____mugi1
2026-02-22 19:15:19
2203文字
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明日がくるまで

イト+ビリ/イトビリ🔦🔫
理解できない臆病な夜と明日になるまでの二人の話


「──道連れになってくれます?」と言った。言って、直ぐに後悔した。夜闇の中で仄かに揺らぐ無機質のひかりは離れないままだった。喉が引き攣る。呼吸が億劫だった。最早何を言ったところで言い訳になる。窓の外側では雨が降り続いていて、二人の呼吸音を掻き消しては攫っていく。
 先程まで何を話していたのか、それさえ記憶は疎らで。何故いまのことばが内側から這って行ったのか解らなかった。此処数日十分な睡眠を確保できなかったが、一人でいれば何も問題は無かった筈だった。傍にいるこのおとこがライトの領域に踏み込んでくるまでは、幾重にも死んだ夜と心中する筈だった。
「付き合ってる訳でもねぇのに?」
「嫌いいです、しなくて」
「ええ……どっちなんだよ」
 ビリーは、駄々を捏ねる子どもをあやすように「まあ、いいけどよ」とライトの傍で笑った。寝具には二人分の温度が融合している。思考回路に理性が戻ってくる。星のひかりに似たイエローの光量は調節されていて、明けない夜を照らす道標のようだった。
 暗闇の中でしか星は生きられないのに、朝がやってくる度に幾度と殺されている事実に、人間はまだ気付いていない。明けない夜は無いと言って、朝を欲しがっている。ライトだって同じだ、このおとこの一つを欲している。
「返事、いましてやろうか」
「いらないです」
「多分同じだと思うぜ」
「だからですよ」
 過去からいまに、好きだとは言った。焦がれていると言った。けれどそれは決して解を聞きたい訳では無かった。ビリーは疑問符を浮かべていたが。一緒になりたいとは思っている。傍にいる権利と、何かあった時の連絡は一番に欲しいと思っている。ただ、どうしてもそのさきを思うと駄目だった。
「──……あんたまでいなくなったら、もう」
 いまのままでよかった。恋人等という関係性では無く、二人でよかった。酷く愚かで、醜い我儘だ。このおとこの内側まで触れて、赦されて。ふかくまで赦して。あの時と同じように、自分自身の愚行によって喪失してしまったらという畏怖に身が竦んだ。「馬鹿だなぁ、お前」と目の下の隈を。機械のゆびさきが撫でる。

「最初から、道連れになってやるって言ってんだろ」

 雨が、降り続いている。世界には生者は二人だけで、夜の死骸と時間と酸素以外は存在しない。「後悔なんてしなくていいぜ」とビリーが言った。つくづく、かっこいいのだ、このおとこは。此方のこと等何も理解していないくせに、そういうことを呆気無く言ってみせるから、馬鹿馬鹿しくなる。
……あんた、ほんとうにかっこいいすね」
「惚れ直したか?」
「最初から惚れてます、ずっと」
 暗闇が明けるまでのあと数時間、まだ眠りたくないと思った。朝になったところで何かが変わる訳でも無いが、それでもこのおとこと生きて行きたいことも事実で。「明日がくるまで、待っててもらえますか」とこぼれた。皮膚を撫でるゆびさきを掴まえる。
「しょうがねぇから待っててやるよ」
 イエローが弛く湾曲する。そのまま抱きしめて、何時かの明日を願って「好きです」と言った。