三毛田
2026-03-03 20:39:29
16552文字
Public 穹丹
 

溶かして固めて恋心

とらのオンデマンド印刷の本文サンプル
学パロ

受注期間:2026年3月13日(金)~3月30日(月)



「穹くん。これ、受け取ってください!」
 俺を呼ぶ人がいると伝えられ、廊下へ向かい。何かと思っていたら差し出されたのは、可愛くラッピングされた袋に入ったクッキー。チョコチップのやつだ。
 脳裏にトラウマがよぎり、吐きそうになるのを堪えて余所行きスマイルを浮かべ。
「ごめん。手作りの物は、受け取らないし食べられないんだ」
 断ると、彼女は驚いたように目を丸くする。なんで驚くんだよ。断られないと思っていたのだろうか。
 傲慢だな。なんて言葉、ぐっと飲み込んだのは偉い。後で丹恒に褒めてもらおう。そうしよう。
「でも、丹恒くんが作ったっていうお弁当食べてるって」
「あれは、俺の目の前で作ってくれてるし、一緒に作る時もあるから大丈夫なんだよ」
 そこまで親しくないし、名前も知らない相手にこれ以上情報を渡さなくてもいいだろう。口が軽そうだから、どんな噂を流されるかわからないし。そもそも好感度が違う。
「受け取るくらいはしてあげても」
「そうしたら、全部星の腹に消えるだけ。それでも良ければ受け取るけど」
 少しだけ感情を減らした笑みを向ければ、余計な事を口走ろうとした方も、クッキーを渡そうとした方も口を閉じて。
「じゃあ、俺はこれで」
 今回はあまりしつこい人じゃなかったようで、引き留められなかった。
「何食べてるんだよ」
「調理実習のクッキー。いっぱいもらった。穹も食べる?」
「いらない。お前かなのが作ったなら食べるけど」
「やた。あげない。なのが作ったのは、全部私の」
「強欲すぎるだろ」
 教室に戻ると、当たり前のように俺の椅子に座って頬を膨らませている星がいた。
 ので、何を食べているのかと問いかければクッキーだと。さっきのも、調理実習で作ったやつなのかもしれない。
 というか、別のクラスの人間に渡すなよ。しかも、初めて会話を交わすであろう人間に対して。お菓子なんだから、女子同士で仲良く分け合えっての。
 多分、これを口にしたら大多数の野郎どもに恨まれる。自分は貰えないのに、贅沢なことを言うな。みたいに。
 それならば、欲しがる人間に渡せばいい。渡す側も貰う側も幸せになれるだろう。
 全部心の中で想うだけで、口には出さない。これでも、クラスでは猫被りだからな! 若干剥れかけだけど。
「星、お待たせ〜! お弁当買えたよ」
「買いに行かせてごめんね」
「ううん。星が行ったら、いろんな子に足止め食らって買えなくなっちゃうもん。まだまだクッキー渡したい子がいたみたいだし。あ、椅子借ります」
「どうぞどうぞ」
 なのは元気よく教室に入ってきて。そして、俺の隣の席のやつに椅子を借りると告げる。
 まあ、そこはそいつの席じゃない。っていうのは言わなくてもいいか。気にしてなさそうだし。
「丹恒は?」
「おやつ買ってたよ。後、飲み物」
「三月、忘れ物だ。割り箸をもらい忘れただろう」
「あ、本当だ! 丹恒、ありがとう」
「それなら、気づいた購買の人に後で伝えろ。穹、用事は済んだのか」
「いつもの」
 俺が告げると、三人とも哀れむような視線をこちらへ。
「そんな顔するより、ご飯にしよう」
「それもそうだな」
「なの、食べさせて」
「もう。甘えないでよ」
 とか言いつつも、いざ食事が始まれば一つは食べさせるんだからなのは星に甘い。
「いただきまーす! はい、口開けて」
「いただきます。あーん」
 学校だぞ、ここは。家でやれ、家で。というツッコミを飲み込み、弁当を開けていく。
「いただきます。なあ、丹恒。俺もあーんしてほしいな?」
「ほら」
 少々呆れつつも、彼は俺が作った卵焼きを、俺の弁当箱から出して口へ持ってきてくれる。
 ここまでの工程、ちゃんと俺の箸で行われている。そういうところはしっかりさているというか、ちゃっかりしているというか。食べさせてくれる丹恒も甘い。
「うん。我ながら美味く作れた」
「しょっぱい卵焼きも、悪くないな」
 俺に箸を返した後、自分の箸で己の分を食べ、咀嚼して飲み込んでから感心したように。
「我が家は、何だかんだしょっぱい卵焼きばっかだったからね。姫子たちの所に来て、甘いのがあるって知って驚いた」
 そう。しょうゆだったり、出汁だったりで味付けされた厚焼き玉子ばかりだったから星の言う通り新鮮だった。
 今では当たり前になっているけど。
「ウチは、目玉焼きに何を掛けるかで人によって違うことに驚いたな〜。後、焼きそばにマヨネーズ」
「カップ焼きそばに、マヨネーズが最高」
 キラッと目を輝かせ、宣言する星。
 そんなこと言ってないで、さっさと飯食えよ。とは口にしない。喧嘩になるから。
「青のり多めの、マヨ少なめが俺は好み」
 俺の言葉に、オクラの煮浸しを口へ運んだ丹恒は奇妙なものを見るような視線を向けてくる。
 流石に、少し傷つく。
「俺は、野菜多めの麺太め。たまに塩が食べたくなる」
「塩も美味しい。なのは?」
 うんうんと頷き、星はなのへと話を振って。
「ウチ? 丹恒と一緒で、野菜多めが好きだな〜。ヨウおじちゃんが作るやつは、野菜多めなんだ」
「へ〜。今度というか、機会があれば頼んでみるか」
 ヨウおじちゃんの作る焼きそばは、まだ食べたことないのでおねだりしてみよう。星から視線を向けられたので、頷いておく。と、彼女も頷く。
 姫子はキッチンに立たせてもらえないらしいので、彼女の味付けは誰も知らない。その方が、胃に優しい。うん。
「それなら、庭でバーベキューでもいいんじゃない?」
「後片付けをお前がやるなら提案しておくぞ、星」
「そこはみんなでやろうよ」
 文句があるようで、頬を膨らませる。
 そんな彼女の姿に、丹恒は珍しく笑って。
「笑うところじゃないっ」
「すまない。悪かった。俺も手伝うから、みんなで頼もう」
 楽しそうに笑う姿に、教室に残っていたりここで俺たちのように食事をしているクラスメイトが、驚いたように目を丸くして。
 見るなよ。という気持ちを込めて、睨む。
 何人かは気づいて慌てて視線をそらし。気づかないのか、それともフリなのか。
 コソコソしながら丹恒を見る奴もチラホラ。
 ちょっと気になったことがあったので、席を立つ。
「穹?」
「丹恒たちは食べてて。すぐに済ませるから」
「わかった」
 目的の人物の元へ行き、他から見たら脅迫にもとれる言葉を告げてその行動をやめさせる。
 だって、他の人間の端末に丹恒がいるとか耐えられない。
 強めに忠告してから、席に戻れば。
「もういいのか」
「うん。早く食べないと、時間が無くなるから」
 丹恒に問いかけられたので、もういいのだと答えておく。
 うん。だって、これ以上他人に時間をかけられないから。
 自分がこんなにも他者に対して薄情だとは思わなかった。とは言わない。
 姫子のところでお世話になるまでは、俺の世界は星とカフカ、時々刃と銀狼。だけだったから。
 今は、丹恒となの。姫子に、ヨウおじちゃん。それからパムが増えた。
 他者に対して淡白で薄情気味になったのは、十年程前の出来事が原因で。
 そして、同時に身内認定した相手以外の手作りが食べられなくなった原因でトラウマ。
 そして若干の、女性恐怖症のような女性不信のようなものも発症してる気がする。
 こちらについては多分だから、確証はない。
 身内判定した人たちは、大丈夫。今のところ。