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留守田
2026-03-11 15:22:29
3780文字
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醜怪のはなし
男の嫉妬は醜いなんて申しますが、恋人のソレは一周回って愛おしいものなのではないでしょうか。
いつものアスTavです。Tavの味付けが濃いめ独自解釈多めスポーン増し。
※2eのコンパニオンブック掲載の「ヴァンパイアの花嫁(花婿)」設定なのでアスタリオンとテレパシーで意思疎通している場面があります。
1
2
「ダーリン。嫉妬するお前も可愛かったな」
夜会が終わり、化粧を落として湯浴みを済ませ、ベッドへ転がり込んだあと。
珍しく伴侶へ膝枕を強請ったアスタリオンが、ヴァリスの顔を見上げて言う。
「
……
可愛さなんてなかった。醜いだけだ」
「そうか? なら、言葉を変えてやろう」
仕方なさそうな微笑みから白い手が伸びて、ヴァリスの鼻筋の大きな裂傷をなぞり、頬を撫でた。
「久々に、何かを守る時のお前の貌を見た。お前の三番目に美しい貌だ」
「三番目?」
ヴァリスは苦笑して、アスタリオンの髪を指ですく。
僅かに湿った白糸が、指の間をすり抜けていく。
「なら、一番と二番はなんだ?」
「ベッドの上で見せる貌全てと、お前の笑顔だ。泣き顔も好きだが
……
あまり泣かせると煩い奴が居るからな」
ヴァリスはスイートワインを勧めた執事の顔を思い浮かべる。
アドヴェル
――
アスタリオンの
子供
スポーン
であり、この宮殿の執事であり、そして楽器奏者としての自分を誰よりも敬愛している者。
彼はヴァリスから見ても確かに、主人とその配偶者の“幸せ”というものを支えるためなら手段を選ばない節がある。
「
……
確かに、煩いのがいるな」
「だろう?」
アスタリオンは満足げに笑い、膝枕のまま身じろぎする。
「お前が傷付けば、あいつらは我が事のように怒る。面白い話だ」
ヴァリスは否定しなかった。否定できなかった、と言った方が正しい。
自分が苛立ち、牙を剥こうとした瞬間。誰よりも早く、それに気付いたのはアドヴェルだった。
咎める言葉もなく、ただワインを替え、視線を走らせ、必要なら“始末”すら請け負う覚悟で。
「私は、彼らの主ではないのにな」
「だが、お前は惜しみなく与えた」
アスタリオンは即座に言った。
「愛情と、居場所と、戻ってくる理由をな」
ヴァリスは一瞬、言葉を失う。
彼らへ与える愛情や帰属は、アスタリオンの支配への伴奏のような側面も持っている。だが、支配そのものではない。
愛しい
子供
スポーン
を支配するなど
……
それは、主人の行いだ。親の行いからは逸脱している。
しかし、今はまるで
――
無自覚にアスタリオンの
子供
スポーン
達を、支配してしまっていると指摘されているようで。
「
……
お前の主権を害しているつもりは、ない」
「ああ、だろうな」
赤い瞳が細められる。
「だからこそ厄介だ。お前は首輪をつけない代わりに、“帰る場所”を作ってしまう」
帰る場所。
ヴァリスはまだ血が通っていた頃の己を想う。
……
私には無かったものだ。帰りたいと思うような、帰れる場所というものは。
ヴァリスの指が、アスタリオンの髪を撫でる動きを止めた。
そして、ゆっくりと再開する。
「
……
私は
……
失いたくないだけだ」
ヴァリスがやっと漏らせたのは、吐息のような声だった。
「得た全てを、私は守り通したい」
奪い去ったものもある。勝ち得たものも。
全て、己の欲望が故に手にしたものだ。
戻すつもりがないのなら、慈しみ、愛し、二度と手放さない。それが、誠実な行いというものだろう。
「ヴァリス、お前が得た全ては俺のものだ。お前が守る資格はない」
甘く歪んだアスタリオンの微笑みから、冷たい言葉が滑り出る。
しかしヴァリスはと言うと、承知したように頷いて口を開いた。
「ああ、お前のものだろう? だから守る。私がお前の宝なら、
子供
スポーン
達は宮殿の宝だ」
アスタリオンは赤い目を細め、それから視線を逸らした。
彼の顎が音もなく軋み、掌をくるりと舞わせ、レモンを齧ったような口で言葉を紡ぐ。
「
……
お前は本当に口が減らないな」
「ふふ。お褒め頂き恐悦至極に存じます、アスタリオン卿」
「フン、だが
……
」
ヴァンパイア・ロードの気配が尖る。先ほどよりも低い声で、見開いた瞳が冷ややかに伴侶を捉えた。
「この俺の宝であるお前が宮殿の宝に含まれていないのは
……
実に気に食わないな」
「気に食わない?」
「お前は俺の宝だ。俺の宝であるということは、宮殿の宝でもある」
ヴァリスの指先が再び止まり、今度は宙を彷徨った。
こうも分かりやすく好意をぶつけられるとは思ってもいなかった彼の顔が、大袈裟なまでにアスタリオンから逸らされる。
「
……
そう、か?」
「当然だ」
宙に浮いたままの恋人の手を取り、指を絡めながら堂々と言い切ったアスタリオンの瞳には、薄ら赤くなったヴァリスの横顔が映り込んでいた。
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