夜明 奈央
2026-03-14 06:01:10
2254文字
Public 久々綾
 

久々→綾(女体化)爆裂片思い久々知くん! 〜ホワイトデー編〜

バレンタイン編の続き
2026年3月13日初出

 俺は久々知兵助。1個下の綾部さんに全くの脈なし片想いをしているつもりだったが、今年のバレンタインにはなんとその綾部さんからチョコを貰うことに成功した。明らかな義理だとか、偶然だとか、そんな細かいことはどうでもいい。バレンタインにチョコを貰った。その事実が重要である。
 そしてバレンタインデーに貰ったということは、ホワイトデーにお返しをするのが義務であり権利だ。俺は一等張り切って綾部さんの好みを立花先輩にリサーチしつつ、下手に気を遣わせず、かといって片手間に用意したとは思われないお返しを1ヶ月うんうん唸りながら選んだ。
 3月13日の放課後、チャイムが鳴り始めるといの一番に綾部さんの教室へと向かう。綾部さんが移動してしまえば俺はまた綾部さんを探し回らなくてはならないから急いでいた。こんな風に自分から訪ねて行くのは初めてでドキドキした。普段はどれだけ会いたくても偶然を装うしかないが、今日だけは違う。ホワイトデーのプレゼントという大義名分を胸に、教室の入り口に立つ。
 綾部さんを探して教室を見回していると、いちばん近い席の男子が「誰に用すか?」と話しかけてくれた。突然見慣れない上級生が教室にやってきて驚いているようだった。
「綾部さん、なんだけど」
「綾部さーん! お客さーん!」
 俺の返事を聞いた男の子が教室の前に向かって声を上げると、2つ前の席の子がこちらに振り返り、1つ前の席の女の子の背中をちょんちょんと突つく。背中を突かれた子が綾部さんだった。なかなか見つけられないと思ったら死角にいたようだ。綾部さんは俺が来るとは思っていなかったのか、びっくりしたように慌ててこちらに近づいてくる。
「どうしたんです?」
「ホワイトデーのお返し持ってきたんだ」
 ポケットに入れていた包みを取り出そうとすると、綾部さんは慌てて後ろを振り返った。こちらを見ていた数人がぱっと顔を逸らす。滅多にない来客に興味津々のようだった。全員とまでは言わないが、席が近い者は話が聞こえていたことだろう。
「ちょっと来てください!」
 綾部さんが教室を飛び出すので、慌てて俺もその後ろをついていく。だんだんと人通りのないところへ連れられていき、非常階段の前でくるりとこちらに向き直った。
「ああいうの、やめてもらえませんか? 噂になったらどうしてくれるんですか」
「ごめん、でも他に渡す方法思いつかなくて……
 本当は全く思いつかなかったわけではないが、綾部さんが友達に唆されて俺のことを意識してくれないかなという打算があった。どうやら全く意識されていないわけではなさそうだが、綾部さんの語気はいつになく強い。綾部さんに嫌がられては元も子もないし、迷惑そうにされるとシンプルに落ち込む。
「今度から、こういう時は教室に訪ねて来るんじゃなくてLINEとかしてください。そしたら……
 小言を続けようとした綾部さんが、途中で言葉を切って考え込む。
「先輩と連絡先交換しましたっけ?」
「してない。聞いたら断られた」
「えっそんなこと……
「1回目は『家にスマホ忘れた』って言われて2回目は『電池ない』って」
「おやまあ」
 綾部さんは意外だとでも言うように目をまん丸に見開いている。俺はかなり傷ついたのだが、綾部さんにとっては記憶に残らない程度のどうでもいい出来事だったらしい。仕方のないことではあるが、今の今まで1度たりとも連絡を取りたいと思われたことがないらしい。
「先輩、今スマホ持ってます?」
「持ってる」
 ポケットからスマホを取り出すと、そのままあっさりと俺のスマホに綾部さんのアカウントが登録される。交換したトーク画面にぺこりとお辞儀するパンダのスタンプを送ると、すぐに既読がついて謎の生命体が踊るスタンプが返ってくる。
 自分のスマホに綾部さんのアカウントが登録されている。その事実だけで、この謎生命体のように踊り出したい気分だった。知り合って約1年、初めに連絡先を聞いてから半年以上である。「断るための方便ではない」という立花先輩の主張は本当だったらしい。
「じゃあこれで」
「ちょちょちょ、待ってよ」
 綾部さんがそのまま立ち去ろうとするので慌てて引き止める。綾部さんの連絡先をGETできたのは嬉しいが、まだ本来の目的を果たしていない。
「これ、受け取ってよ」
 持ってきた包みを差し出すと、綾部さんは素直に受け取ってくれた。怒られたばかりでもしかしたら突き返されるかもしれないと危惧していたので、内心ほっとする。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
……渡したの確かカントリーマアムでしたよね?」
 綾部さんが不審そうに俺の渡した包みを眺めている。綾部さんに喜んでほしくて10倍返しくらいのつもりで用意したが、どうやら空回ってしまったらしい。
「い、いや、これは俺が渡したくて渡してるから……
「確かにみんなに同じの渡す方が1個だけ違うの準備するより楽ですからね」
「はい?」
「久々知先輩って絶対バレンタインもっとすごいのいっぱいもらってますよね。なのにわざわざ1年の教室までありがとうございます」
 盛大な勘違いをされている。それはわかったが、綾部さんがぺこりと頭を下げて去っていくのを今度は止めることができなかった。だって「これは綾部さんにだけ特別」なんて言おうものならほとんど告白したも同然だ。まだ告白には早い。早すぎる。
 俺の片思いはまだまだ続きそうだった。


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