保科
2026-01-02 10:04:28
2042文字
Public スタレ
 

よいお年を

現パロ アグサフェ いや明けとりますがな

「あんたって、年末年始は仕事なの?」
「ええ、そうですね。年明けからショーなどが立て続けにありますし、その打ち合わせが連日ありますので……恐らく、あまり帰れないかと」
「ふーん。そっか、分かった」
「何か、ありましたでしょうか」
「別に」
年の瀬も近づいたある日。その淡々とした相槌に、アグライアはPCを叩いていた手を止め、顔を上げる。視線の先、リビングのソファーでスマホを触っているサフェルは、アグライアの視線に気づいた様子はない。
先程からと変わらず寛いで過ごす彼女におかしなところはなく、アグライアが気にかける点は何もない様に思う。……けれど。
無言でスケジュールアプリを立ち上げると、アグライアは綿密に組まれたタスクの羅列を確認し始める。それらをどのように調整すればいいか大まかな当たりをつけ、息を吸う――ここまで30秒。
……セファリア。31日と1日に、アルバイト等の予定は既に入れていますか?」
不意に投げられたアグライアの問いに、ちら、と目を向けたサフェルは、意図を測りかねた様子で口を開く。
「何さ急に。
あー……今のところは、特に……だけど。
まあ、ウン、追々入れておこうかな〜って……
ごにょ、と、視線を逸らしつつ、歯切れ悪く呟かれた声に被せるように。
「では、そちらはそのまま空けておくように」
―――……
そんな、突然の指示に対して無言で疑問を表明するサフェルへ、アグライアは小さく微笑む。
「先に述べた通りの理由で、長く休みを取ることは叶いませんが――貴女と共に年越しをしたいと思いますので。
申し訳ありませんが、そのようにしていただければ」
「え?」
――呆気にとられたサフェルが、スマホを傍らに伏せて、不思議そうに呟く。
「いや……仕事、あるんじゃないの?今言ってたじゃん」
「あるのは、……ええ、事実ですが。
現状貴女に一人寂しい思いをさせてしまうことよりも、優先する物事はありませんので。どうとでも対処します。気にせずに」
昨年まで一人で過ごしていた弊害で、こうした季節のイベントごとは看過してしまうことが多かったけれど、よもや、初めての年越し――団欒で過ごすべき貴重な時間までも見過ごそうとしていたとは。
アグライアが猛省しつつ口にした言葉に、サフェルは戸惑った様子で息を呑む。
――、ちょ、あんたさぁ……
つっけんどんな声は途端勢いを失って、反論は続かなかった。わやわやと揺らした口を閉じたサフェルは、赤らんだ頬を隠すようにソファーの上で膝を寄せ、顔を埋めた。
…………、人の頭の中、いい加減読むのやめてよ。なんで金糸もないのにできるかねぇ」
「ふふ、不快にさせたのならばすみません。ですが、私がこんな芸当をできるのは、今や貴女に位なものですよ、セファリア」
「いや嬉しくないし。全然名誉じゃないけどソレ」
先程のこと。サフェルが入れた相槌はいつも通りのもので、疑問を挟む余地もなかった。けれど、そこにほんの少しの落胆を感じた直感を、アグライアは気の所為としたくなくて、言及したわけだけれど――こんな風に彼女の機微を感じ取れることが、名誉でなくてなんなのか。
彼女ときたら、前世から変わらず、アグライアの前では素直になってくれない所が困り物で、まあ、そんな所が可愛いのだけれど、と、思わず上機嫌に笑みを深める。
「わざわざ、年の瀬の多忙な時期に、友人との用事も仕事も入れず、スケジュールを空けてくれていたのは、私の為でしょう?
期待してくれていたにも関わらず、つれなくしてしまい、申し訳ありません」
ゔ、と唸ったサフェルが、じっと測るように正面のアグライアを見つめる。
……別に、違うって言ったら?」
「ふふ、それは……、少しばかり寂しいですね」
残念そうな様子もなく、欠片も疑わないアグライアの態度に、サフェルはため息交じりに、はいはい、と呟くに留めた。素直に肯定も、けれど否定もせずに。
……本当にいいの」
「ええ、問題ありません」
「無理とかしてない?」
「貴女を置いて行く方が苦しいです」
「まあ、なら、いいけどさ……
憮然とした態度のサフェルへ、今度はアグライアから問いかける。
「そう言う貴女は、年末年始、何かしたいことなどあるのでしょうか?
例えば……もし、カウントダウンパーティーなどに参加したいのであれば、私の方で手配をしますが」
「あー、いらないいらない。
そんな格式張ったりとかじゃなくて、家で、あんたと――ライアと二人でいいよ。
……うん、二人がいい」
再度手に取ったスマホから目を離さず、ポツリ付け加えられた言葉に、アグライアは目を丸くして瞬いて。
――そうですか。
では、そうしましょうか。……セファリア」
「何」
「抱き締めても?」
「嫌」
…………
これほど真っ直ぐな愛の告白をしてくれたのにも関わらず、どうしてこうもつれない態度なのか。アグライアはいつまで経っても不思議だった。