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おから
2026-01-17 19:48:10
3978文字
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卵にまつわるAtoZ
たまご料理と🐇🐢の短編3作詰め
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3
2.卵サンド
初めて入る純喫茶というものに、兎耳山は少しドキドキしていた。
きっかけは銭湯でのやり取りだった。
喫茶店を営むじいちゃんの一人が、十亀にヘルプを持ち掛けたのだ。
何でも、店員さんが一人インフルにかかってしまったらしく、ワンオペで対応するのも難しいので三日間だけバイトで入ってくれないかと。
二つ返事で承諾した十亀は、その翌日から純喫茶『粋』のアルバイトとして働くことになった。
のだが。
十亀のアルバイト最終日。
兎耳山はスカジャンを脱いで財布とスマホを持って
――
失くさなかった
――
純喫茶の前に立っていた。
喫茶店は入ったことがある。チェーン店だが。でも純が付く喫茶店には入ったことが無い。
ナポリタンサービスしてもらうから、遊びに来たらぁ?という十亀の誘いに誘われた形になるが、やっぱり佐狐や犬上を誘えばよかった。みんな遠慮している事に流石の兎耳山も気づいた。
この扉の向こうはある意味未知である意味既知。
兎耳山は扉を開けるとカラン、カランとベルが鳴った。
「いらっしゃいませぇ」
「
………
」
内装はシンプルだった。
白い床に白い壁。観葉植物があちこちに置かれ、茶色いソファ席が四つにカウンター席。こっちも茶色のスツール。
もっとゴテゴテしていかにもな喫茶店を想像していた兎耳山はちょっと脱力した。
「ちょーじぃ、いらっしゃぁい」
「亀ちゃん、あ、じいちゃんも」
カウンターの向こうで手をひらひらさせるあの銭湯の翁と十亀。店内にいるのは二人だけだった。
「今日は常連さんまだ来てないんだぁ」
「そっか」
「そこのソファ席座ってよぉ、水とメニューもってくるねぇ」
十亀は白いワイシャツに黒いエプロンというこれまたシンプルないで立ちでカウンターからメニューを持ってくる。
メニューは古めかしい写真と手書き文字で書かれたもので、兎耳山が初めて見るタイプだった。
『おすすめ』と書かれたナポリタン、なんとなく気になったサンドイッチ。
十亀はナポリタンをサービスしてくれると言っていたけれど、できればどちらも食べたい。あと飲み物
……
は、水でいいか。珈琲はまだ飲めないし。
「亀ちゃーん」
「はーい」
「ナポリタンと
……
サンドイッチ」
「サンドイッチはどれにするぅ?」
「?」
てっきり写真に載っているサンドイッチが来るものだと思ったが、よく見ると『ハムサンド』『フルーツサンド』『たまごサンド』と種類がはっきり書かれている。
兎耳山は少し悩んだ後、たまごサンド!と告げた。
伝票にさらさらと注文を書いていった十亀はそれを持ってカウンターまで行くと、二言三言じいちゃんと喋った後、兎耳山の座るソファ席へやってきた。
「お客さんまだこないしぃ、しゃべっておいでって」
「そっか」
「ちょーじ、緊張してるけど、なにかあった?」
「うん、ちょっとだけ。背伸びした気分になってる」
「そうだよねぇ、純喫茶何て馴染みが無いもんねぇ」
「亀ちゃんはそうじゃないの?」
「オレはじいちゃんに連れてって貰ってたから」
ああ、だから自然に溶け込めているんだ。
十亀の違和感のなさに兎耳山はどこか納得した。
「亀ちゃん、前に卵サンド作ってくれたけど、コンビニのと違ったよね」
「うん、実はここのじいちゃんに教わった卵サンドなんだぁ」
「へぇー」
十亀の作る卵サンドはコンビニで売っている卵サンドと少し違う。
コンビニの卵サンドは潰した卵にマヨネーズがかかっているけれど、十亀の作る卵サンドは厚焼き玉子が挟んである。
何で違うんだろうと常々思っていたが、ここのレシピだったならちょっとだけ分かる。
「あ、ナポリタンと卵サンド出来たみたぃ」
カウンターへ向かう十亀の背を見送りながら、兎耳山は水を少々。
なんだか水も違う味のように感じる。
「おまたせぇ、ナポリタンとたまごサンドだよぉ」
「わぁ!山盛り!」
銀の楕円形のプレートに乗ったナポリタン、白い皿に紙ナプキンにのった卵サンド。
テーブルに乗せられたそれをキラキラした目で見ながら、卵サンドが家でよく見る卵サンドだと気づくまで数秒。
確かに、同じだ。
「もしかしてちょーじ、こういう卵サンド、苦手だった?」
「家と同じだなぁって思って」
「?」
何となく、兎耳山家の味になったルーツを知れて、兎耳山は笑顔になってしまった。
これが、十亀のお袋の味?いや、違うか。
「亀ちゃんの知らない所、いっぱいある」
「そうかなぁ」
「今度、丸裸にするから覚えといて!」
「えぇ
……
」
ほんのり嬉しそうな十亀に、兎耳山はキスを堪えてあーんをせがむのだった。
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