ひつじのゆめ
2026-03-07 12:13:44
4107文字
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宝石のような恋をする

2×9フェスオンライン2026に際して執筆したブロ麺です。昔書いた連作の140ssをリメイクしたものになります。

ブロ君がだいぶ押せ押せ、麺さんがかなり乙女チックにな感じになりました。苦手な方はご注意下さい。
拙い作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

注意書きは以下の通りです↓
※何でも許せる方向け
※口調が迷子
※捏造注意



 自分より十も年が離れた相手に恋をするなど、まるで思ってもいなかったのだ。
 それがよりによって同性で、しかも自分が父親を殺した男なのだから始末に追えない。完全に想定外で、有り得るはずのないことだった。
 だからこそ、何も言えずに歳月は経ち続ける。そうして私は、いつまでもこの想いを持て余し続けていた。

***

 武器として使用しているわりには綺麗な手が、ゆっくりと本のページをめくる。綺麗と言っても、きらびやかさを連想させるものではない。無骨で硬さを感じさせながらも、こまかな所まで手入れされているが故の綺麗さである。
(参ったな……いつまでも眺められてしまう)
 こういう時、つくづく自分がもう戻れない所にいることを実感する。これでもう少し若かろうものなら、恥も外聞もなく攻勢に出ていたかもしれない。
 想像するだけで恐ろしい話だ。よりによってこんな生産性のない想いを表にするなど、まるで正気の沙汰ではない。
 こうして内心で己の想いを省み、自嘲する。それが近頃すっかり癖になってしまっていた。あまり良くないことなのだろうが、そうでもしないと耐えられなくなるのだ。
 「どうか私と同じように愛を返してくれ」と、浅ましく願ってしまう心を抑え続ける苦痛に。

「っ、あー……何か肩がいてえ」
「これだけ長時間同じ姿勢でいればな。ほら、ストレッチでもして身体を伸ばせ。私はその間に飲み物でも用意してこよう」
「Danke」
 席を立ち、キッチンの方で作業を始める。こうして物理的に距離を置くと、少しだけ冷静になる事ができた。近くにいると駄目なのだ。先ほどのように、ついブロッケンの一挙一動に心を奪われてしまう。
(このまま行くと、いつか気づかれてしまいそうだ)
 そうなったらどんな反応をされてしまうのか。それを考えると、吐きそうなくらいに胃が重たくなった。「受け入れられるはずがない」と現実を突きつける心と、「受け入れてほしい」と願う心がぶつかり合って酷く苦しい。
 また暗い方に落ち込んでいく思考を振り払おうと水をあおった時、リビングに繋がる扉が開いた。

「ラーメンマン、やっぱり手伝いに……
 ブロッケンの言葉が途中で止まる。まさか、己の異変に気づかれてしまったのだろうか。密かに身構えた私にかけられた言葉は、予想外のものだった。
「なあラーメンマン、それ何だ?」
「そ、それ? 」
「お前から見て左斜め前にある、黄色と緑の実みたいなやつ」
 ブロッケンが指し示す先を目で追って、ようやく納得する。
「ああ、これは木瓜の実だな。果実酒に使おうと思って用意しておいたんだ」
「ボケ? なんか、日本で突然言おうもんなら揉めそうな名前だな……
「はは、確かにな」
 生薬になるし花の方も美しい植物なのだが、言われて見ればその通りかもしれない。笑う男につられてつい小さく笑声を立てていて、ふと出来心が起きた。

 転がる実の中からより綺麗なものを選び取り、手のひらに握る。そして、目の前の男へと放り投げた。
「うおっ……⁈ おいラーメンマン、何だよ急に」
 驚いただろうがと言うわりに、キャッチする動きに危なげは無い。うつくしい手のひらには鮮やかな実が収まっている。
それだけ確認して、私は表情を緩めた。
……受け取ったな? 」
「お、おう……? 」
「なら、それで良い」
……はっ? いや、どういう事だよ」
 納得がいかないらしいブロッケンがまだ言い募っているが、私の方はすっかり満足していた。

 ――私が投げた実を、ブロッケンが受け取ってくれた。
 ただそれだけで、私はもう幸せでしかないのだから。