夜明 奈央
2026-02-01 15:48:41
4561文字
Public 久々綾
 

久々→綾(女体化)爆裂片想い久々知くん!

現パロ高校生 綾部♀に脈なし片想い中の久々知が仙♀輩に恋愛相談してる話 続き→バレンタイン編
2026年2月1日初出

 俺は久々知兵助、16歳。ひとつ歳下の綾部さんに絶賛片想い中である。
 綾部さんとは学年も部活も委員会もなんなら帰る方向まで違うが、特別ドラマチックな出会いがあったわけではない。俺たちの通う学校は校舎の脇に花壇があって、職員室前の窓からは綾部さんの所属する園芸部員が活動しているのがよく見える。何の気なしに外に目を向けた時にたまたま目が合って、綾部さんがにこっと笑いかけてくれたのが最初だった。その時はそれだけだったが、俺が調理部で使っている家庭科室の鍵を借りに行く度に顔を合わせるうち、いつしか世間話をする仲になり、気づけば好きになっていた。
 しかし想いは俺の一方的なもので、悲しい哉綾部さんからは「会うと時々話す先輩」程度にしか認識されていない。
「俺、もしかして綾部さんに嫌われてるんでしょうか」
「そんなことはないと思うぞ。別に好かれてもないだろうが」
 調理部の部室、俺の目の前では立花先輩が優雅に日本茶を啜っている。結構真剣な相談のつもりだったのだが、立花先輩の返事はずばっと何の優しさも感じられないものだった。
 立花先輩とは中学が同じで、縦割活動やら卒業生訪問やらを通してそこそこ可愛がってもらっていた。といっても俺と綾部さんの関係同様会えばそれなりに話をするがわざわざ連絡を取ったり会いに行ったりするような仲ではなかった。それがこうして2人でお茶をしているのは、俺が綾部さんに片想いを始めたのがきっかけだ。俺と綾部さんには接点がほとんどない。友人たちは時に親身に時に面白おかしく相談に乗ってくれるが所詮は一般論の域は出ず、唯一といえる共通の知り合いである彼女に定期的に恋愛相談をしてアドバイスをもらっているのが現状だ。
 ただし元々仲が良かったわけでもない立花先輩は無償で相談に乗ってくれる程心優しくはなく、毎度報酬として調理部で作ったおやつを要求される。今日の報酬は立花先輩のリクエストで白玉ぜんざいだ。
「でも、連絡先2回聞いて2回とも断られたんですけど」
「ちなみに理由は?」
「1回目は『家にスマホ忘れた』で、2回目は『充電切れてる』でした」
「ふむ」
 立花先輩は俺の顔を見つめ、白玉をもちもちと咀嚼する。殊更時間をかけているように見えるそれが、俺には白玉を味わっているだけにしか思えない。せめて考えているとか勿体ぶっているとかであってほしいのだが俺に文句を言う権利はないので隣の椅子で神妙な顔をして待つしかない。
「たぶん事実じゃないのか?」
「そんなことあります?」
「あの子に限ってはな。あまり立ち回りが上手いタイプでもないから、もし嫌なら素直に『嫌だ』と言うだろう」
「そうですかね?」
「安心しろ、嫌いな奴に対してははっきり顔に出る奴だ。『嫌われてはいない』」
 力強く断言してくれるのは大変ありがたいが、どうにも引っ掛かる物言いである。
「でも、好かれてもないんですよね」
「そこはお前のこれからの頑張り次第だろう」
 立花先輩は他人事みたいにそっけない。実際他人事なのだが、こうしてしょっちゅうおやつを集りに来るのだから、もうちょっと優しくしてくれてもいい気がする。
「大体、なんでそこで『じゃあ立花先輩に聞いても良い?』とか言わないんだ。私と知り合いなことは向こうも知っているんだろう」
「いや、だって、それで断られたら嫌がられてるの確定じゃないですか……!」
「そんなことを言っていたら、このまま卒業して『はいさようなら』だぞ」
「それはまあ、そうなんですけど……
 立花先輩が呆れたみたいにはあ、とため息を吐く。俺だってそんなことはわかっているので勇気を出して連絡先を聞いたのだ。1回断られたのにめげずに2回目に挑んだだけでも褒めてほしいくらいだ。
「そもそも、卒業も間近な先輩を捕まえてこんなことを相談するより、本人に一言『今日調理部で白玉ぜんざい作るんだけど来ない?』とでも言う方がよっぽどいいだろう」
「それはそうなんですけど、まだそこまで仲良くなれてないといいますか……いきなりそんなこと言われてもあっちも困るでしょうし……
 ぐだぐだと言い訳ばかりして我ながらかっこ悪い。だが距離感というものがある。ちょっと話をする程度のクラスメイトにそんな誘いをされたら普通は驚くだろう。立花先輩相手にほとんど同じことをやっている身であるが、こっちは要件がはっきりしているので話が別だ。立花先輩も最初は驚いていたが、理由を説明したらすぐに納得した。綾部さんの方には説明できる理由などない。
「仕方ないな。ぜんざいはまだ残っているのか」
「あ、まだ1人分くらいは」
「なら私に任せろ」
 立花先輩は徐に調理部を出ていった。何をするつもりなのだろう。立花先輩の椀はもうすっかり空になっているが、荷物が置きっぱなしなのでそのうち戻ってくるはずだ。不思議に思いつつ自分のぜんざいに口をつけたが、話に夢中になっていた所為ですっかり冷めてしまっていた。食べる前に温め直そうと電子レンジをスタートさせる。待っているうちに、がらりと扉が開いて立花先輩が戻ってきた。
「戻ったぞー」
「お邪魔します。ぜんざい食べさせてもらえるって聞いてきました」
 立花先輩の後ろにはさっきまで話をしていた綾部さんが立っていて、ひょっこりと顔を覗かせる。
「あ、綾部さん!?」
「作りすぎて困ってるって聞いたんですけど」
 えっと思って立花先輩を見ると、にんまりと得意顔だ。ありがたすぎるアシストに心の中で念仏みたいに感謝の言葉を唱える。
「あ、そうそう、そうなんだ。もうだいぶお腹いっぱいで。すぐ温めるからちょっと待ってて」
「ありがとうございます。外寒かったのでありがたいです」
 綾部さんは真っ赤になった手を寒そうに擦り合わせながら部屋に入ってくる。おそらく今日も園芸部の活動中だったのだろう。真っ直ぐに水道に向かう綾部さんに「右の端ならお湯出るからそっち使って」なんて話をしていると、いつの間にか立花先輩は荷物をまとめ、帰り支度をすっかり整えていた。
「じゃあ、私はそろそろお暇するよ。いい加減帰って勉強しないとだからな」
「えっ推薦で大学決まってるんじゃないんですか」
「推薦組はたっぷりと課題が出るんだ。受験が終わったからといって暇なわけじゃない」
「えーせっかく久しぶりに立花先輩とゆっくりお話できると思ったのに!」
「そう言うな。卒業までにはまだ何度か顔を出す予定だから安心しろ」
 さっきまで他人事みたいだった立花先輩が急にこんなに気を利かせてくれるのは一体どういう風の吹き回しなのか。俺が頼りなくて見ていられなかったか今日のぜんざいが気に入ったかのきっとどちらかだ。
 綾部さんが「またお話しましょう!」と手を振って立花先輩が去っていく頃には、ぜんざいはふつふつと沸騰を始めていた。ほかほかと湯気の立ち昇るぜんざいを椀によそい、手を洗って準備万端の綾部さんの前に提供する。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
 綾部さんは温かいぜんざいにふうふうと息を吹きかけ、おそるおそる口に運ぶ。ほんの少量口に含むと、「あつっ」と呟いて匙を置いた。どうやら綾部さんは猫舌らしい。綾部さんの知らなかったことをひとつ知れた。
「久々知先輩って、立花先輩と仲良いですよね?」
「まあ、それなりに?」
 あんまりじろじろ見ているわけにもいかないので、俺も自分のぜんざいを食べ始める。こっちは加熱が足りなかったのか冷めてしまったのか少し温い。温め直そうかと思ったが綾部さんの手前あまりかっこ悪いところは見せたくなくて、そのまま食べ進める。
「もしかして、立花先輩のこと狙ってたりします?」
「はっ!?」
 想定外の発言に小豆が気管に流れ、ごほごほと咽せてしまった。綾部さんは俺が落ち着くのを待ってから冷静に続ける。
「美人だし優しいし好きになるのは仕方ないですけど、あの人彼氏いるんで無駄だと思いますよ」
 とんだ勘違いである。なんとしてでもこの誤解を解いておかなければそれこそ綾部さんと付き合うどころの話ではない。
「別に好きとかじゃないから!」
「ほんとですか? わざわざ立花先輩の登校日に合わせてこんなところに呼び出しておいて?」
「それは! っ…………好きな子いて相談乗ってもらってるだけで!」
「ふーん、ならいいですけど」
 綾部さんは俺が立花先輩にちょっかいを出しているわけじゃなければどうでもいいのか、話はそこで終了した。がっくりと肩を落とす。せめて「好きな子って誰ですか」とでも聞いてくれればいいのに、俺の好きな子にはまるで興味がないらしい。これでは俺が立花先輩でも綾部さんでもないどこかの誰かに片想いしていると思われただけだ。俺の好きな子は綾部さんだというのに。どうやってこの状況を巻き返そうかと思案していると、程よく冷めたぜんざいを黙々と口に運んでいた綾部さんが、「美味しいですね」と一言漏らした。途端に急降下していた気分が上昇する。今日は気分の乱高下が激しい。
「綾部さんってなにが好きなの? ここで色々作ってるから、良かったらまた食べにおいでよ」
「そうですね。部活あるので気が向いたら」
 これはチャンスだと思ったが、がっつきすぎたようだった。再びがっくりと肩を落とす。今日来てくれたのは立花先輩に誘われたからというわけだ。立花先輩が何と言って誘ったのかは知らないが、騙したかのような罪悪感に苛まれる。
 これは本当に好かれてないだけなのか? 嫌われてないと言っていいのか? 俺が悶々として話を続けられずにいると、先に食べ終わった綾部さんが「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
「調理部ってわいわいみんなで作ってる時とそうじゃない時がある気がするんですけど、何が違うんですか?」
「あ、月・木が活動日で、それ以外は自由参加なんだ。活動日以外はほとんど俺しかいないから、1人で試作したり友達呼んで食べてもらったり色々自由にしてて」
 調理部は勉強や他の習い事をメインに据えたい人が気軽に参加するタイプの文化部だ。そんな緩い雰囲気の部活に毎日精を出しているのは俺くらいのもので、必然的に俺が家庭科室の鍵を借りに行くことが多くなっている。綾部さんとの縁を繋いだのはこの調理部だといったら過言だろうか。
「なるほど。園芸部は水曜日がお休みなので、今度覗いてみますね」
「えっ来てくれるの!?」
「あれ、社交辞令でした? ご迷惑でしたら来ませんけど」
 綾部さんがきょとりと目を瞬かせる。てっきり遠回しにお断りされたのだと思っていたが、本当に気が向けば来てくれるつもりらしい。
「あ、全然そんなんじゃないよ。せっかく作るなら誰かに食べてもらえた方が嬉しいし!」
「じゃあまたそのうちお邪魔しますね。ごちそうさまでした。美味しかったです」
 綾部さんは立ち上がると、丁寧にお辞儀をして去っていった。廊下の先に見えなくなるまで見送ってから、近くの壁にごつんと額をぶつける。痛いはずなのに、全く気にならなかった。
 とりあえず水曜日は豆腐じゃなくてスイーツを作る日にしようと決めた。


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