eclipsis
7160文字
Public ローロビ
 

Porosha and Pukh

短編二つ。雪遊びするローロビの話と、後日に女子会するナミさんとロビンちゃんの話
ローロビはCP未満な感じの関係です




 おやつどきの午後、サニー号の甲板には気持ちの良い風が吹いていた。風はさっぱりした温かさをまとい踊っていて、みかん畑の木々の葉が歌うように鳴る。
 こういう天候の日は、好きなものの近くでお茶をするのが最高なのだ。ナミは紅茶を一口飲んで思った。簡易テーブルにギンガムチェックのクロスを敷くだけで充分可愛い。サンジが出してくれたケーキもあるし、テーブルの対面にはロビンがいる。優雅にコーヒーを飲む姿は絵画みたいで目の保養にもなる。ナミは力を抜くようにして小さく息を吐いた。
 お茶うけの話題はいくつか喋り終えている。まったりした空気のまま浸るのも悪くないけれど、ナミの頭にはここ一番の話題がまだ残っていた。コーヒーを置いたロビンがケーキを一口食べている。ナミは紅茶のカップの縁を指でなぞった。

「そういえばロビン、トラ男君と最近仲良いわよね? 前も二人で出掛けてたじゃない。⋯⋯ねぇ、何か面白いこと、あった?」

 ナミの声は喋りだすと妙なテンポで続いた。カップを触る手も吊られてピンピンとぎこちなく動く。自ら出した話題にあたかも驚いているようだった。
 ローとロビン、二人のお出掛け。所謂も何もデートだ。ナミは二人の邪魔をするつもりは全く無い。だが、万一ロビンに何かが起こったらローを成敗しなければと思う。これは単純な正義心とかではなく、寧ろナミはローを信じている。彼女の船長であるルフィが信じているからだ。でもそれとは別で色々な気持ちが湧いてきてしまう。――デートって何をするの。もしもロビンが泣いたり悲しんだりする事が起こったら? 違う船の男とお近づきになるなんて。ロビンが幸せになるなら応援する。そのために色々訊かなきゃ――

「面白いこと⋯⋯? そうね。私たち、雪遊びをしたわ」

 ナミの変に切羽詰まった空気とは反対に、ロビンの返事はさらりと流れるように終わった。ナミ自体に望む答えがあった訳じゃない。だが予想外すぎて時がピシリと一瞬止まる。彼女の両目だけがパチパチと音を立ててまばたきをした。

「ゆ、ゆきあそび??」
「そ、雪玉を投げたり。私が勝ったと思うんだけど、トラ男君たら引き分けって言ってたわ。あぁ、それと雪が綺麗に積もったところへ倒れて天使のシルエットを作ったの。ナミはやったことある? 天使よ」

 目を白黒させるナミにロビンのさらりとした調子は変わらなかった。ほんの日常といった感じにエピソードを聞かせて、最後には天使の羽ばたきを両手で軽くしてくれた。そのあどけない仕草で、ナミが抱える空気は完璧にやられた。そしてこう思わずにはいられなかった。――色気が全ッ然無い! 
 ナミの頭にでかでかとそのデート報告の感想が現れて、思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏した。健全といえばこの上なく健全で、ほっと肩の力が抜ける。だが抜けすぎてもはやふにゃふにゃだ。この際デートだ何だは置いといて、外科医と考古学者の賢い二人がそんな子どもっぽい遊びを本当にするのだろうか。信じらんない。ナミの思考は予想外の結果によく分からない飛び方をして、何故か憤りの気持ちに着地しそうになった。

「ヤダ。なぁに、ナミってば。何かご不満?」

 机に伏せたまま動かないナミを見て、ロビンがようやく表情を変えた。不服そうな視線でほんの少し唇を尖らせている。ナミは頭だけチラリと上げるとロビンの事を見た。

「だって⋯⋯ロビンみたいな綺麗で可愛い人と出掛けといてよ? そんな子どもみたいな遊びするなんて⋯⋯アイツって案外腑抜けなのかしら」

 不貞腐れたような態度でナミは喋った。その姿の方が何だか子どもみたいで、ロビンの眉尻は自然と優しく下がった。

「フフ、彼を悪く言わないであげて。⋯⋯どっちもその気が無いだけだもの」

 ロビンはまたさらりと答える。ただ、最後にほんの少し甘い余韻を引く答え方をした。ナミはそれを聞き逃さなかった。突っ伏していた体勢を徐に直すと、猫のような大きい瞳がキラリと光った。

「⋯⋯好きじゃないの? トラ男のこと」
「⋯⋯⋯⋯スキ、よ」

 ナミはロビンと顔を突き合わせて訊いた。ロビンは少し息を呑んだ後、より甘い余韻を引いて答えを出した。明らさまな気配が二人の間に漂う。

「それって男として? ただの友達として?」

 ナミは余白のようなその気配を離さなかった。好奇心の強い猫が更にロビンを問い詰めていく。ロビンは少し伏し目がちになって、長いまつ毛の影が微弱に震えた。

「ン⋯⋯、それは⋯分からない、わ」
「⋯⋯⋯⋯その答え方は何かトキメキがありそうだけど? 私の勘って当たるのよね」

 ロビンの伏せた瞳が小さく瞬きをする。指が耳元を触って長い黒髪をかけ直す。それらの仕草にナミは欲しい答えを捕まえたようだ。薄まらない甘い気配も駄目押しで、ナミの瞳が楽しそうにまた光った。口元は悪戯っぽくニヤリと上がる。調子よく腕組みさえしそうなナミに、ロビンの両目がゆっくりと細められた。

「何だかナミはとっても詳しそうだけど⋯⋯貴女ならどうするの? 男と二人で出掛けて、何かそういう⋯⋯トキメキを知ってるのね? 教えてほしいわ――

 髪をかけ直した指をそのまま頬へ滑らせ、ロビンは頬杖をついた。テーブルへ肘をつくのでナミに顔を近づけるような体勢になる。ロビンの薄い口元が魔法みたいに動いて、ナミは目を逸らせなくなった。ほんのり色付いているそこが、教えてほしいと言った後に小悪魔っぽく囁いた。『先生』⋯⋯ナミの顔は一気に赤くなった。

「そ、そりゃあもう! 私だったら見晴らしの良いところにある高級レストランでスタートするのよ。時刻はそうね、ムードたっぷりの夕暮れ時で! そしてそれに負けないくらいの良い男が私に指輪を渡すのよ⋯! それがまず一つめでしょ。それから指の数にプラスして大まかな記念日の数くらいは欲しいわ。あとネックレスとピアスとブレスレットとティアラは絶対よね。あぁ、あとサークレットも欲しいかな。それから最高級品の毛皮に金の延べ棒⋯⋯」

 自信たっぷりに胸を張ったナミの語りは、途中から雲行きが変わり目がベリーの形に変わった。おまけに幸せそうな口が緩んで周りが黄金色になった時、ナミはハッと我に返った。ロビンが頬杖をついたままじぃっと見つめている。その両目から小悪魔は消えて冷静だった。

「貴女も"分からない"じゃないの」

 ロビンのとどめの一言でナミはあっけなく撃沈した。また頭を抱えてテーブルへ突っ伏す。そしてプルプル震えだしたかと思ったら、勢い良く起き上がった。ロビンがパチパチと大きくまばたきをする。

「うぅ~⋯⋯⋯⋯あ~~もう! 仕方ないでしょ! 海賊稼業って思った以上に色気もなんも無いもん! 取り分けうちのクルーって!!」
「私そういうとこが大好きだけど」
「それはそう!!」

 ナミの勢いは凄く怒涛のまま嘆く。ロビンが冷静に相槌した分も、勢い良く返して天を仰いで叫んだ。ロビンはそれに間髪入れず声を出して笑った。清々しいくらいの開き直りと肯定に、次第にナミも一緒になって笑いだした。

 春の日の甲板お茶会は楽しく過ぎた。次のデートは夏島で、なんて話題が出てもナミとロビンはただ笑い合ってお喋りを続けた。