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彼方理路
2684文字
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#BL_華組
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〈sweet morning call〉
SS/誓汝×雪砂(現在軸)
同棲中の朝の一コマ
1
2
【雪砂side】
薄いカーテンの隙間から差し込む朝の光が、二人の暮らす部屋を白白と染め上げていく。
雪砂は、陽の眩しさにわずかに眉を寄せると、まだ重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。
(
……
あ、さ)
ぬるい微睡みから意識が浮上した瞬間、胸を占めるのはいつだって“恐怖”だった。
──自分はただ、幸せな夢を見ていただけではないのか。
──目が覚めたらまた、あの冷たく静かな部屋に一人きりなのではないか。
付き合い始めた頃は、毎朝飛び起きて携帯電話を探し、二人で撮った写真や、幾度となく交わしたメッセージ履歴を確認して、ようやく震えを止めていた。雪砂にとって、誰かから本気の愛を注がれるということが、それほどまでに信じがたい、途方もない幸せだったのだ。
けれど、今は違う。
おそるおそる横へ視線を向けると、隣には等身大の温もりがあった。
寝癖で跳ねた赤髪。普段の強気な瞳は閉じられ、あどけない寝顔がそこに横たわっている。
「
……
ちかな」
最愛の恋人は、今日も確かにすぐ傍にいる。夢じゃない。幻でもない。
「
……
ん
……
」
胸元が小さく上下し、寝息が一定のリズムを刻む。その「生」の気配を目にしただけで、胸の奥に幸福感が込み上げてくる。思わず、今にも泣き出してしまいそうになるほどだ。
(よかった
……
ちゃんと、いる
……
)
安堵の息が零れ、無意識に身体を寄せる。掛け布団の中で身をよじり、そっとすり寄る。
温かい。優しくて、安心する匂い。頭を腕の中に潜り込ませると、その体温を確かめるように頬を押し付けた。
こうしているだけで、愛されたいと願い続けた過去の自分が満たされて溶けていくようだ。
「
……
ゆ、き
……
?」
不意に、頭上から掠れた低い声が落ちてくる。目を開けると、驚いたように見下ろす視線があった。
「あ
……
ご、ごめん。起こしちゃった
……
?」
申し訳なさそうに見上げる。寝起きで潤んだ瞳、無防備に開いたパジャマの襟元、仔猫のように懐へ潜り込む仕草──そのすべてが、相手の脳髄を強烈に刺激するのを知らずに。
「ッ
……
!」
喉が小さく鳴ったように見えたが、その理由は雪砂には分からない。ただ、奥歯を噛みしめ、何かを堪えている──その様子は伝わった。
「
……
どうした? まだ眠いのか?」
誓汝は一度大きく息を吐き、つとめて落ち着いた声で頭を撫でる。その掌の大きさに安心して、雪砂は目を細めた。
「ううん
……
夢じゃないか、確かめたくて」
「夢?」
「うん。起きたらいなくなってるんじゃないかって、まだ時々怖くなるから
……
でも、こうして触れると、本当にいるって安心するんだ」
そう言ってTシャツをぎゅっと握り、胸元に顔を埋めた。
「誓汝
……
大好き。いつも傍にいてくれて、ありがとう」
籠もった声で紡がれる、真っ直ぐな愛情。
誓汝の腕が僅かに震えたのを、胸元越しに感じた。
「ゆき」
ぽつりと名を呼ばれ、次の瞬間、力強く抱きしめられる。
「
……
ひゃっ、くるし
……
誓汝?」
「夢なわけねーだろ。オレはどこにも行かねぇよ」
耳元に落ちる囁き。その熱に、心臓が跳ねる。
「ずっとそばにいてやる。
……
その代わり」
「その、かわり
……
?」
身体を離して見下ろす瞳は、どこか獰猛な肉食獣じみていて、思わず息をのむ。
「朝からオレのこと煽った責任、ちゃんと取ってもらうからな?」
「
……
え!?」
顔が一気に熱を帯びる。誓汝は意地悪く、けれども確かな愛情が滲むような笑みを浮かべた。
──こうして、二人の朝は今日も甘く騒がしく始まっていく。
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