すだ
2025-12-27 12:07:26
7559文字
Public 主スバカグ
 

二人羽織

注意:嫁カグヤさんとクラリスさんが仲良くしています。苦手な方はご注意ください。
舞手スバルと嫁カグヤ。スバルのためにピリカに袢纏を作ってもらったカグヤがスバルと二人羽織をするお話。
ピリカさんとクラリスさんが出てきます。前半がピリカさん、クラリスさんのページ、後半がスバカグページになりますので飛ばして読んでいただいても。昔書いたお話の供養です。頑張っていちゃいちゃさせたので良ければ見て下さい……。



「うわ……。道理で寒いわけだ」
 スバルは上空を見上げると独りごちた。重い黒雲が覆っていた冬の里に、ちらちらと雪が降り始める。
 早く用事を済ませて温かいところへ避難しようと固く決意し、足早に目的地へと歩き出した。住民からの依頼確認、農作物の作付け状況、増設した店舗売上の把握。一通り里の状況を確認した後、竜神社へと向かう。うっすらと防寒着に積もった雪を払い、一刻も早く体を温めたい。
 道中、カグヤと出会った。恋人を見つけた花のかんばせが綻ぶ。
「スバル、あなたを待っていたんですよ」
「オレを? 何かあった?」
「渡したいものがあるんです」
 そう言って手を引かれピリカの家へ連れて行かれる。在宅していたピリカと話し込んでいるなと思ったら、手に何かを持ってこちらへやって来た。
 紅藤色の瞳が期待に輝いている。可愛らしい。
「寒がりのあなたへ贈り物です」
「これは?」
 一見すると座布団のようだが、袖があるところを見ると着るものなのだろうか。
「半纏という羽織のようなものです。中に綿が入っているので温かいですよ」
「オレのために作ってくれたの?」
「ええと……作って下さったのはピリカさんですが、素材は私が集めました」
 相変わらず裁縫は苦手なようだ。ただ、それを誤魔化すでもなく素直に言えるようになった分、スバル相手に意地を張る必要はないのだと思ってくれているようで嬉しい。
 ふたり分の半纏を丁寧に風呂敷に包み、ご機嫌な様子で抱えながら竜神社へ向かう恋人が愛しくて仕方がない。このまま抱き上げて連れて行ってしまおうか。
 怒られたら嫌なので我慢するけれど。恋人になったばかりの今は、どこまでが許されて許されないのか探っている最中なのだ。


 竜神社に着くと、早速カグヤが紺の半纏を着させてくれる。軽く背伸びをしながら着るのを助けてくれる姿が新婚夫婦のようで、にやけそうになるのを必死でこらえる。
「どうですか?」
 確かに半纏は温かかった。随分とましになった気がする。それでもまだ寒い。袖が大きく開いているため、そこから冷気が侵入するのだ。
「うん、いつもよりましかな」
 少し首を縮こませながらあたりさわりのない返答をすると、赤色の半纏を着たカグヤは困ったように腕を組んだ。
「これでもまだ寒いんですか。スバルの寒がりは相当ですね」
 ふむ、と考え込むカグヤ。しばらくすると顔を上げた。
「要は温かいものがそばにあればいいんですよね」
 そう言って半纏を脱ぎ始める彼女を何をするつもりだろうと思いながら見つめていると、ずいと距離を詰められた。
「これからあなたの半纏に潜り込みます」
「ど、どういうこと?」
「これは、二人羽織という方法です」
「ににんばおり」
「少し前にクラマさんとカイさんがやっていた宴会芸です」
「えんかいげい」
 先ほどからおうむ返しすることしかできない。情報量が多すぎる。
「クラマさんが腕役をやるんですけど、わざとカイさんの顔に熱々のおでんを当てようとして、それをカイさんが必死に避けるんです。それを見たコタロウくんがゲラゲラ笑って。本来は腕役が体役にうまく食べさせる芸なのですが、あのふたりにかかっては争いになるらしく」
 どんな地獄絵図だ。何やってるんだあの神たちは。
「おふたりがやっていたことはともかく、くっついているので温かいだろうと思いまして。やってみませんか?」
 正直なところ、どんな絵面になるのか全く想像ができない。ただ、カグヤが自発的にくっついてくれることは滅多にないので、スバルは自然と頷いていた。


 いつもは寝室として使っている畳の上にスバルを座らせ、カグヤは彼の後ろへ回り込むと正座した。そのまま半纏の中へ潜り込む。
 彼の半纏は大きめにしつらえてもらったとは言え、自分が入ると流石に窮屈だった。まあ今回は宴会芸をするのが目的ではなく、くっつくことなのだから構わないだろう。頭を出すとそこから冷気が入って寒いかもしれないから、背中の辺りで体を固定する。そのまま背中に抱きつくと、恋人の体が少し震えた。気にせずもぞもぞと手を動かし、袖から腕を出す。
 スバルの背中は昔と比べ随分と広くなった。正面から抱き合うことが多いふたりだが、実はスバルの背中に抱きつくのも好きだ。愛しい人の背に頭をあずけ、しばらく広さと温かさを堪能する。
 いつもより早い心音が、スバルの緊張を表していて胸が高鳴る。
 袖から出した手でスバルの手を軽く握った。想像通りの冷たさに苦笑する。
「冷えていますね」
 包み込むように握りしめると、ん、と吐息に似た囁きが返ってきた。
「どうですか?」
「うん、いつもよりずっとあたたかい」
 ありがとう、カグヤと礼を言われ彼女は笑顔を浮かべた。
 こちらこそ、スバルにはいつも貰ってばかりだ。少しでもお返しができたなら嬉しい。
「カグヤは寒くないの?」
「私はあなたの半纏の中にいますから、暑いくらいですよ」
「そっか、良かった」
 スバルがカグヤの手に指を滑らせる。そのまま指を組まれ、つながりが深くなった。
 無意識にこぼれた吐息が聞こえたのだろう、喉の奥で笑うのが聞こえた。
 沈黙が訪れる。聞こえるのは囲炉裏で爆ぜる火とスバルの心音だけ。
 カグヤは目を閉じた。
 密着しているためか、先程からスバルの匂いが濃く香っている。
 彼の匂いが大好きなカグヤは包まれているような安心感から、再び吐息を漏らした。
 幼い頃から知っている、愛しいもののひとつ。かわいいねえ、と抱きしめてもらうたび鼻をくすぐった優しい香り。成長するにつれ、少しずつ纏う香りが変わっていった気はするが、相変わらず心惹かれるのは変わらなかった。
 スバルは狩人なので、香りの強いものを身につけることがない。それなのに、どうしてこんな匂いがするのかいつも不思議に思う。
……カグヤ、静かだけど寝ちゃった?」
「起きてますよ」
「あ、良かった。あのさ、お願いがあるんだけど」
 他ならぬ恋人の頼みとあれば聞かない訳にはいかない。何ですか? と問いかける。
「顔が見たい」
 痺れを切らしたか。少々残念だが仕方がない。
 実は、カグヤが二人羽織を提案し、スバルの背中側から潜り込んでいたのには理由がある。
 正面からの触れ合いに、全く慣れていないためだ。正直に言えば、心臓がもたない。
 それでもスバルが悲しむのは嫌なので、わかりましたと返した。どうか、私の心臓が悲鳴をあげませんように。
 カグヤから半纏を抜き取り、スバルが両手を広げる。
「はい、こっちきて」
 素直に胸元へと擦り寄るカグヤを抱き込んで、スバルは満足そうに息を吐いた。
「やっと顔を見られた」
 笑顔でカグヤの顔を覗き込む。髪が乱れていたようで頭を撫でて直してくれた。
「顔が赤くなってる。やっぱり暑かったんだ」
 熱を持った頬を軽く撫でられる。少し、と答えると思いもよらない言葉が返ってきた。
「美味しそう」
 問い返す間もなく、頬を軽く食まれる。あまりの衝撃に何も言葉が出てこない。
「あれ、もっと赤くなった」
…………誰のせいだと……!」
「ごめんごめん」
 絶対悪いと思っていないだろう気軽さで謝られた。色恋沙汰とは無縁だった自分にとって、スバルからの愛情表現は非常に心臓に悪い。
 とろけた瞳に見つめられると、いつも居心地が悪くなる。目線を逸らそうとすると、こっちを見てとあごを柔く掴まれる。恋人同士の触れ合いは幼馴染の頃とは比べものにならないくらい甘い。
 というか、スバルが今までとは考えられないくらい甘い。触れてくる手は優しく、熱く、全身で愛していると告げられているようでドキドキする。
 もう少し順を追って接して欲しいとさえ思ったりする。それこそ、慣れるまでは手を繋ぐことから始めて欲しい。
 一度そのように提案してみたことがあるが、じっとこちらを見つめた後「カグヤのペースに合わせてたらおじいちゃんになっちゃうから、頑張って慣れて」と言われた。こんなの、慣れる日がくるのだろうか。
 でも、スバルが離れると淋しいと思ってしまう自分もいて、無意識に温もりを求めているのだと恥ずかしくなる。
 恋とは想像以上に嵐のようだ、としみじみ考えてしまうカグヤだった。
 髪を弄っていた恋人の手が、耳の輪郭をたどり、頬へと滑る。感触を愉しむようかのように触れられた後、親指で下唇をそっとなぞられる。
 期待に肩が揺れてしまう。
 唇に吐息を感じ、ぎゅっと目を閉じた。訪れる柔らかい感触に胸を甘く締め付けられる。心臓は先ほどから全力疾走した時のように早鐘を打っている。全く落ち着かないが、もっとくっついていたい。恋人の背に手を回すと、腰を強く抱き寄せられた。


「こうしてずっとくっついていられるなら、冬の里にいるのもいいね」
「少しは温かくなりましたか?」
「うん。まだ寒いけど、カグヤがくっついてくれるなら平気」
「そんなにいつでもくっついていられませんよ」
「ええー」
「あなたは里長なのですから、もう少ししゃんとして下さい」
「みんなの前ではしゃんとするよ。カグヤの前だけはいいだろ?」
 暗に、この甘えたなスバルを見られるのはカグヤだけと言われ、彼女は眉根を寄せた。頬が熱を持つ。
「はは、しかめっ面なのに赤くなってる。かわいい」
……もうスバル!」
 いつの間にか降っていた雪は止み、空は雲ひとつなく。ふたりの他愛ないやり取りは静謐な銀世界に溶けていった。