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John
2023-09-09 07:26:02
21211文字
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武新
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新月記
中島敦著の『山月記』パロディ、シリアス武新。
ねむいさん【@sleeeeepin2】に捧ぐ。
文責は著者にありますので何か不備があった場合は著者の責任です。
アイディアを快くお貸しくださいました。
脇役としてマスター、マシュ。
準主役といっていいかもしれない形で沖田さんが出てきます。
いつのカルデアかはわからなくしてありますが、『昭和キ神計画 ぐだぐだ龍馬危機一髪! 消えたノッブヘッドの謎』後のカルデアで、第2部5.5章クリアからさほど経っていないカルデアを想定するのがしっくりくると思います。
マスターはマスター呼びされるのみで、性別がわからないように工夫して書いてます、好きな性別のマスターを思い浮かべて読んでください。
FGOイベント『昭和キ神計画 ぐだぐだ龍馬危機一髪! 消えたノッブヘッドの謎』の内容。
漫画『ぐだぐだエースRE』の内容。
FGO沖田総司の幕間『ここに』の内容。
などを踏まえてます、ネタバレがあります。
↓地雷持ちの人間が爆死しそうな注意点↓
(この記述自体がネタバレです、あくまで著者が予測して書き出したもので、全ての危険な点を書き出せている保証はありません)
・わずかな台詞だが素人非ネイティブ京都弁あり
・獣化要素あり
・鳥が死ぬシーンあり
・人間が喰われたことを明言するシーンあり
・武新だがセックスシーンなし
・剣術素人が書いた剣戟描写あり
・オチはメリーバッドエンド
・武市と田中が死ぬ
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いつの間にか、雨は上がってしまっていた。
「そう、エネミーはその先の部屋だ。ただ、反応が随分弱々しい。どんどん出力が落ちてる、逃げる様子もない。待ってもらったけど、そのまま正面から行ってみて欲しい」
埃
ほこり
が積もり、庭も荒れているとはいえ、元は
殿上人
てんじょうびと
が昇殿して執務を行い。
高貴なる
皇
すめらぎ
の
御座
おわ
す場所。
広大な敷地に年経た木造建築がズシリと居座っている。
諸大夫
しょだいぶ
の
間
ま
、虎の描かれた
襖
ふすま
の奥に、彼はいた。
襖絵は江戸末期に動物画を得意とした
岸岱
がんたい
の作だ。
左右に開け放たれた襖に、二匹、虎が描かれている。
片方は伏せて背後へ首を向け、片方は水を飲んでいる、その二匹の頭上に松の木が
這
は
う。
彼が描く虎はどこか猫に似ている。
しかし、重厚な雰囲気は残っているとはいえ、広い畳の間は役目に使われなくなって久しく、
寂寥
せきりょう
が満ちていた。
「先生、私のことを殺してください」
「たなかくん」
「長く在れば、ただ人を喰らう獣の性に、私の意志は呑まれて消えます」
彼は、マスターがSAITAMAで見た時のような袴姿で。
人間の姿形をしていた。
面頰
めんぽお
はしていない。
「もう、人ば食いたくなか
……
」
「田中君
……
」
武市は、手を差し出しながら、さらに新兵衛との距離を詰める。
沖田の剣が
鯉口
こいくち
を切った気配に、マスターは沖田の手に、自分の手を重ねた。
「何故止めるんですマスター」
「
……
最期に話ぐらいはさせてあげようよ。それに、トドメを刺すなら武市さんのほうが適任だと思う」
「
……
確かに、斬るまでもなく消滅しそうなほど霊基が揺らいでますが」
沖田は暗い目で、新兵衛を視る。
新兵衛の霊基は、最初に獣の姿で対峙した時と比べ、恐ろしく
痩
や
せていた。
外見は筋骨隆々の偉丈夫でも。
今、この瞬間にすら、どんどん弱っていっているのだ。
ダ・ヴィンチは通信越しに語る。
「秘匿が怪異に神秘を与えていたんだろうね。鵺は得体の知れないもの、正体のわからないもの、そのものを定義とするって話もある。その『未知』という恐ろしさにより、闇の中のものは威勢を増す。見られて名前を呼ばれ、普通にやりとりできてしまえば、もうそれは怪物じゃないんだ」
怪異は正体を暴かれ観測された事で、急速に力を失っていた。
「それにしても、人斬りが突然、人を喰って生きるのはいやだとか、ちょっと
胡散臭
うさんくさ
いですね」
わざと聞こえるような大きな声で。
沖田は幕末四大人斬りと俗に呼称され、以蔵の知り合いでもある薩摩隼人と斬り合えなかった事に、
不貞腐
ふてくさ
れたような言葉を発した。
ずっと化け物でいられないという事が、つまらない、という風でもある。
「私は確かに人斬りだ。だが、しかし、それは苦しい生活を強いられ市井で生きる民のため」
新兵衛は、それに振り絞るような強い眼光を繕って、武市の肩越しに沖田を
睨
にら
み。
声を張る。
「弱き民を守る事は武士の誉れ。増長はあっただろう、善意で正義の為と言いながら人を殺す私は傲慢だった。だが」
そこで、心の
呵責
かしゃく
と、弱る身体に耐えきれなくなったのか。
頭を抱えて
崩折
くずお
れ、
膝
ひざ
をつく。
「何の信念もなく、ただ人を喰らう獣になるなど、耐えられない。私は為すべき事のために決意して、斬るべきと考えて斬ったのだ」
ついに、最後の数歩を詰めて。
武市は新兵衛の身体を抱きしめ、言った。
「仏罰がこれなのだとしたらあまりにも残酷だ」
新兵衛は遠慮がちに武市を抱きしめ返して、彼に願った。
「先生、斬ってください。いえ、それがお嫌でしたら、刃を交えましょう。本気で来てください、私も残る力の本気で合わせます」
「
……
」
「このまま床で弱り果て、恥を晒して長く苦しみ死ぬより、おいは人のまませんせぇに斬られて」
「そうまで」
だが、そこで。
「そうまで想われるような。私は君の思うような人間では、ないんだ、田中君」
「先生
……
」
生前の武市なら、新兵衛にわかったと応えるだけだったろうが。
そこで、武市はそうしなかった。
「私は、大望を果たせず、次の世を見ることなく獄へ繋がれて腹を召した」
新兵衛は、武市の顔を見てからうっすらと認識していた、認めたくない事実をはっきり突きつけられ。
息を飲んだ。
「ですが、先生
……
」
「それだけではない」
何故こんな運命になったか判らぬ、そう武市は思っていた。
しかし、新兵衛は大切な人だったのかと尋ねられてから、次第に武市の内へ一つの答えが見えて来た。
生前、己は務めて人と交わった。
人は己を、大した人物だ、控えめで高潔で文武両道、容姿に優れ軟弱かと思えばそうでもなく強く男らしい。
そんな具合に評した。
しかし、一体幾人が自分の中身を本当に知っていただろうか。
己は常に、『武市先生』という殻を被り惹きつけて、他者に愛着を深く抱きながら彼らを死地に追いやった。
己の心すらぞんざいに扱ったのだ。
人と交流を持ち周りに慕われながら、人を見ていなかった。
人間は誰しも己のうちに獣を飼うらしい。
自分のそれは、肥大した社会性という獣ではなかったか。
武市は思う。
その獣は、集団行動や社会的欲求・関心を強く重んじるあまり、自分の本当に大切な人たちを全て食い殺した。
結局、私は周囲の人間、全てを不幸にした。
本当に善良な人間というものは、まず、己の両手に抱ける人間を幸せにするものだろう。
こんなことで、民を救うなどできるはずがなかったのだ。
皆、大切だったのに、彼らをもれなく死地に送ってしまった。
「私は決して綺麗で良い人間などではない
……
ないのだ、田中君
……
」
武市は血を吐くように述べた。
「武市
……
先生
……
」
「君を斬りたくない。田中君はもう、人を喰いたくない。君は、このままでも消滅できるそうだ」
武市は、一見薄情に見えるが。
その実、身近な人間への情が深い。
「田中君、君は後ほんの少し現世にある間、二度と人を喰わずにいることは出来るか。私が側にいて君の名を呼んでいよう」
「先生がおっしゃるなら、おっしゃるように」
新兵衛は、腹から頼もしい声を出した。
「餓死は人間の死にかたでも、苦しさに
於
お
いて最たるものだ、と、医者の親友に聞いた事がある。それでも覚悟してくれるか?」
「耐えようもなく狂ったなら、必ず殺していただけるなら」
武市は一度目をつぶって、考えと覚悟を固めたようだった。
それから、マスターたちの方を見て、言う。
「カルデアの諸士、今は我がマスターである貴方も、聞いて欲しい。貴殿らになんの得もない
我儘
わがまま
だとはわかっている。しかし願いがあるのだが」
武市は、新兵衛と抱き合っていた腕をほどき、マスターたちに向き直って正座した。
「どうか、このまま、時を経て消滅する義弟の最期を任せてもらい、看取らせていただきたい。この、通りだ」
そうして、言葉を切ってから、深々と土下座をした。
「先生!?」
「畳で死ぬのは恥でしょう?」
沖田が、珍しく意地悪そうにわざと言う。
「それでもだ、少しでも長く、自然に消滅するまでは共に在りたい。生存の限界まで、苦しくとも、田中君に在って欲しい」
「
……
」
沖田は、軽口を返さなかった。
「どうしても耐えられなければ私の肉を喰むといい。多少削いでも、サーヴァントだ。形と意志だけは君の最期まで保っていよう」
「そのような、先生! 先生こそ私の肉を
如何様
いかよう
にも召し上がってください」
土下座の姿勢をといて、武市はもう一度、新兵衛のほうを向いて。
彼の手を取り、己の膝で自分の手と重ねながら話した。
「『
捨身飼虎
しゃしんしこ
』という話がある。
釈迦
しゃか
が前世で積んだ徳の一つに、己が身を飢えた虎の母子に布施し、彼らを救わんとした事があるという。私のこれは
我欲
がよく
の願いだ、マスターよ。我欲ではあるが私の業の
濯
すす
ぎかただと思って、どうか、頼む。この度の私は、田中君の為に召喚されたという。なら今生の私くらいは彼の為に彼の側で、消滅を看取りたいと思う」
「マスター、どうします? 私はマスターが決めた事に従います」
沖田は、あくまで冷めた風で、マスターに伺いを立てる。
そこでカルデアから通信が入り。
マシュと沖田が念のため武市と新兵衛を見張る横で、どう対応するか司令部と最終協議が為された。
武市が義弟と共に何か事を成す時を稼ごうと謀っているのではないか、という声もあったが。
マスターの鶴声とマシュの願いによって、武市と新兵衛の望む通りにし、様子を見る事になった。
トリスメギストスは、事ここに至ればどのような選択肢も微小特異点の消滅に問題はないと告げていた。
この場所は、もはや継続に足る証明力がない、という事実。
決定を聞かされ特に異存のない沖田は、そこでやっと構えを崩し、マスター達と帰還すべく歩み去る。
武市は一言、心の底から発された感謝を述べた。
対して、冷たい刃としての己を解いた沖田は。
彼女にしては珍しい、他者への同調を秘めた悲しみの顔でぽそりと言葉を紡いだ。
その表情は、彼女が武市に腹でも痛いのかと問うた、その武市の顔に似ていた。
「二人、最期まで一緒にいたいんですね。看取り、看取られたい、ですか。獣相手には必ず
止
とど
めるのが鉄則ですが
……
私はマスターの命に従います」
マスターたちが通信で話す間、武市と新兵衛を見張っていた沖田の刀が鞘に収められる。
側まで来た沖田に、マスターは声をかける。
「沖田さん
……
」
「べ、べつにそういう二人だけの世界が羨ましい訳じゃないですからね、マスター! 私、愛とか恋とかよくわかんないですしー!」
慌てて冗談めかし、沖田は羨ましくないなどと言っていたが。
マスターは知っている。
生前、病のために何も知らされず、優しい嘘に包まれて死ぬよう周囲から取りはかられ。
その実、勘のいい彼女は、自分の居場所が惨たらしく滅ぶことを勘付いて死んでいた。
戦いの最中で、一人、遠ざけられて最後まで戦えず置いて
往
ゆ
かれた事が、彼女の傷だった。
冗談めかした後、少し真面目な顔になって、沖田は続けた。
「私は
……
私の為にしか刀を振るえませんでした。それを悪いこととは思いません。大きな正義の為、と、善意や他人の為と言いながら刃を振るう自分たちは傲慢だったと彼ら自身も言っています。生きる為、喰うための殺し上等です。信念があるとすれば、それは『私の誠』というもので。民や国の為ではありません。私の剣は
無明
むみょう
の剣です。他のかたはそれぞれでしょうが、少なくとも私は幕府の為ってのはよくわからないままでした」
人間個人の力は
儚
はかな
い。
「ずっと不思議だったんですよ、どんどん焼けだって新撰組がやったって言われるぐらい私たちって京の人たちからは嫌われてて
……
集団で一人を襲って殺すなんて、定石だからどこもやってるんですよ? でも、やっとなんとなくわかった気がします。国や民族という括りなら大きくは『身内』ですけれど、彼らは確かに顔も知らない誰かの為を想って戦う人なのでしょう。それは伝わって、生活が苦しい京の人たちの心を打ったのだと思います」
いや、いかに強大な力を持っていても、この世を個体の意思が思うままになどできない。
多数の意図を内包する現実はままならないものだ。
だが、だからこそ自分の意思をしっかり言葉にして表し、伝えることは、しておくべきだろう。
マスターはそう思った。
例え果たされないとしても、今の自分がちゃんとそう望んでいると、沖田に伝えておくべきだ、と。
「生きる為に戦う事は悪くないって言ってくれてありがとう。沖田さん、カルデアでみんなと最後まで一緒に戦おうね。約束だし、頼りにしてるから。一緒に世界を取り戻そうよ」
桜色のセイバーは、その一言に驚いた顔をした後。
花のような笑顔で、嬉しそうに己がマスターへ答えた。
「
……
! はい!」
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