保科
2026-01-13 21:34:11
1112文字
Public スタレ
 

体温の在処

長なのちゃん 短い 枢コトロさん(KuroM_X716)のイラストを参考に書かせていただきました

「ねえ、アンタって体温あるの?」
オンパロスでのとある一幕。なのかに絆され少しだけ反省モードなアタシに対し、彼女から向けられたのはそんな問い掛けだった。アタシに対する質問……というよりも、生態に対する質問だ。退屈しのぎなのだろう、アタシの服の裾をつまんだりしながらの散漫な問い掛けに、けれど妥協はない――そうだね、と呟いて回答を思案する。なのかには何があろうと、できうる限り誠実に向き合うことにしている。
……どうだろうね。特に測ったこともなかったけど。アタシは記憶域ミームのようなものだから、恒温動物のように考えるのはナンセンスなんじゃないかな」
「ふーん?」
分かったのか分からなかったのか、曖昧な相槌を残して、なのかはパチリと瞬いた。
とはいえ、こちらとしても他の回答は持ち得ない。永らく彼女の中で意識体として息づいていた存在だ、体温以前の問題として肉体を持たないままだった。今、この場において姿形が彼女とそっくりであることは、果たして彼女と同じ生体を持つこととはイコールではない――と思考を巡らせていた矢先。
――えい」
不意に、ぎゅ、とアタシの手がなのかに握られた。グローブ越しの柔らかな感触に、アタシが目を見開くのをまるで気にせず、なのかは不満げに「んー?」と腕を振って唸る。かわいい。でも突然なんだろう。
「どうしたの?」
何か、問題があったろうか。アタシに解決できることだろうか。優しく問いかけるアタシの顔をじっと見て、
……あ、そっか!」
勝手に得心したらしいなのかが、するりと解いた手をこちらに伸ばしてくる。そうして、抵抗せず動向をうかがうアタシの口元に、その指先を押し当てる。「―――」弓の使用で硬くなった指の平が、唇をやわく押し込んで、名残惜しむように離れていく。ふる、と震えた喉の奥から、上ずった声が出る。
――なのか……?」
「なんだ。ちゃんと暖かいじゃん」
にひ、とイタズラが成功した子供のように、なのかが笑った。「オムニックみたいに冷たかったらびっくりしちゃう所だった。やっぱり、手袋越しだと体温って分かんないよねー」
………そっ、か」
された行為に対する理解が追いつかす、混乱の中、歯切れの悪い相槌を返すアタシを置いて、なのかは一人、何やらブツブツ呟いている。
「あ!……なら、ウチがアンタにハグしたって、ひんやりしないってことじゃん?
ねえ長夜月、ハグしてもいい?」
「いいけど。……?今、なんて……え、ハグ?」
思考より先に口からこぼれ出た、なのかのための肯定に。
アタシがほんの少しばかり後悔するまで、そう時間はかからない――いくらなんでも遠慮なさすぎだよ、なのか。