2026-01-03 18:05:10
3628文字
Public 紫白:短編
 

とても短いものまとめ2

帯に短し襷に長しでお話にも4コマにもならなかったものたちです。






幼な子と猫。と、木天蓼。(紫白+元)





 紫鸞が諸用を済ませて屋敷に戻ると、屋内に白鸞の気配がした。途端に軽くなった足でするりとそれを辿ると、元化の部屋に到着する。戸口から静かに中を覗くと、元化が白鸞の首元を触っていた。
「大丈夫そうですね」
おそらく、首の骨の並びかなにかを診ていたのだろうな、と紫鸞は思った。元化は時折、紫鸞の首もああして確認する。紫鸞には医学はよくわからないが、首が急所であることはわかる。だからきっと、大事にしなければならいのだろうということも。白鸞は襟元を直しながら礼を言い、それからまっすぐに戸口の紫鸞に目を向けた。二瞬三瞬、視線を交わしたのを挨拶として、紫鸞は元化の部屋に入る。元化と何やら話をしている白鸞に音もなく近づいていくと、なんとなくその肩に手を伸ばした。ぬるり、と、白鸞はその手を避けた。避けて、訝しげに紫鸞を見やる。紫鸞はそれから何度か白鸞に手を伸ばし、白鸞はそれを全て避けて、不審げな顔をしたまま、後ろ向きにゆっくりと部屋を出て行った。紫鸞は紫鸞で状況がよく飲み込めず、宙に浮いた自分の手をちらりと見る。
何をしてるんですか?」
その様子を眺めていた元化が、呆然としている紫鸞に声をかけると、紫鸞は眉尻を下げる。
———何故だ
「何がですか?」
———元化は白鸞に触っていたのに、自分は触れない
不思議そうに自らの手のひらを見つめる紫鸞に、けれど、嫌われたとは思わないんだろうな、と元化は少し笑ってしまう。
「急に触ろうとするからですよ」
元化の言葉に、紫鸞は首を傾げる。
「紫鸞殿を診る時も、俺は『触りますよ』って言うでしょう?ちゃんと声をかけて、準備ができるのを待たないと」
言われ、そういうものなのだろうか、と紫鸞は腕を組む。思い起こせば、紫鸞から近づくと白鸞は毛を逆立てる事が多いが、向こうから来る場合はしばらく隣に座っていたりする。白鸞から紫鸞に手を伸ばすことは滅多にないが、言われてみれば、ひどくゆっくりと手を動かしながら、紫鸞の様子をうかがっていた気がする。言葉という形ではないが、白鸞もきちんと声をかけていたのだ。なるほど、と合点がいって、紫鸞は今度は白鸞が出て行った戸口を見つめた。
———どうして後ろ向きに出て行ったんだ?
警戒してたんじゃないですか?あんまり紫鸞殿が手を出すから」
白鸞殿も大概猫ちゃんですからね、という言葉をすんでのところで飲み込んで元化がそう言うと、紫鸞はひどく驚いた顔を見せた。ああ、これは、と元化は思う。自分の察しの良さが、少し面白かった。紫鸞はおそらく、白鸞に嫌がられることはあっても嫌われるとは思っていないし、白鸞が紫鸞を警戒するとも思っていないのだ。紫鸞が白鸞を嫌うことがなく、紫鸞が白鸞に私怨を持ったことがないからなのかもしれない。紫鸞のその、ともすると幼いとも言える人との接し方は、なかなか興味深いと元化は思う。乱世を無防備に渡り歩き、友と敵とを行き来しながらも、状況が許す限り行く先々で良好な交友関係を築くなど、並大抵の者にはできはしない。
———元化は、白鸞に詳しいな
今度はそんなことを言いながら、少し寂しそうにする。本当の幼な子であればここで悋気を起こして不機嫌になるだろうに、そうはならない。この、意図したわけでもない絶妙な匙加減が、きっと紫鸞を救ってきたのだろうと思う。なんにせよ、長く生きのびるのは素敵なことだ。
「俺は、猫に詳しいだけですよ」
笑う元化に、紫鸞は再び首を傾げた。元化はかまわず、薬草の入った小袋を紫鸞に差し出す。
「白鸞殿に渡してください。準備してる間に出て行ってしまわれたので」
紫鸞はよしきたと頷くと、差し出された小袋をすんなり受け取って、するりと部屋を出て行った。中身が何なのか尋ねもしない。包んだのは人が使えば疲労回復や精神安定などの効果をもたらす生薬だが、もし危ないものが入っていたらどうするのだろうと思う。思うが、まぁ、きっと何とかするのだろう。そのおおらかさを頼もしさと呼ぶことにして、元化は、どこか清々しい気持ちで一つ伸びをした。



〜おわり〜