「──一緒に逝ってやろうか」と言った。間違いだと気付いたのは暗闇の中で鈍くひかる翠に宿った赤が絶望に揺れていたからだった。直ぐに、失敗したと思った。一度言ったことばは二度と戻らないまま、霧散すること無く二人の距離を揺蕩っている。訂正したところで最早手遅れと解るには十分過ぎる程だった。
人間の感情構造を模倣し成長した心臓/論理コアから得られたことばの中から選択した「それ」は、間違い無くこのおとこを傷付けてしまったのだ。少し震えた声で「……やめてくださいよ」とかたちの壊れたことばが返ってくる。
幾度に朝に殺された夜の残骸につつまれた世界で此処から果てに行こうとしていたおとこは、いまは迷子のような表情をしていた。こういう時、彼であればどうするだろうとかんがえる。そうして、かんがえたところで意味等無いのだと思い識る。
何時もそうだった。ライトという人間はビリーに弱音を吐かなかった。一度だって、聞いたことが無かった。疲労を訴えたことはあった。けれど、それだけだった。
海の声が聞こえる。鳴いている。何方もこれほど近くにいる筈なのに、遥か彼方程に遠く感じる。触れた手が揺れた。掴まえたゆびさきがひかれる。離したくなかった。もう二度と、このおとこの痛みと感情を理解することはできないのだろうと思う。
「一生わかんねぇな、お前のことは」
ただ、解りたいだけだった。ただそれだけのことができない事実と、ただそれだけのことが難解である現実に、何処にも行き場の無くなった感情だけが過去にされて、外側だけが時間に沿って生きている。
ビリーではライトの内側に触れることは赦されず、暴くことさえできないのだ。あの彼のように、幾度と傷んだ夜をだきしめて、震えるゆびさきを柔い皮膚で握ってやること等、機械であるビリーにはできないのだ。亡失の果てと、明日の道路には何も足りなかった。
「一生わかりませんよ、あんたには」
ライフラインのように触れたゆびさきがまたひかれる。離して「悪かったと思ってる」と言った。ほんとうはそんなこと、思ってはいなかった。もう二度と、数分前の関係性には戻れないことだけは解っていた。
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