みそ
2026-01-10 18:03:03
4687文字
Public 本編ロナドラ
 

日々ノカケラ 202601(ロナドラ)

2026.01.11 SCC関西31の無料配布でした。
『したごしらえは丁寧に』
…付き合って結構経ってるロナドラ。全年齢ですが、行為について触れています。双方がすけべに前向き。
『ある年の大晦日、退治人たちの仕事』
…付き合ってるロナドラ、ロくんの大晦日

したごしらえは丁寧に

 
 タタタタタ、カチ、カチカチ。
 ベッドのすぐ横で発せられる小さな音を、横たわったまま聞いている。ノートパソコンの薄いキーボードを迷い無く叩く音、合間に挟まるマウスのクリック音。
 そこにはドラ公がクソゲーコラムの執筆に勤しんでいる背中がある。とっくに前に寝る体勢に入っている俺に気を遣ってかリビングには常夜灯だけが灯っていて――多少なりとも灯りがないと明暗差で液晶モニタが眩しすぎるらしく、妥協点だ――、オレンジ色の灯りと液晶モニタのバックライトが、あいつの輪郭を浮かび上がらせている。
 キーボードの上で踊る指、そこから離れてマウスを包んだ右手。くの字に曲がった肘、薄い肩、首のライン、少し伸びた後ろ髪。遠慮なしにじっくり眺めていると、触れたくなる。
 一度手を出したら最後、ちょっとやそっとじゃ満足できないだろう。最初は敢えてテーブルとソファベッドの間に薄い体を押し倒して。襟ぐりの広く開いた、鎖骨が見えるネグリジェ一枚きりに覆われた体を抱き込んで、襟足を鼻でかき分けてうなじに舌を這わせて。
……君、寝るんだろ」
 悶々とやましい考えを巡らせる俺に気づいたのか、不意にドラ公が振り返る。
「視線が喧しい」
 その顔つきにも言葉尻にも険しさはまるでなかったけれど、そう言って視線を遮るように俺の目に手のひらを翳してくるから、まだ寝ないと言う代わりに繰り返しの瞬きで応えてやった。
「うわっ睫毛くすぐったいな…………邪魔なら場所移るけど」
「邪魔?」
「眩しいんだろ?」
 眩しさなんてどうでも良い。俺は強いから全灯の下でだってその気になれば眠れるし、そもそも、ここで仕事すりゃいいじゃんと引き留めたのは俺だ。
 むっつりと口を引き結んだままの俺にドラ公は何を思ったのか、ひんやりとした手を俺の目元から浮かせて、人差し指と中指を頬骨の上にすっと立てる。それを人間の足みたいに交互に動かして、頬を下ってたどり着いた唇の際をムニムニつつきだす。
「眩しくないって? ならさっさと寝ろ、検査のなんらかに引っかかるぞ」
 人の顔で遊ぶ右手はそのままに、ドラ公は後ろ手にパソコンを閉じる。光源が減り、落ちる影が濃くなった。
……え、なに、お前も寝んの」
「ん? まだ。君が寝るの見てる」
「見せもんじゃねー」
「ンフ、どれだけ見たって減るものじゃないだろ、恋人の寝顔なんて」
 とうとう唇をいじりだしたイタズラ好きの指を口で捕まえようとしたが、砂になるまでもなく空中に逃げていく。ちくしょう。
 高いところにあったドラルクの顔が、俺の近くに来る。ベッドにぺたっと懐いて、にんまりとしているのが暗い中でもよくわかった。
「やーい、ふにゃふにゃルドくん」
「ゔ……
 今のは、結構キた。こいつの、余所行きでもジョン向けでもない、俺だけが真夜中に聞ける、気の抜けて飾らない声。あからさまに誘われている。乗ったらそのまま朝まで絡み合っていられそうな、それを許してもらえそうな甘さだ。
 ただ悔しいかな、ドラ公の言ったように明日はVRCでの検査がある。先に受けた予防接種の効きを確認するための血液検査と、武器を持つのに不適当な催眠の影響がないかを確かめる心理検査、それからついでの視力検査。年一回の、新横浜の退治人向け定期健診に過ぎないものだから、それ自体には問題ない。いつだかの人間ドックみたいな不安もなければ、男ならではの理由で前日は性行為を避けたほうが無難とかいう検査項目もない。その上で、俺たちに限っては触れ合いにくい理由があるのだった。
 そう、牙だ。盛り上がりすぎて唇を引っ掛けたとか、真新しい噛み傷――吸血を伴わない甘噛みでも、VRCでは不思議と発覚する――みたいなのはまずい。仕事中に負ったケガでなくパートナーによるものです、と申告せざるを得なくなる。
 そうでなくても、採血のために袖をまくって初めて腕に走る真っ赤なみみず腫れに気が付いた、という赤っ恥を一昨年やっている。両腕ともだった。ドラ公は物を掴む力だけは妙に強いのだ。加えて、黙っていれば看護師さんもスルーしてくれただろうに外で猫を保護したなんて言い訳をしてしまったために、うっすらと微笑まれてしまったというオマケ付き。
 あの時の看護師さんだとか、顔見知りが担当になる可能性も有り得るのだから、今夜ばかりはどれだけムラっと来ようが煽られようが、乗せられるわけにはいかないのだった。
……頭が茹って眠れないって顔してるな」
 そういうお前もヤらしい顔じゃん、と思う。目に期待の色がべったり乗っている。俺を煽って、自分にも火を付けている。
 ドラ公は当然、出来ないことを知っている。それどころかみみず腫れの件では一緒に恥をかいている。検査があることを敢えて確認したのまでひっくるめて、こいつの困った誘惑なのだ。これがたちの悪い悪戯だとわかっているから俺も、全力で耐えてやることにしている。
「ほら、目を閉じろ。いくら君でも脱稿直後でもなきゃ目を開けたままは眠れんだろ」
「別に脱稿直後だってちゃんと目閉じて寝てるわ……閉じてるよな?」
「さあ? メビヤツなら知ってるかもな」
 今すぐにでもベッドに乗り上げてきそうなとろけた目をして、掛けてくるのが聞き分けのない子供に言い聞かせる言葉ばかりなのだからたまらない。

 俺もドラ公もずいぶん前に、こうやって焦らして焦らされて期待込みだとちょっとまずいくらい盛り上がってしまうことを知ってしまった。そういうシュミはないってドラ公は未だに言い張るが、俺を煽ったせいで何度も足腰立たなくなって、それでもこうして繰り返すのだから説得力はゼロだ。

……夜、ぜってー抱くから、ここで」
 ジョンとキンデメ、死のゲームには誠心誠意頭を下げて一晩ここを空けてもらうとして。事務所団欒の象徴ともいえるこの部屋で、絶対泣かすと心に誓う。今日できなかった分の時間をかけて、ひんやりとした口の中を舌で荒らしたい。耳にも手首にも噛り付きたいし、おっぱいは吸わせてほしい。気持ちいいところ全部で、くたくたに溶かしてやりたい。
…………フーン?」
 俺の挑発は、ドラ公にしっかり刺さったらしい。吊り上がった口の端を今更お上品ぶって手で隠したけれど、発情しきった目は変わらずじまいだった。

 ドラ公はそのまま、おやすみの言葉の代わりに額にキスを寄こした。常夜灯も落とされて、俺だけが真っ暗闇にポンと放り出される。
 こうなると俺には何も見えないが、ドラ公には全部が見えている。さっきと逆だ。頭のてっぺんから足の先まで見られていると感じる。これは確かに、視線が喧しい
 せめてもの抵抗にと頭から毛布をひっかぶると、耐えきれないとばかりに噴き出す声がする。本当に、マジで、覚えてろよ。