mk98LL
2025-12-31 19:22:40
6108文字
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2025年書き納め

2025年書き納めということで、夏目友人帳メインほぼオールキャラとなりました。本当は一つのお話に全員出したかったのですが、風呂敷がデカくなりそうだったので二本立てです。
①夏目と友人達
②夏目と祓屋二人
となっております。(各話独立。CP要素はありません)

本年も大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願い致します🙇‍♀️



ささやかなる忘年会



 ジュージュー、という耳触りの良い音とともに立ち上り始める香ばしい匂いに、全身がソワソワと湧き立ってしまう。さっきから構えた箸を行儀悪く開閉してカチカチ音を鳴らしているニャンコ先生ほどでは無いが、夏目も思わず身を乗り出さんばかりの喜びを顔に滲ませていた。
 少年と一匹の猫が見つめる先にあるのは、金網の上で炎にさらされて生々しい赤色を食欲のそそる焼き色に変えていく、肉。そう、焼肉である。
 薄すぎず、けれど食べやすいように厚すぎずカットされた肉が、金網の上で炙られ余分な脂を少しずつ落としながら焼かれている。近所のスーパーで特売日に買うお肉とは一味も二味も違う。たとえこの場所が高級焼肉店であると知らなかったとしても、この肉を見て察せたことだろう。

「うん、そろそろいいかな。取り皿を……
「うぉぉお寄越せっ!早く寄越せ名取の小僧!! 私が最初だ!!」
「こら先生、暴れるな!」
「ふふ、はいはい。肉は逃げないよ」

 たしたしたしっ、と短い猫の手でテーブルを叩いて催促された名取が、苦笑しながらニャンコ先生の取り皿へ数枚の肉を取り分ける。夏目も同じように名取に皿を差し出しながら、彼の隣に座っている的場を見た。

「あの、的場さん。本当にいいんですか、こんな……
「えぇ、もちろん。連れて来た時にも言ったでしょう。今回は、今年大変お世話になった君へのお礼だと」
「もちろん先生もね。だから遠慮しないで食べてね」
「世話してやったし、巻き込まれたな! しかし感心な心掛けだぞ小僧ども!……ではさっそく、あ~ん」

 招き猫の体で器用に箸を扱うのはもはや見慣れた光景だ。丁寧な所作でニャンコ先生は肉を口へ運ぶと、味わうようにゆっくりと咀嚼して相好を崩した。

「ぅ、うまぁ~! 柔らかすぎず固すぎず、口に入れて噛むほどにほとばしる肉のうまみと肉汁! しかし余分な脂はしっかりと落とされたこの塩梅がたまらんッ……!!」
「猫が焼き肉の食レポをしている……
「くぅ、サービスの麦茶など飲んでられるか! 名取の小僧、貴様が注文したその酒寄こせ!」
「先生、いい加減にしないと怒るぞ!」

 いくらお礼という名目で歓待される立場とは言え欲張りすぎだ。そう夏目が怒るより先に、的場が手を伸ばしてニャンコ先生の席の前に自分の分のお猪口を移動させた。

「どうぞ猫さん、一献」
「むふふ、気が利くではないか!」
「ま、的場さん!? 先生を甘やかさなくていいですから」
「まぁそう言わず、君たちをもてなす為の席ですから。ほら、名取もどうぞ」
「あぁ、これはどうも。追加のお猪口と肉と、あと酒も頼みましょうか」
「うぅ……すみません、ありがとうございます」

 粗相をしたペットの始末を謝る飼い主の気持ちになりながら、夏目もまた取り分けてもらった肉に箸をつけた。程よく熱の取れたそれを口の中に入れると、驚きにはっと目を見開く。なんとも、ニャンコ先生の食レポの通りだ。高級なお肉というのはこういうものなのか、と夏目はむせそうになるのをなんとか飲み込んだ。

「お、美味しい……!」
「そうだろう? どんどん焼くから遠慮は無しだよ夏目」
「君のことですから会計を気にしているのでしょうが、私も名取もここは何度か利用して知らない店ではないので大丈夫ですよ。さ、こちらの肉もどうぞ」
「おーう! 飲むぞ食うぞー! おい的場の小僧、後で飲み比べもしてやるからな!」



*****



 あまりにあれこれと世話を焼かれるのは居た堪れない、という夏目の言葉にそれもそうかと頷いて、今や各自が好きに肉を焼いて好きに食べて飲んでいる。ニャンコ先生に至っては肉をひっくり返そうと伸ばした腕の毛が少々焦げたため、夏目が自分の分とまとめて焼いてやっていた。

「お! 夏目ぇ、あの鶏肉がもういい感じ……アーーッ!! 的場の小僧、それは私が狙っていたおにくーッ!」
「鶏肉は元々的場さんが焼き始めた肉じゃないか……ほら、こっちのカルビが焼けてるぞ先生」
「ほら猫ちゃん、新しいお酒をどうぞ」
「んむむ……仕方ない、まぁこういうこともあろ〜な!」

 それぞれ好きなものを頼んで焼いているのだが、いかんせんニャンコ先生は金網の上の肉は全て私のものだと言わんばかりに狙ってくる。いつもなら騒がれても面倒だと自分の分の唐揚げやエビフライを渡してしまう夏目なのだが、祓屋達はやはり大人か、やり方が一枚上手だった。
 事あるごとに酒を勧めて宥めてきたせいで、そろそろニャンコ先生といえどベロベロだ。抑制が効かなくなってきているが反対に誤魔化すのも容易になっている。このままではひっくり返って寝息を立て始めるのも時間の問題だろう。酒というこの猫に対しての大きなカードを切れるのは、まだ子供の夏目にはできない芸当だった。

「夏目、私の鶏肉焼けそうだから、先生にあげていいよ」
「あ、ありがとうございます。でも名取さんは良いんですか? もしかして食事制限とか……
「それなりに食べてるから平気さ。それに、確かに食べ過ぎは良くないけど……私のこの煌めきは、多少体重が増えたところで陰ることはな──」
「──名取、こっちのお酒も美味しいですよ」
……なんだか今日はやけにお酌してくれますね……?」
「ふふ、そうですか? 私は基本酌をされるばかりなので、なんだか新鮮で」

 一度ニャンコ先生との飲み比べに付き合わされたせいで名取よりも酒を飲んでいる的場は、どうやらほろ酔いになってきたらしい。注がれた日本酒を飲み干した名取から「的場さんはこちらをどうぞ」と差し出された水を素直に受け取って飲んでいる。
 常に長としての態度を崩せない一門傘下の祓屋や直属の部下もいないこの場では、それなりに気を抜くことも許されるのかもしれない。逆をいえば、的場当主としての的場静司は、いつも気を張っているのだろうか。
 じっと見つめる夏目の視線に気がついて目を合わせた的場は、普段のものより幾らか不気味さや含みの取り払われた微笑みを浮かべる。

「夏目くんと猫さんはもちろん、名取は今更ですからね。宴の席で多少隙を見せたところで脅威にならないとはわかっていますし」
「すみませんね、大して実力のないフリーランスで」
……おや、そんな風に聞こえましたか?」
「あ、あの……二人とも──」

 ちくり、と針で刺したような場の空気の歪みを感じた時、それとは比べ物にならない大穴を開けたのは、呂律の回らないおっさんの声だった。

「──うぃーっく。んみゃい肉よこせぇい。酒もだぞぉ……ひっく!!」
「ニャンコ先生!? いつの間にこんなベロベロに!?」

 大人二人がなかなか強そうなのと態度に出ないので忘れていたが、程度の差はあれ夏目以外は全員酔っ払いである。突然ひっくり返っていびきをかき始めたニャンコ先生は座布団に寝かせ、どこかぼんやりしている的場と目が座り始めている名取から酒を離して代わりに水の入ったグラスを置いた。

「そ、そろそろデザートでも頼みましょう! ここの自家製プリン、お土産にできるって聞いて楽しみにしてたので!」
「あ……あぁそうだね、夏目。すまない、さすがに少し酔ったかな。猫ちゃんは……爆睡してるし、お土産少し多めに頼もうか」
「失礼、少しぼんやりしていたようです。ですがそうですね、夏目くんの帰宅時間もありますしそうしましょう」

 一瞬だけピリついた空気など何もなかったかのように微笑む大人達に、夏目はほっと息を吐く。
 穏やかな雰囲気で食事を終えて的場の黒いカードで支払いを済ませると、夏目は寝こけるニャンコ先生をリュックサックに詰めて店から出た。
 今更だが、飲食店は基本動物は厳禁である。

「うぅ、寒……。うわ、息が白い……
「そうだね。でも、夜空は綺麗だよ。冬の空だね」
「近くの駐車場に車を回しています。星を眺めつつ、少し歩きましょう。夏目くん、背中の猫さんは重くありませんか」
「はい、大丈夫です」

 もう数日すれば、新しい年がやってくる。
 今年は本当に色々なことがあった。二人は「夏目にはお世話になったから」と今日連れてきてくれたけれど、夏目から言わせればお世話になったのはこちらの方だ。
 たくさん助けられた。たくさん教えられた。たとえ発端がニャンコ先生が言ったように巻き込まれたことにあったとしても、その中で二人は夏目をなるべく危険から遠ざけようとしてくれた。

「今日は、ありがとうございました。今日だけじゃなくて、今年も」
……うん、こちらこそ。ありがとう夏目」
「えぇ、こちらこそ。ありがとうございます夏目くん」

 改めて向き合うと、なんだか気恥ずかしい言葉だ。それでも、きちんと伝えたいから。

「来年も、よろしくお願いします」
「こちらこそ、夏目くん」
「こちらこそだよ、夏目」



*****



 それから年が明けて新年の諸々が片付いた頃のこと。

「こんにちは夏目くん。今年もどうぞよろしく」
「今度は海の幸なんてどうだい?」

 新年会という名目で二人に連れ出される夏目とニャンコ先生がいたことは、また来年のお話である。




終.