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7160文字
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ローロビ
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Porosha and Pukh
短編二つ。雪遊びするローロビの話と、後日に女子会するナミさんとロビンちゃんの話
ローロビはCP未満な感じの関係です
1
2
あちこちが白い雪のなか、尖った屋根をもつ家々がケーキに立つ飾りみたいに並んでいる。ロビンは今歩いている町中を見てそんな風に思った。素朴な冬の町の昼下がりは穏やかで、ゆったり歩くと心地良い。落ちついた歩幅に合わせ、ふわふわと白い息が二人分出て流れていく。ロビンと、その隣で歩くロー。二人が無言でもそれすら馴染んでしまう。
するとローがチラリと後方を見た。そしてほぼ同時に、町の子どもたちが二人の傍を駆けていった。キャアと楽しそうな黄色い声が弾けていて、ロビンは思わず子どもたちを目で追った。
子どもたちは雪玉を持ってぶつけ合う。体に当たった雪玉が派手に砕けると、また笑い声が大きく出た。皆の頬は赤い林檎のようで、笑ってぷっくり膨れるとまさにそれっぽくなった。楽しそうにはしゃいで遊び、積もった雪へコロコロと転がったりしている。眺めるロビンの頭には大収穫のかわいい林檎たちが籠に入っていく。
「⋯⋯ニコ屋、着いて来い」
不意にローが喋った。頭の中の林檎が刺青の入った手で止められて、ロビンは声の方を素直に見た。ローが背中を向けて町の路地へ入ろうとしている。ローの黒いコートがひるがえって、彼の首が少し傾げてロビンのことを窺う。ロビンは返事の代わりにクスリと笑ってみせて、ローの後を歩いて行った。
入った路地は存外に短くて町の境界線である廃れたレンガ塀が途切れると、二人はあっという間に外へ出てしまった。町のすぐそばには森があった。ローは迷いなくそこへ歩いていく。木立の中へ入っていくその後ろ姿に従ってロビンも歩いた。
――
そういえば白いうさぎを追いかける少女の話があった。ロビンはひっそりした木立の間を過ぎながらふと思った。そしてすぐに眉を下げて、口元を緩めた。今はうさぎではなく、ちょっとぶっきらぼうな雪豹かもしれない。前を歩く揺るぎないローは、足元の雪をどんどん踏んで行っている。そのうちに、雪がローのコートをまだら模様の毛皮みたいに染めて、立派な尻尾が生えたりしたら。ロビンがそんな空想をしていると、ローが徐に立ち止まった。ロビンも連られて足を止める。二人は森の中の拓けた場所に来ていた。丁寧に刈り取られて出来た緩い楕円の広場だ。一面が白に包まれて誰かが作った雪だるまと、雪に刺さったシャベルだけがある。ロビンが隣に立つローを見ると、彼は広場へ歩き出して地面へしゃがみ始めた。
「ここだったら誰もいない。雪遊びができるぞ」
ローは何気なく喋った。ぶっきらぼうなのは変わらないが、ここへ連れて来られた理由をロビンは何となく察した。けれどもうちょっと飾り気のある言葉が欲しい。少しとぼける仕草を出して、ロビンは小首を傾げた。
「トラ男くん?」
「お前やりたそうだったろ」
ロビンがカマをかけてもローは引っかからなかった。飾りなんてまるで無し、寧ろ切り捨てるような言葉を投げられて、ロビンは思わず自分の頬に手を当てた。
そんな顔してたのかしら。手袋越しに弱く撫でてみてもロビンの頬に林檎が実っているのかはよく分からなかった。本当はトラ男君が遊びたかったんじゃ。しゃがむローは手で雪を集めだしている。ロビンが遊ぶことはもう必然なようで、ローは鼻の頭を少し赤くして集めた雪を丸め始めていく。
ロビンの頬が一瞬の間にふるりと振動した。そして堪らずフフフッと笑う息が漏れ出す。理由なんてもうどうでも良くなった。ローの傍まで歩いていくと、一緒にしゃがんで雪玉を作った。遊んでしまえば結局は二人とも同じになるのだ。
そうしていよいよ合戦が始まった。雪玉を投げ合うなか、ローは最初にほんの少しだけ遠慮して投げて、ロビンは迷いなく顔を狙った。
「おい、お前! 顔は反則だろ!」
「アハハッ! ヤダ、そうなのね? 私雪遊びってした事ないのよ!」
ローが持ち前の俊敏性で雪玉を躱して、ついでの反撃とばかりに雪玉を思い切り投げる。ロビンも長い脚を活かして雪だるまの背中へと一目散に逃げて躱す。二人だけでもなかなか戦いは白熱した。投げた雪玉が外れたら片方がアッ! と悔しそうな顔をして、もう片方が笑う。雪玉が見事当たって派手に砕けたときは、どちらも一緒に笑った。
「⋯⋯ハァッ、ハァ⋯!」
無心になって雪玉を投げ合った二人は同時に地面へ座りこんだ。最後の玉は至近距離だったせいで自然とお互いの肩をくっつけて、疲れたままそれぞれに身を任せた。
「この勝負⋯ハァ⋯⋯勝ったのは、どっちかしら」
「ハァ、引き分けだな⋯⋯ハァ、流石はニコ・ロビンだ」
お互いの頭やコートには合戦の白い名残がいくつもあった。ロビンから見るとローの方にその名残が多い気がした。少し前の彼女が空想した、まだら模様の毛皮にすっかり変わっているような気さえする。ローが頭を振り帽子にかかる雪を落とした、まるで動物みたいに。ロビンは思わず笑ってしまい白い息がぽふん、と空へ舞った。
ふと、見渡した辺りの雪景色が日差しに照らされキラキラと瞬きだした。合図を送るような光の粒子にロビンは惹きつけられて、ゆっくりと立ち上がった。そのまま広場を歩いてみると、木立が途切れた先に森の終わりが見えた。そこにはまだ誰も踏み入っていない柔らかそうな雪の一面があり、もう少し先は崖のようで薄水色の空が広がって雪の境界線と交わっていた。
ほぅ、とロビンはため息を吐いた。遊びで火照った体が気持ち良く冷やされていく。さっきまでの楽しいおもちゃだった雪が、その透き通る白さを無言で見せて一面と綺麗に積もっているさまは、胸がすくような感覚を与えてくれた。ロビンはじんわりと自分を癒す景色に浸って佇んだ。すると後からローが来て彼女の隣に立った。彼のコートは雪豹から普通のコートに戻っていた。どうやら大方の雪は払ったらしい。ローは目の前の新雪を見ると仕切り直すようにフンと息を一度吐いた。そして不意に踵を返した。同じ方向を見て立っていたのに突然反対になった彼を見て、ロビンは少し目を丸くさせた。その表情をローが見てニヤリと笑う。
「見てろ」
一言だけそう言うとローは一面の雪へ倒れこんだ。両手を広げて大の字で白く冷たい布団に着地する。次いで広げた両手を上下へ振ってみせた。ローの体に添ってへこんだ雪が、両手のかき分けるような動きでシルエットが変わる。一連の動作をただ不思議そうに見守っていたロビンがまた目を丸くさせた。
「天使ね」
確信を持って出たロビンの声は嬉しそうに響く。けれど、その答えを聞いたローは片眉を上げた表情で起き上がった。
「⋯⋯お前なぁ、おれが教えようとした事取るなよ」
「あ、ごめんなさい」
ローの切れ長な目がちょっぴり意地悪く光って、ロビンは素直に謝り口元へ手を当てた。すぐにローの目は優しく緩んだ。フフ、と笑って背中についた雪を払いつつ立ち上がる。ロビンの隣へ行くと満足気な腕組みをした。
「やってみろ」
ローはわずかに首を傾けて、彼が作った天使の隣をロビンへ示した。ロビンは言われた通りにそこへ倒れこんだ。バフ、と雪が柔らかく彼女を受け止める音をさせる。ロビンはゆっくり自分の腕を羽ばたかせた。両腕にまとわりつく雪が平らになった感じを覚えたら、ローと同じく雪を払って立ち上がった。
「どうかしら」
「ああ、上手くできてる」
ローの隣に並んでロビンはワクワクと尋ねた。ローは微笑んでお墨付きをくれて、ロビンはにっこりとして頬を染めた。並んで立つ二人の足元には、もう二人の雪の天使が現れている。二人の翼はちょうど触れ合っていた。手を繋いでいる。ロビンはそう思ったのと同時に、隣のローの手を見た。素手で雪を触っていたせいで爪の先から赤く染め上がっていた。自然と、ロビンの手はローの手を握りに行った。
「お医者さまの手でしょ。大切にしなきゃ」
ローの顔を覗きこむようにしてロビンは喋った。その下で繋いだ手が小さく揺れる。少し注意めいたロビンの口調は、その実何だかふわふわしてローを擽るようだった。ローはロビンと向き合うように立つ位置をずらすと、空いている手で彼女の頭を撫でた。
「お前はここだろ」
ローの手がロビンの形の良い頭をゆっくり撫でていく。撫でて、時折あやすみたいにポンと軽く触れる。ロビンの瞳が、その動きを捕まえるようにくるりと動いた。
「頭寒足熱って言うわ。冷やすのは逆に良いんじゃないかしら?」
「全身冷えてたら意味ねーだろ⋯⋯フフ、屁理屈屋のロビン」
「まぁ、悪い口」
言葉のやり合いは心地良く弾んでいき二人とも笑わずにはいられなかった。お互いの白い息が空へ昇って静かに消えた。どちらともなく、体の位置を元に戻して正面を見た。足元には変わらず天使がいる。手を繋ぐ天使だ。ローとロビンはまたどちらともなく繋いだ指を動かして、絡ませる繋ぎ方に変えた。
二人がじっと見つめる雪の景色は、まだ高い位置にいる太陽に照らされて輝いている。ロビンの頭にはその輝きが楽しいときめきとして刻まれ始めた。寒い、キラキラ、雪遊び、白い、ふわふわ。
「⋯⋯チョッパーにも教えてあげなきゃ」
ロビンは心のままに呟いた。連想していたら頭の中に大好きな可愛い友達が不意に出てきたのだ。チョッパーが雪の天使を知ったらどう反応するだろう。すごい! と言って無邪気に真似をするだろうか。それとも冬島生まれの彼だから、もう知ってるぞと自信たっぷりに天使を作るだろうか。
角の生えた小さな天使を色々と想像したら、ロビンは胸が温かくなって思わず笑った。すると、隣のローも小さく笑う気配をさせた。握った指に優しく力が入るのが分かる。ローも、チョッパーの天使を想像したのだ。ロビンは繋ぐ手の感触でそう感じた。
二人は天使を眺め続けた。チラチラと淡い雪が降り始めれば、しっとりとした寂しい空気が辺りを満たす。全てが静かだった。
――
言葉が無くても、ロビンはそれ以上をローから受け取って胸がますます温かくなっていた。一人じゃないことが、この雪の中で二人でいることが、何よりも嬉しく感じた。
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