ひつじのゆめ
2026-03-07 12:13:44
4107文字
Public
 

宝石のような恋をする

2×9フェスオンライン2026に際して執筆したブロ麺です。昔書いた連作の140ssをリメイクしたものになります。

ブロ君がだいぶ押せ押せ、麺さんがかなり乙女チックにな感じになりました。苦手な方はご注意下さい。
拙い作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

注意書きは以下の通りです↓
※何でも許せる方向け
※口調が迷子
※捏造注意





『明日の午後、家にいっていいか? 』
そんなメールが来ただけで、年甲斐もなく喜んでしまうのをやめたい。
 特大の溜め息を吐きながら頭を抱える。前よりずっと自嘲が止まらなくなったのは、やはりこの間の読書会でうっかりやらかしてしまったからだった。
「いくら直球でないとはいえ、何をやっているんだ私は……! 」
 もう取り返しがつかないと分かっているが、出来るなら無かった事にしたかった。意味が分かる人間にやったとしても突然すぎるし、そうでなければ単に不審者である。現に不審者だった。あまりに辛い。
 悶え苦しみながらも、おもむろにソファーから立ち上がる。もう三十分もすればブロッケンの来訪時間だ。それまでにお茶やら菓子やらを用意して、ついでに軽く片付けもしておかなくては。

(ともかく、あの件は気の迷いだったことにしておこう……)
 悪戯心の暴走だったと言えば、根が優しいあいつは何だかんだ許してくれるだろう。そうすればいずれ時が無かったことにしてくれる筈だ。
 そう考えると少し心が晴れてくる。先ほどより軽やかになった動きで準備を進める。
 ほんのわずかに胸を刺した痛みは、感じなかったことにして。

***

 それからきっちり三十分後、ブロッケンはやって来た。何故か少し息が上がっている。まさか走って来たのかと問おうとした所に、怒り混じりの声が重なった。
「あんたって本当に小難しいこと好きだよな! 」
「ブロッケン? お前、何故怒って……
 まだあまり状況を理解できていない私を気遣うつもりはないのか、ブロッケンは黙ってこちらへ何かを押し付けてきた。思わず受け取れば、両方の手のひらに小さな箱が転がり込んでくる。
……何だ、これ」
 そう問いかけるが、特に返事は返ってこない。ただこちらを見つめる瞳が「良いから開けろ」と訴えかけてきている。
(珍しく強引だな……全く、何があったんだ)
 呆れつつも、急かされるままに蓋を開けて――閉じた。だが、残念なことに中身は捉えられている。あれは、まさか。

「どうした? ラーメンマン。ちゃんと開けろよ」
 特に常と変わらない声音で発されているはずのブロッケンの言葉に、知らず肩が跳ねる。それに答えることが出来ない。私の頭の中は今、疑問でいっぱいだった。
 ――何故、どうしてブロッケンがこんなものを。
掻き乱された思考の中に、みどり色の光が過ぎる。さっき一瞬陽の光に照らされた、箱の中身の輝き。

 翡翠の、ほんものの宝玉の輝き。

……どう、して」
 呟き、ブロッケンの方を見る。がっちりと合ってしまった視線の先で、誇らしげな笑みが咲いた。
「どうして、なんて野暮なこと聞かないでくれよな」
 一歩、距離が詰まる。
「そんなもん、単純な理由さ」
 一歩。
「あんたがくれたものに、ちゃんと返したかった」 一歩。
「あんたのことが、欲しかった」
 もう一歩。もう進めないほどの近さで、夢にまで見た甘い声が響く。嗚呼、これは本当に現実なのだろうか。
 思わず後退ろうとした腰を強く引き寄せられる。あまりの力につい文句を言おうとして、顔の近さに一瞬で霧散した。ブロッケンの深緑に私が映っているのが、何だか居た堪れない。

 もうすっかり何が何だか分からなくなってしまっている私に、ブロッケンは今まで一番の笑顔を浮かべて言った。
……どうだ、正解だろ? 」
 その笑みとみどり色の輝きが脳裏で重なり、きらきら輝く。それがどうしようもなく美しくって、私はついに泣き出してしまったのだった。