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夜明 奈央
2026-02-13 19:02:00
2558文字
Public
久々綾
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久々→綾(女体化)爆裂片思い久々知くん! 〜バレンタイン編〜
爆裂片想い久々知くん!
の続き バレンタイン編 さらに続き→
ホワイトデー編
2026年2月13日初出
俺は久々知兵助、しがない高校2年生。ひとつ歳下の綾部さんに片想い中の身だ。
2月の半ば、迫りくるXデーに俺はそわそわしていた。2月といえばバレンタイン。バレンタインといえばチョコレート。例年仲の良い女子たちから友チョコだの何だのと多数のチョコを貰っていて、自慢じゃないが「貰えない」ことを悲しむ必要などなかった。それが今年は違う。片想い中の男にとって、バレンタインの願いといえばただひとつ。
好きな子からチョコが貰いたい!
それに比べれば、他の女子たちからのチョコなんてどうでも良かった。もうこの際そのチョコの名目さえ何でもいい。とにかくチョコを貰ったという事実がほしい。そもそも「バレンタインにチョコを渡して告白」なんて話はフィクションの世界でしか聞いたことがない。身近で付き合う奴等はバレンタインなんて関係なくとっとと付き合っているし、本命チョコが存在するとしたら既に成立しているカップル内でだけだろう。
立花先輩のおかげで一緒に白玉ぜんざいを食べたあの日、俺の中ではちょっぴり進展したことになっているが、残念ながら俺たちの関係に進展はない。あれから2週間が経過したが、綾部さんは1度も調理部に顔を見せていない。2週間といっても1回は祝日だったのでチャンスは実質1回。たまたま都合が合わなかっただけだと思うが、祝日をこんなにも恨んだのは初めてだ。
しかし俺がどんなに「綾部さんからのチョコが欲しい」と願っても、それが難しいことはわかっている。だって学年も部活も違っていて、俺は偶然でしか綾部さんに会わない。会えたとして、綾部さんがバレンタインというイベントに乗っかるタイプかどうかもわからない。勝手な想像だがどちらかといえば貰う派だろう。それでも俺は綾部さんから貰いたかった。これは理屈じゃない。男のロマンだ。夢を見るくらい許してほしい。ポケットからチョコを落として拾って貰えば実質貰ったことになると信じている。
そんなわけで2月13日、バレンタイン前日にあたる金曜日、俺は休み時間の度に1年生の教室付近を彷徨いていた。会いに行く用などない俺はどうにかして偶然を演出するしかないのだ。もちろん準備は万端。ポケットの中にはブラックサンダーとアルフォートとスマホを突っ込み、自然に中身をぶち撒ける練習もばっちりである。
おいそこ、可哀想な目を向けるな。キモいとか言うな。できることを最大限やって何が悪い。
しかし放課後までそれを繰り返しても、顔見知りの1年生に挨拶されたりチョコを貰ったり挙句不審そうな目を向けられるだけで、綾部さんと会うことは叶わなかった。諦めきれない俺は園芸部の普段の活動場所をぐるりと1周してみたが、綾部さんどころか他の園芸部メンバーすら見かけない。どうやら間の悪いことに校外花壇の手入れ日らしい。
道具の片付けのために1度は学校に戻ってくるはず。諦めの悪い俺は昇降口の陰で綾部さんを待つことにした。時折数人のグループが通り過ぎる以外、昇降口はしんと静まり返っている。俺は勉強しながら通り過ぎる人たちにちらちらと視線を送っていたが、1時間、2時間と経過し、園芸部の一団が通過しても、綾部さんは一向に出てこない。もしや今日は休みだったか、俺が待ち始める前に帰っていたか。学校が定めた最終下校時刻も迫っていて、そろそろ諦めるしかなさそうだった。のろのろ靴を履き替えていると、誰かがやってきて1年生の下駄箱の列に消えていく。一縷の望みをかけてそちらに視線を向けると、そこにいたのはなんと綾部さんだった。
「あれ、久々知先輩?」
「えっ綾部さん?」
うっかり「さっき園芸部の人たち」と言いかけて、それでは俺がここで待っていたことがバレてしまうと慌てて口を噤んだ。当たり障りのない会話をどうにかこうにか捻り出す。
「こんな時間までどうしたの?」
「部活の後チョコ交換会して、その後忘れ物に気づいて教室に戻ってたら遅くなっちゃいました。先輩こそこんな時間までどうしたんです?」
「ちょっと試作に熱が入っちゃって」
「そういうの、先生に怒られないんですか?」
「ちょっと怒られた」
リアリティを出すために適当な嘘を吐く。それに綾部さんが笑ってくれて、内心ガッツポーズを決めた。けれどあわよくばチョコを貰いたい俺はそこで満足するわけにいかない。
「チョコ交換会って、バレンタインだから?」
「はい。良かったら先輩もどうぞ」
反射的に手を出すと、その上にカントリーマアムが置かれた。個包装のラッピングすらされていないたった1個。けれど「拾って貰えたらOK」なんて痛々しいことを考えていた俺には十分すぎる成果だった。まじまじと見つめて観察している間に、いつの間にか綾部さんは数歩先にいた。帰ろうとしたのに俺がいつまでも動かないから待ってくれているようだ。俺が綾部さんと一緒に帰れるのはほんの100メートルかそこらだが、それでも一緒に帰ろうと思ってくれているのが嬉しい。貰ったカントリーマアムをポケットに押し込み、その後ろを小走りで追いかける。すぐに追いつき、横に並ぶ。
「ありがとう、嬉しい。ホワイトデーにはお返しするから期待してて」
「それっぽっちで気を遣わなくていいですよ」
「俺がしたいの」
「そうですか」
嬉しくてにやにやと口角が上がりそうになるのをどうにか堪える。もう辺りはすっかり薄暗いお陰で、玄関から離れて街灯が遠くなると表情なんてほとんど見えないはずだ。
綾部さんとの別れ道はあっという間だ。可能なら「女の子1人じゃ危ないから」なんて口実で送っていきたいところだが、自転車通学の綾部さんに対して俺は電車通学なのでそれさえできない。悔しい気持ちを堪えて「気をつけて」と手を振ると、綾部さんは小さく手を振って駐輪場に消えていく。あんまりにも可愛い。
綾部さんが見えなくなって完全に1人になると、バレンタインチョコを貰えたという事実に、腹の奥から歓喜が湧き上がる。夢じゃないと確認するためにポケットからカントリーマアムを取り出すと、仕込んでいたブラックサンダーとアルフォートがバラバラと落ちた。あまりにも格好がつかないが、有頂天の俺にはそんなことどうだって良かった。
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