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koto
19182文字
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れめしし😈🦁
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藪から棒のブルーハハ(3/25続きUP)
れめししお題企画への参加作
「お返し」「勘違い」「別れ話」
2026.03.07.発表分のお題より
唐突に獅子神から別れ話を切り出される叶のれめしし(別れない)
【注意】叶の親族捏造、叶と獅子神の過去の女性経験に触れる部分あり(具体的な行為描写は無し)
✳3/25後半の獅子神パート追加
1
2
3
天堂に指定された場所でおとなしく待機すること約一時間半。そこは居心地が良いとは言えない場所だった。部屋に設置されていたモニターは点けっぱなしで、防犯カメラの映像なのか教会敷地内の様子が無音で流れている。撮影されている場所は礼拝堂内のほかに告解室やさっき獅子神が居た部屋までさまざま。部屋の奥になにやらオブジェのようなもなのがぼんやりと見えたが、おそらくはっきりと確認しないほうがいいなと判断し、ひとまず部屋の電気をつけないまま視界に入れないようにして過ごしていた。
礼拝堂に集まっていた人たちは全て解散したようで、そこには天堂だけが映っていた。そろそろ戻ってくるかな、なんて寝不足のあくびを噛み殺しながらモニターをぼんやり眺めていると、そこに映り込んできた人物に獅子神は目を剥いた。
それは見間違いようもなく、叶本人だった。
何事か話をしているようだが、もちろん会話の内容が聞こえるはずもない。成り行きを見守っていると、天堂が歩き出し、叶がそれに続く。さっきの獅子神のようだった。ということは、こちらに向かってくるということだ。今すぐ逃げ出したいが、どう考えても今出るのは悪手だ。廊下で鉢合わせる可能性が高い。天堂がどんなつもりなのかは皆目見当がつかないが、こうなってしまえば、あとはもう祈るしかない。
知らず知らずのうちに組んだ両手を口元に当て、獅子神の視線はモニターに釘付けだ。天堂と叶がさっきまで居た部屋に入ったときは気が気じゃなかった。叶はしばらく滞在したあとで部屋を出ていくのが確認できた。こっちに来やしないだろうな!? と戦々恐々していたものの、獅子神の居る部屋のドアが開く気配は一向にない。礼拝堂を撮影するモニターに叶と天堂の姿が映ったとき、獅子神はようやく呼吸をできたような気にさせられた。こんな綱渡り、心臓に悪すぎる。
ほっとしていると、少しして部屋のドアが開かれる。姿を現したのは天堂だ。
「待たせたか」
「いや、そりゃいいんだけど、さっき
……
」
「ああ、黎明か。お前を探しに来たらしい。別れ話をされたが身に覚えがないと珍しく余裕を無くし狼狽えていた」
その姿を思い出したのか、フフと笑みを漏らす天堂もなかなか人が悪い。当の本人を隣室に待機させたまま、そんな相談に耳を傾けるのだから。
「今更すぎるけど巻き込んでわりぃな」
「構わん」
「あー、で、叶は?」
「礼拝堂をあとにした」
これでどうやら鉢合わせる心配もなくなったようだ。話を聞いてもらい、叶を退けてもらい、天堂様様だな、なんて拝みたくなるのは現金すぎるか。
「急に来たのにありがとな。なんか、いろいろ助かった」
「愚か者を正しき道に導いてやるのは神の仕事だ。気に病むことはない。
……
が、神に敬意を払いたいのなら、今度は食事でも捧げろ。もちろん、デザート付きだ」
「へいへい。好きなもの作らせてもらうよ」
実際、それでも足りないくらいに。自分がなにに怯え恐れていたのかに気付いたことは大きかった。
部屋の前で天堂と別れると、獅子神はがらんとした礼拝堂の真ん中を突っ切り速足で歩く。
もう興味を失ったのかもしれないと思っていた叶が自分を探していた。天堂の言葉を信じるなら狼狽えていたと。そんなことに嬉しさを感じてしまう自分にどうしようもないなと呆れつつ、このあとのことへ思考の舵を切る。
ひとまずはやり過ごせたが、この状況では逃げれば逃げた分だけ追ってくる。そういう男だ。対面できっぱりと別れを告げるべきか。根競べで叶がどうでもよくなるまで逃げるのも手かもしれない。そんなことを考えながら、礼拝堂の扉を押し開ける。
外は午後の陽射しが眩しいくらいに降り注いでいた。目を眇めたまま扉から手を離した獅子神が一歩、二歩と歩みを進めたそのときだった。
「けぇ~いい~ちくんっ」
斜め後方から聞き間違うはずがない声で名前が呼ばれる。振り返って確認する必要もなく、瞬時に駆け出すため足に力が入ったが、地面を蹴るより先に肩を掴まれて阻止される。この土壇場の状況で獅子神が起こしそうな行動などお見通しというわけだ。焦りがある分、読みやすさも段違いだったのか。反省点を頭に浮かべてる隙に、そのままするりと肩に腕が回されて捕らえられた。先回りで行動していたはずが、気付けば後手に回っているのだから参ってしまう。
肩を抱かれたまま視線を地面に落としている獅子神相手に叶は口を開く。
「ユミピコってば酷いと思わない? オレが敬一君はどこ行っちゃったのって聞いたら、とっくにこの部屋を出て行った、なんて言ってさー。とんち比べのお坊さんじゃないんだから」
本当に参っちゃうよねーといった具合に気さくに話しかけてくる。たしかに叶の行方を尋ねた獅子神にも「帰った」ではなく「礼拝堂をあとにした」と答えていた。嘘は言っていない。天堂に恨み言を言いたいところだが、気付けなかった己を恨むべきかと思い直す。事実、叶は気付いたわけで条件は同じだ。
それはそうと叶の声色からは不機嫌さが思いのほか窺えず拍子抜けしてしまう。これはもしかしたら円満なお別れも夢じゃないのかも。そんな思いを抱いたところで肩に置かれた腕と手に力が篭められる。
「期待してるとこ悪いけど、敬一君のこと手放す気なんて一ミリもないぞ」
耳元にはっきりと吹き込まれた言葉は静かに怒気を孕んでいるように聞こえた。獅子神は意を決して真横の叶へ視線を向ける。叶は無表情で、なにを考えているのか糸口すら掴めない。虫の居所一つで叶のマンションの住人にラインナップされる可能性すらありそうだ。視線をそらせないまま、ごくりと固唾を飲む。
緊迫感を帯びた沈黙が流れた数秒後。叶は忌々しげに深く息を吐き、緊張の糸を断ち切った。
「いとこの子ども」
「は?」
叶が唸るように発した言葉の意味がすぐには理解できず思わず聞き返してしまう。叶の手が肩から離れたと思えば、前に回り込まれ獅子神を見下ろしてくる。
「だ、か、ら、写真の子どもは、いとこの子どもなの!」
「いとこ?」
「そ。じいちゃん似なんだよ。オレもあっちも」
うんざりとした口調で叶の言い分が耳に届く。それでも、すんなり腑に落ちない獅子神がいる。
「疑ってる顔だな、それ」
それはそうだ。そんなものは、あまりにも都合が良すぎる。叶にも獅子神にも。
「ってかさ、そもそも隠し子とか酷くない? 百歩譲ってなんでオレに確認しないの? これはどういうことだってオレに聞けば済む話じゃん」
責め立てられるものの獅子神にだって言い分はある。
「オレだって甥の可能性とか考えたけどよ。一緒に居た女がオメーの姉ちゃんでもなかったし。いとことか思わねぇだろ」
正直まだそれも信じきれていない。こんな風に切り出して、自分に嘘を信じ込ませることなんて叶にとっては造作もないだろうなとも思っている。
そんな獅子神の考えは叶にも伝わっているようで、うんざりとした表情を隠しもしない。
「あの子の親だとして、オレ二十歳のときの子どもになるんだけど?」
「若気の至りとか」
「敬一君の中でオレの二十歳のイメージってそんな後先考えずに種撒くヤツってこと?」
物凄く嫌そうに顔を歪めた叶に問いかけられる。そう言われると、たしかに違和感はある。
「でもオマエにその気がなくてもってことあるだろ」
「今日大丈夫な日だからとかいう口車に乗せられるようなバカだって思ってんの?」
輪をかけて叶の機嫌が悪くなるが、獅子神も別にそういうつもりはない。
「いや、ヤッたあとでシャワー中に口結んで捨てたはずのゴムこっそり持ち帰られそうになることとか」
「無いよ! え、なにそのあるあるネタ。怖っ! てか持ってかれたの?」
不機嫌さが一転。獅子神の発言が想定外過ぎたのか叶は毒気を抜かれている。というか、ドン引きしている。
「未遂だったけど。いや、あるだろ? タチ悪いのだと事前に不妊治療装って病院確保しておいて
……
」
「怖い怖い! 敬一君が過去そういう女とニアミスしてんのがほんと怖い」
他でもない叶が常識という面からありえないと騒ぎ立てる様子に、今度は獅子神のほうがムッとする。
「オマエくらいだと、そういうファン居るだろ絶対」
「居てもそういう女とは寝ないだろ」
「そういう女じゃなかったのに、そういうのになるパターンもあるだろ」
「あー
……
、そうなっちゃう系ね」
叶の口調が妙に納得したトーンになる。言外にそれは獅子神にも原因があるというニュアンスが含まれている。文句を言いたいところだが、完全に濡れ衣というわけでもないので、目くじらを立てて怒れない。もちろん人生経験がまだ浅く物を知らなかった過去の話だが。
逸れていった話のせいで、なんだか肩の力が抜けてしまった。獅子神は叶の言い分を反芻してみる。本当に違うと、信じてもいいのだろうか判断をつけあぐねている。
「いとこの子どもだとしてもよ、あんな風に会うくらい仲良いとかあんのかよ」
叶を信じたい気持ちはあるものの、信じ切れない部分もある。まだ叶の子である可能性があるのなら簡単に話に乗るわけにはいかない。
「遠くに住んでんだけど、ばあちゃんとこ顔出してたらしくて。母ちゃんも居合わせてたタイミングでたまたま」
「で?」
「そんで世間話してたら、子どもが宿題で将来なりたい仕事について調べようってのが出てるって話になったんだって。敬一君、今の小学生の人気職業知ってる?」
「知らねーな。スポーツ選手とかか?」
「ブー! 野球選手やサッカー選手を抑えて男子に人気の職業は配信者でした」
「へー」
こういうのにも時代があるんだなと感心する。目の前の男を見ていると夢のある職業とは思えないが、おそらく子どもが普段目にしている配信者は別の種類の生き物なのだろう。
「で、母ちゃんがちょうどいいとか言い出して、その場でオレに電話して約束取り付けて急遽オレん家の近くで会うことになったのがこちらです、と」
そう言って差し出してきたスマホには、獅子神が天堂に送った写真が表示されていた。
「まだ疑うなら今から敬一君連れてオレの実家行って証明してもらってもいいよ? いとこの結婚式の写真もきっとあるだろうし。いくらでも気が済むまで付き合ってやるよ。その代わり母ちゃんに根掘り葉掘り聞かれると思うけど?」
完全に疑いを晴らすなら、叶の提案通り今すぐ実家まで行けばいい。ブラフの可能性もよぎったが、それはないと感覚で分かった。
「いい。分かった。オメーの言うこと信じる」
「それなら良いけど。にしても、なんでこんなこと考えちゃうかな」
「なんか、母親っぽいほうにも当たりキツくなさそうだったからよ。今は円満な婚外子とかなのかとかいろいろ
……
」
考えに考えて頭を悩ませ拗らせてしまった結果がこの有り様だ。
「発想がさぁー」
「悪かったよ」
垂れ流される文句を跳ね除けられる立場でもなく、獅子神はおとなしく言われるがままになる。
「付き合ってて普通わざわざ言うことないと思うけど、オレに子どもなんて存在しないから」
きっぱりと言い切る叶に、多少の申し訳無さを感じてしまう。
「あー、おう。分かった」
「敬一君は? なんか過去の女、凄いの居そうだけど」
「オレもそっちは問題ねぇよ」
こっちが疑うのなら、逆に確認されるのも当然かと納得しながら可能性を否定する。いろんな経験を経て磨き上げられた用心深さから、そんなヘマはしていないと断言できる。
「ならいいけど。で?」
「あ?」
「まだ別れるとか言う?」
「
……
言わねぇ。悪かった」
一人で空回りしていたことにバツの悪さを覚えながらも、噛んで含めるように言われた上での問いかけに答えなんて一つしかなかった。傍から見たらバカバカしく映っただろうが、それでも思い悩んで行き着いた思いは獅子神のリアルな選択だった。
話がまとまったと判断したのか、叶は見下ろしていた体勢を崩し、わずかに距離を取った。
「じゃあ、お詫びに何してもらおうかなー。いきなり恋人に別れ話切り出されて、めちゃくちゃ傷付いたもんな、オレ」
ふざけている様だが本気なのだろう。お返しとばかりに当てつけのように、これみよがしに被害者ぶる叶を止めることなどできるはずもない。どんな無理難題を吹っかけられようとも、獅子神は甘んじて受け入れるしかないだろう。
「なにしてくれる?」
「ある程度は善処する」
門扉へ向けて歩き出す叶の後ろを追いかける。数歩先を行く叶は、思い出したように不貞腐れた顔をした。
「端からオレと別れたくなんかない癖に。やりたくないことをやらなきゃいけないことだと思ってやるから話が拗れるんだよ」
これに関してはぐうの音も出ない。
「まあオレは? たとえ敬一君に隠し子が何人居ようと別れてなんかやらないけどね?」
自分の思い悩んだことなど吹けば飛ぶようなことでしかないと言わんばかりの言い草に、獅子神は顔を引きつらせる。そんな獅子神の反応に叶は心外だとでも言いたげだ。
叶がピタリと立ち止まり、獅子神もつられて歩みを止める。どうしたのかと様子を窺っていると、叶の顔がまっすぐ向けられ、口が開いた。
「どこかのだれかの痛みも苦しみも、オレがやりたいことをやめる理由になんてならない」
きっぱりと言い切られる。そのセリフはまさしく叶のスタンスそのままで、羨ましいとは言わないがそのぶれなさが眩しく見える。
「敬一君も、どんな相手を蹴落としてもオレの隣は譲らないみたいな気概見せてくれよなー」
見上げる獅子神の額をからかうようにトントントンと指で突付いて、叶は歩き出す。
人の気も知らないで。
正直そう思ったが、それはお互い様かと思い直す。自制ができなくなる前にと、情報を精査するよりまず先に別れを選んだ。それは執着にまみれたバケモノになってしまうのを避けるためだったのに。
なんとも軽はずみに言う恋人に獅子神はスッと目を細める。
「良いんだな」
「ん?」
呼び止めるような獅子神の声に叶が振り返る。
「テメェが自分の口で言ったんだからな」
自分が何を言ったか分かってんだろうなと問いかける。鋭さを帯びた獅子神の確認に、叶は少しだけ目を見開いたあとで、それはそれは嬉しそうに期待に満ちた表情を浮かべた。
「もちろん! 今後の敬一君に乞うご期待だな」
満面の笑みを浮かべる叶の言質をとる。
売り言葉に買い言葉みたいな言い草にも関わらず、叶が益々機嫌を良くするものだから、歯止めが効かなくなりそうで。
「あとになって後悔しても知らねぇからな」
慌てて沈めた執着も独占欲もなにもかも、ドロドロとしたもの全てぶち撒けて頭から被せてやるから、覚悟しておけよ。
そう心の中で悪態をついて、獅子神は目の前の叶までの距離を一気に詰めた。
終
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マシュマロ
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