John
2025-04-05 22:38:10
5800文字
Public CP無し
 

白猫

カプなし今魔川トリオがひたすら仲良しな話。
モブの白猫がいます。


「という訳なんだよ、服部君」
「それで、この新顔が部屋に居たのですね」

伊東の自室を訪れた服部は、紫の首輪をした白猫へ視線を向けながら言う。
猫は伊東の座る洋机 テーブルの机側に乗り、桃色の小さな舌でもって、丁寧に みずからの足指を清掃している。
首輪には紫の紐が結わえられており、紐のもう一端は机の足に結ばれていた。

「繋いだままにしているのですか?」

服部は、伊東の部屋を見渡して、白猫の移動できる範囲に猫用トイレがあり、餌入れと水入れが用意してあることを目視した。
すでに猫は伊東の生活に居場所を構築 こうちくされて馴染んでいるようだ。
幕末の京で、猫は野外に放し飼いするものだったが。
古来日本において猫は、高価で めずらしい、普段は繫いで飼う動物であった。

「義元様は、繋いで飼うのが普通だっておっしゃるから、そうしてみているのさ」

服部は、机の上で毛繕いを続ける白い獣に、無機質な白銀色の鎧を着た巨体を かがめて目線を合わせようと務め。
右手を胸元にえて、 うやうやしさが ただよ仕草 しぐさで軽く頭を下げた。

「初めまして、服部武雄と申します。以後お見知りおきを」

その声音は、穏やかだがあくまで真摯 しんしに猫へ礼を尽くしている。
仮面の奥、暗がりに緑の光輝を放つ双眸から彼の感情を読むのは至難だが。
基本的には表情豊かと言える服部の雰囲気は、真剣そのものに見えた。
猫は、ぴたりと動きを止め、服部をじっと見てから……興味を無くしたように毛繕いを再開した。

「君さ、生真面目とは思ってたけど、猫に自己紹介するの!? ふふっ、あはは! 服部君とは長い付き合いになったけど、君って新鮮に面白い時があるよね」
「これから共にある、同志の一員のようなものではないですか。やはりここはしっかりとしておかなければ、どうにも決まりが悪いものですよ」

そう言いながら、服部の声は上機嫌に笑い、目の形も笑みを作っている。

「服部君、抱っこしてみる? 猫君も、服部君ともスキンシップしてみたいよね〜」

伊東はしゃべりながら、早くも猫へ手をのばす。
猫は毛繕いを邪魔され少し迷惑そうだが、大人しく伊東の かいなへ収まった。

「いえいえ私はいいですよ」

服部は後退りながら、手のひらを伊東へ向けて身体の前で振り、遠慮をジェスチャーでも表す。

「そう言わずに、はい手を出して!」

伊東から猫を差し出され、服部は両の手のひらを開いたまま、つい、受け取るような形にしてしまった。

「わ、わっ!」

猫は伊東の手から、服部の手のひらへ渡った。
服部の大きな両手のひらで作られた椀のような空間に、白い毛並みはすっぽりと収まってしまう。

「どう?」

服部はおそるおそる、片手を動かし、手で作った空間に猫を保持してゆっくりと撫でた。

「温かいですね。手甲越しですと、指先の感覚が繊細ではないのでもどかしいですが、毛並みは つややかなのがわかります、健康そうで何より。京で撫でた頃より、小さく感じます」
「そりゃ、君が大きくなったのさ」

服部は、猫を撫でながらも次第に不安が つのってきた。
攻撃に特化した形の自分は、生き物を撫でることに向かないと気付いてしまったのだ。
すると、服部の不安を察知したかのように、猫は自ら手の上をす。

「あ、降りちゃった」

鎧からいくつも刃が生えているような形の刺々 とげとげしい服部の手から、どこにも毛皮を引っ掛けず、猫は器用に身を空中へ踊らせて前足から着地した。
つとん、と床が猫の重さに比して ひかえめな音を立てる。

「もう一回抱く?」

伊東は着地した猫を素早くもう一度抱え上げると、服部へ再び渡そうと目論む。
その顔は無邪気で嬉しそうな笑顔だ。
服部は流石に二度おなじ てつまないと断固拒否の姿勢をとった。

「だ、だめですいけません。今の私は、鎧が鋭い部位や とげだらけで、生き物にとっては危険ですので。もしだっこを嫌がって暴れられたら、その時はどこかに引っ掛けて、怪我 けがをさせてしまうでしょう。考えるだけで恐ろしい」
「大丈夫だよ、服部君」
「いいえ、いけません」

拒否する服部の目の前で、伊東は猫に頬擦 ほほずりしながら語りかける。

「君はだっこ好きだよね〜」

服部は呆れるしかない。

「賢いし暴れないし、抱っこ嫌いじゃなさそうだよ。さっきも多分、ちょっと飽きたから降りただけで」
「だめです、伊東先生」

ここはどうにか別の方向に興味を持っていかなければ、と服部は考え、ふと思い至る。

「それより名前は何というのですか。先ほど、ねこくん、と呼んでいましたが。それで良いのですか?」
「まだ決めていないんだ」
「では共に考えても?」

それを聞いた瞬間、伊東の目が喜びに満ちて輝く。

「それはいいね」
「ええ、伊東先生一人に命名を任せてしまうのは、新入りの同志にとって良くないかもしれません」
「え〜っ、どういう意味だい、服部君」

屈託なく笑い声を響かせる2人を、白い猫はきょとんとした顔で見つめていた。