共に重ねた時間を連れて

FF14の二次創作です。
時間軸は暁月のフィナーレ(6.0)クリア後~黄金のレガシー(7.0)序盤を想定しています。
「旅と夢の狭間にて」に連なる話につき、そちらの方を先にお読みいただけると幸いです。

 グリダニア旧市街。
 今日の天気は移り気で、碧天は昼を過ぎると雲が厚みを増していき、今では鉛色の曇り空。道行く人々の表情もどこか暗い。
「あら、雨?」
「げ、降ってきやがった!」
 誰かの声に、空を見上げた。分厚い雲から、ぽつ、ぽつと、額に冷たい雨粒が落ちた。
 やっぱり降ってきたか。予感はしていたが、もう少しだけ待っていてほしかった。
 赤土色の髪の冒険者――アゼルは歩く速度を上げたが、見る間に雨足も強くなっていく。
 このままではずぶ濡れになってしまう。慌てて今来たばかりの道を引き返し、マーケットの軒下に駆け込んだ。それから幾ばくも無い内に、背中の向こうでざあざあと、空が大声をあげて泣き始めた。
 しばらくその場で雨の様子を伺っていたが、すぐには止みそうにない。次々と人が駆け込んできて、軒下が混み合ってきた。
 髪と服に付いた雨粒を払い、アゼルは建物の中に入った。
 傍の椅子に腰掛けて、雨具を取り出すために鞄を漁る。好天続きでしばらく出番のなかった携帯傘は、鞄の奥の方に入り込んでしまっているようで、なかなか姿を現さない。食材、マテリア、錬金薬。適当に放り込んでいた品々が行く手を阻む。最近はまた鞄の中身が増えてきた。近い内に整理整頓をしなくては。
 ばらばらと、屋根を打つ水音が耳を突いた。
 顔を上げると、出入り扉の向こう側は、降りしきる雨のヴェールで覆われていた。森の木立は薄暗く、煙るような灰色だった。
 その光景が、幼き日の森の記憶を呼び起こした。
 鼻孔を擽る濡れた埃のような匂い。じめじめと体に纏わりつく、湿気を帯びた不快な空気。暗い森の、雨の感触。
 あの日は家に一人きりで、姉が狩りから帰ってくるのを待っていた。森が暗くなるにつれて、雨音は大きくなっていく。次第に不安も膨らんだ。森で何かあったのかもしれない。迎えに行ったほうがいいだろうかと、小さなナイフに手を触れた――
 ばらばらと、再び聞こえた音に意識が現在に戻される。
 ふと気が付くと、アゼルの右手に木材の手触りがあった。
 それはナイフの柄だった。
 真新しい白木の柄。滑らかなラインを指でなぞる。
 鞄の一番上に入れていた、今しがた木工師ギルドで受け取ってきたナイフ。加工を終え、生まれ変わったばかりのそれは、まだ己の手には馴染んでいない。
……しかし随分とまぁ、立派なナイフになったもんだな」思わず声が漏れていた。「あんなにボロボロだったのに」
 記憶の中のものとは異なる形状。理由あって本来の姿は失われてしまったが、共に重ねた時間はそのままに、この旅の先にも連れて行く。
 そのために、あと一つ必要なものがある。
 ナイフの刀身を隠しているのは、色褪せた皮の端切れ。紐を巻き付けて本体に固定している。鞘と呼ぶには少々粗末な代物だ。
 さて、これをどうにかするために――行先はもう決まっている。
「雨、少し弱まってきたぞ」
「ホントだ! このまま止まないかなぁ」
 周りの会話に釣られて外を見た。たしかに先ほどまでと比べれば、空の癇癪は落ち着いてきているようだ。
 今度こそ鞄の底から携帯傘を探し当て、アゼルは外へ向かって行った。