pinopipi
2026-01-03 08:16:31
18706文字
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君とまたダンスを

ヌヴィフリ/大遅刻のヌ誕2025/予言から3年後の時空/ヌ視点。ヌの愛が激重&少し病みかけているように感じられるので注意。両片想いのハピエンです。


余計な事を考えないようひたすら公務に勤しむ日々を過ごしていれば、時の流れとは実に早いもので、フリーナの誕生日からもう2か月が過ぎていた。
今年のフリーナの誕生日も、彼女に会いに行くことは控えた。本当は直接会って盛大に祝いたかったが、今は互いの誕生日を祝い合えるような関係ではなくなってしまったため、当日は執務室にひとり閉じ籠り、ひたすら書類業務をしていた。
だが、実は毎年彼女への贈り物をすることだけは継続している。未だに毎年パレ・メルモニアへ届く彼女宛の大量の贈り物の山の中に、匿名のメッセージカードを添えた花束や菓子を紛れ込ませているのだ。彼女が実際にそれらを受け取ってくれたかどうかは確認していないが、一瞬でも私の贈り物が彼女の目に触れたのならばそれで良い。完全に自己満足ではあるが、彼女に迷惑を掛けるつもりは全くないので、これくらいはどうか許してもらいたい。

無論、予言が解決してからは彼女が私の誕生日に会いに来てくれたことは一度もない。当然、今年も会えないだろう。出来ることなら一目だけでも彼女の顔が見たいと思うが、その度に気不味そうに目を伏せる彼女の姿が過ぎり、自ら会いに行くことも出来ないでいる。かつて彼女が神であった頃は、毎年決まって日付が変わる瞬間に私の部屋の扉を叩き、誰よりも早く誕生日を祝ってくれた。彼女からの贈り物はどれも私の嗜好に合ったセンスの良い品ばかりで、毎年何を贈ってくれるのかを実は密かに楽しみにしていた。またあの頃のように戻れたらと、思えば思う程に虚しくなるので、今は極力考えないようにしている。非常に寂しいことだが、致し方ない。そもそも、私の誕生日として設定されている12月18日は、実際に私がこの世に誕生した日という訳ではないのだ。だから祝われなくとも良い。特別な贈り物も必要ない。彼女が今日もこの国で笑顔で過ごしてくれているのなら、それが私にとって最高の贈り物であるのだから。と、そう己に言い聞かせている。

ーーーところが。
12月17日の夕刻、終業時刻を過ぎてまだ間もない頃。明日は丸一日休暇を取得し、メリュシー村を訪問する予定であるため、その前に片付けておきたい書類の処理をしている最中のことであった。
ーーーコツ、コツン。
執務室の窓を、何者かが外から軽く叩く音がした。私はすぐに窓を開けて外を確認したが、そこに人影は見当たらなかった。
しかし、視線を落とすと窓際には淡い青の封筒と、ロイヤルブルーのリボンがかけられた湖光の鈴蘭が一輪、置かれていた。
何者かの悪戯だろうか?だが、それらに付着している水元素からは悪意を一切感じられない。私は封筒と湖光の鈴蘭を拾い上げ、封筒の中身を確認してみることにした。
開封した瞬間、どこか懐かしいーーー優しい香りがした。中には金の箔押しで装飾された白いメッセージカードが1枚入っている。そこには、まるで夜空の星屑のように煌めく銀色のラメが混じる深い青の洒落たインクで綴られた美しい文字。それは、よく見覚えのある筆跡だった。
ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
緊張と期待で指先は小さく震え、掌には汗が滲んだ。
私は逸る気持ちを抑えながら、その内容を丁寧に、丁寧に読み進めた。

『親愛なるヌヴィレット
明日、12月18日の21時にエピクレシス歌劇場へ来てもらえるかい?
キミのために、最高のサプライズを用意して待っているよ!
フリーナ・ドゥ・フォンテーヌ』

それは正真正銘、フリーナからの招待状であった。
冒頭の"親愛なる"という表現を読んだだけで、私は今日まで生きて来て本当に良かったと目頭が熱くなった。これは夢か現か。だが、どうか現実であって欲しいと願う。故に私は一度メッセージカードから視線を外しーーーバシャン!と己の顔に勢い良く冷水をかけてみた。………ふむ。やはりどうやらこれは、間違いなく現実の出来事であるようだ。顔や髪へ滴った水気を速やかに取り払い、再びメッセージカードへと視線を戻す。それから私は美しい文字で綴られた短い文面を、何度も何度も何度も繰り返し読み返し……そうして凡そ30回程読み終わったところで、今年の初夏のある日の出来事を思い出した。そういえば、半年前の収支報告時に彼女から歌劇場の使用許可の申請を受理した。私は当時、予約の空き状況を確認し夕刻以降であれば可能だと彼女へと告げると、ならば0時までの時間を押さえたいと彼女から申し出があり、それを許可した。元々歌劇場は夜公演も可能であり、諸々の撤収も含めて0時までなら使用ができる。事前に申請があれば夜勤の職員を配置できるため、明日もそのように対応する手筈となっている。
使用目的はてっきり舞台の練習か、もしくは公演かと思っていたが、まさか私のためだったとは驚いた。
胸の奥からじわじわと喜びが込み上げて来る。
ーーー明日、フリーナに会える。そして、私のために何かを準備してくれている。その事実がどうしようもない程に嬉しく、心が躍るとはまさにこういう心情なのだろうと思った。
明日は私の誕生日である。きっと彼女は祝ってくれるつもりなのだろうと、そう期待をせずにはいられない。誕生日に彼女と会えるのは実に3年振りだ。
私はメッセージカードが折れないように大事に懐へと仕舞い、明日を楽しみに想いを馳せながら、デスク上に積まれた書類の山へと視線を戻した。
その後の執務が非常によく捗ったのは、言うまでもないだろう。