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冬暁
2026-03-05 02:33:47
4143文字
Public
ホム主
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落ちた真珠は波と踊る
ホム主Webオンリー開催おめでとうございます!
ぐろおか展示作品その1。学パロです。
卒業を目前に開催されるプロムパーティー。パートナーにホムラを誘おうとするが……。
1
2
3
ラベンダーカラーにビジューを散らしたシフォンドレス。淡い色の花の装飾も可愛らしくて、一目惚れだった。合わせて買ったストールやアクセサリーも、全部全部プロムのために選んだもの。
「プロムのドレス、届いたのね」
おばあちゃんが嬉しそうに頬を緩ませる。だけど、私の様子に不思議そうな顔をした。
「どうしたの? 思っていたものと違ったかしら?」
「ううん、違うの。ドレスはすごく可愛くて、これを着てプロムに行けたらって思うよ! でもね、でも
……
」
おばあちゃんが私の手を握る。少しカサついた、あたたかい手が優しく甲を撫でた。
「私の好きな人、もう相手がいるの
……
」
「
……
そう。それは悲しいわね」
「プロムには行きたいけど、その人を見るのが怖くて
……
悩んでる」
おばあちゃんが私の頭をそっと撫でるから、つい甘えるように抱きつく。
「それでもプロムに行きたいって思ったならマヒルを連れて行けばいいわ。貴方のためなら飛んで来るからね。我儘言ってもあの子なら受け止めてくれるから、たくさん楽しんできたらおいで」
でも、と言葉を区切ると髪を梳いて私の耳にかけた。明るくなった視界に優しいおばあちゃんの顔が映る。
「嫌だなぁと思ったら、みんなでおめかししてお出かけしましょう。このドレスにぴったりな場所で美味しいもの食べて、写真撮って楽しむのはどうかしら」
「
……
!」
おめかししたおばあちゃんと兄さんとお出かけ。プロムに行かなくても、二人と一緒に楽しめるならそれも最高だと思う。
落ち込んでいた気分がふわりと浮き上がる。
「うん、うん! それも素敵!」
「でしょう?」
「おばあちゃん大好き!
……
ありがとう」
「可愛いあなたの大事なドレスだもの。着ないまま仕舞うのはもったいないでしょう?」
これを逃したらあのドレスに袖を通すことはないだろうから。プロムに行っても行かなくても、私がドレスを着る機会を作ってくれることが嬉しい。楽しい思い出を作れたらきっと、私はあのドレスを見ても悲しい気持ちよりもあたたかい記憶を思い出せる。
あとはその日が過ぎるのを待つだけ。
そう思ってたのに。
「君、プロムはどうするの?」
ホムラに捕まったと思ったらそんなことを聞かれて唇を引き結ぶ。うろうろと視線を動かして、結局ホムラの手にあるスケッチブックを見つめた。大きな貝を背負ったヤドカリが書いてある。ホムラの家の近くの子かな。お引越ししたばかりかも。
「ねぇ、聞いてる?」
私の視線を遮るようにスケッチブックを閉じられて、目の置き所を失った。刺すようなホムラの眼差しが痛い。
「プロムは
……
」
脳裏にプロムドレスが浮かんだ。波のようなスカートに散らばるビジューが真珠のようで、以前ホムラと見た海に良く似たドレス。このドレスを着てホムラと踊れたら楽しいだろうなぁと思った。
「参加しないよ」
そのドレスを着てホムラがパートナーといる姿は見れない。だから、おばあちゃんと兄さんの思い出で上書きしてしまおう。
私の答えにホムラの表情が強張った。
「どうして?」
「
……
当日はおばあちゃんと兄さんが、お祝いしてくれるからね! 私の好きなものたくさん用意してくれるって、今からすごく楽しみなの!」
声が段々と暗くなっていることに気づいて、無理矢理口角を上げる。相反するようにホムラから表情が消えて、その瞳がゆらゆらと波間を漂う花のように揺れていた。
「君の
————
」
「ホムラは参加するんでしょ? 楽しんできてね!」
ズキズキと痛む胸は、これ以上の会話を拒んだ。もしかしたら僕のパートナーは
……
なんて話になってしまうかもしれない。嫌だなぁ。聞きたくないなぁ。そんな気持ちがフグのように膨らんでチクチクと針を刺す。
今の私はうまく笑えているかな。
ホムラの唇が微かに震えた。何かを言いたげにも見えたし、何処か
——
傷ついたようにも見えたのは私の願望かもしれない。
「あ、もうこんな時間! おばあちゃんにおつかい頼まれてたんだった! 私帰るね!」
ガタリと椅子を鳴らして立ち上がる。バッグを持ったところで何かが落ちた音がした。
「待って!」
ホムラの足元に転がる鉛筆とスケッチブック。開いてしまったページが折れているのが見えた。それなのに、それに目を向けるどころか私の手首を強く握る。
「落ちてるよ。拾わないの?」
「君が、
……
ッ、君が誰と踊りたかったのかわからないけど、僕じゃダメかい?」
「
………………
ぇ」
「そいつよりも君を楽しませてみせるから」
するりと撫でるように私の指先に手を下ろす。意外と大きな手に、私の手はすっぽりと収まってしまった。
「僕と踊ってくれませんか」
真っ直ぐな眼差しは光をたっぷりと含んで私を見る。初めて見る色を宿した瞳は、普段とは違う魅力を持って私を捕らえた。逃れるように緩く首を振る。
「
……
うそ」
「こんな嘘つくわけないでしょ」
「だって、相手がいるって言ってたじゃん!」
「相手
……
?」
心当たりがないと言わんばかりの顔で首を傾げる。私の心はあの日の言葉を思い出して重い痛みを訴えるのに。
「言ったよ! 隣のクラスの子が、貴方をパートナーに誘った時
……
」
「君、あそこにいたの!? あれは、
————
」
ホムラの頬が薄らと色づく。
「あれは君を誘うつもりだったんだ。どんな風に、どこで君に話をしようか悩んでて
……
。でも、そのうち君がプロムの話を避けるようになったから」
「
……
え?」
ホムラに声をかけられるたびに何かと理由をつけて逃げていた。でも、まさか。
軋むように痛んでいた心臓が、今度は破裂しそうなくらいに鼓動する。顔が熱くなって、さっきの言葉を何度も反芻した。
私の顔を見たホムラが目を丸くする。それは次第に甘く蕩けていった。
「君に頷いてもらえると思ってたんだ。なのに君の様子を見て、僕以外にパートナーになって欲しい人がいたんだって苦しくなった」
「わ、私も、ホムラには私以外にパートナーがいるんだって思って悲しかった」
「僕たちすれ違ってしまったみたいだね」
私の手を握ったまま、ホムラは膝をついた。背中をピンと伸ばしたその姿はまるで絵物語に出る王子様みたい。彼は私の名前を一音一音大切に紡ぐ。
「
————
僕のパートナーになってくれる?」
「うんっ」
ホムラの手を握り返して、胸に溢れる喜びと共に抱きつく。
「ちゃんとエスコートしてね」
「もちろん。君が攫われてしまわないようにずっとそばにいるよ」
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Posted by 冬暁/
薄明
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