂の身体に──古傷に想像を上回る影響を及ぼしていると断定する。
「
……
古傷、痛むか?」
「
…………
ッ、痛くなど」
「──なあ、雷堂
……
俺ですらズキズキと痛むんだぜ
……
?身体中古傷だらけのお前は、もっと痛い筈だろ
……
?」
「
……
──」
──自分の前で痩せ我慢などしなくてもいいのに、君のありのままを曝け出しても構わないのに
……
本当にお堅いんだから
……
──
(まだまだ手強いな
……
俺の可愛い愛しき想い人は
……
──)
ナルミはやれやれといった様子で傘を閉じ、そして、黒の外套下に隠れる雷堂の左手を握り、引っ張るように歩き出した。羞恥で顔を真っ赤に染めながら「俺の手に触れるなッ!」と怒鳴り、即振り払うのがお約束だが、今日は其の気力すら無いようだ。
「(こりゃ相当重症だな
……
)もう少しで我が家に着くぞ」
雷堂の返事はない。だが、こくりと頷くのを確認した。
以降、二人の間に言葉は無く、ただ黙って路を進む。傘を差さぬ鳴海の帽子は、外套は、顔は、春霙によって徐々に濡れていく。耳を通り抜ける音は、雨音と、互いの足音と、水がばしゃばしゃ跳ねる音と──。
やがて、見慣れた銀楼閣が、視界に入る。安堵し心が弛緩したのも束の間、ナルミは直ぐに気を引き締め、銀楼閣の出入り口を潜った。
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